KIRINJIが11月20日、ニューアルバム『cherish』をリリース。彼らの現在がパッケージされた9曲を収録。YonYonや鎮座DOPENESSといった客演からも彼らの音楽に対する視野の広さとセンスを感じさせる。そして特筆すべきは前作『愛をあるだけ、すべて』から引き継がれているサウンド面での変化。彼らが目指す「今の音」とは、そして音楽にとって「今のもの、昔のもの」の境目はどこにあるのか。KIRINJIの堀込高樹と千ヶ崎学に話を聞いた。【取材=小池直也/撮影=村上順一】

『愛をあるだけ、すべて』の延長線上にあるサウンドにしようと思った

『cherish』通常盤

――アルバム完成おめでとうございます。制作はいつ頃からされていたのですか?

堀込高樹 アルバムの曲を書きはじめたのは去年の年末くらいです。春先にシングルを出す、という話があったので、それ用にいくつか書き溜めていました。これなら出してもいいかな、と思えたものが「killer tune kills me feat. YonYon」、「Almond Eyes feat. 鎮座DOPENESS」、「雑務」だったんです。その後ライブが続いて7、8月くらいからまた本格的に曲作りに戻ってから、9月に仕上げたという感じです。前作『愛をあるだけ、すべて』の評判が良くて、自分たちとしても新しい段階に入ることができたなと思いました。次はその延長線上にあるサウンドにしよう、ということを考えながら曲作りに入りました。

千ヶ崎学 そうですね。僕としても前作の感じが良かったので、特に相談はありませんでしたが「そういう方針でやっていくんだろうな」と感じていました。

――前作は「打ち込みと生演奏の融合」といったコンセプトだったと思います。今作は全体的にミックスの感じがまた変わったなという印象がありましたが。

堀込高樹 以前はミッド(全体的な音の中域部)を聴かせたいという欲が強くて、前作からベース(全体的な音の低域部)やキック(バスドラム)を出す傾向になっています。今作はそれをより意識的にやりました。それは「killer tune kills me feat. YonYon」をミックスしてくれたD.O.Iさんの力が大きいです。あれくらい音のレンジ感がないと、今のメインストリームで流れている音楽と並べたら物足りなく感じるんですよ。あの曲を基準にしながらアルバムとしての低域の感じや広がりが決まっていきました。

千ヶ崎学 僕自身もベースに工夫をしました。生のベースに関しては録音の段階から意識して、できるだけ音のレンジを広く録ろうと。でも下が広すぎても良くはないんですよ。下がいるんだけど、ニュアンスがきちんと聴こえる帯域もしっかり出すという兼ね合いです。前作は「どうしたらこういう感じになるんだろう?」という手探りがありましたが、やっていくうちに理解できていきました。なので今作は曲ごとに機材のチョイスもしやすくなりましたね。目標とする低域の質感もぼんやりイメージできていて。

 あとは前作よりも生々しい感じを加えたいと思っていたので、それをどうミックスで残してもらうか、デフォルメしてもらうかということも考えていました。具体的に参考にした曲はありませんが、ラファエル・サディークを高樹さんと聴きながら「この低音の質感は面白いね」と意識はしていました。同じようになるものでもないですけど、ああいうたっぷりした低音は今の音ですよね。

――先行配信となった「Almond Eyes feat. 鎮座DOPENESS」はミュージックビデオも再生数が伸びています。鎮座さんをフィーチャーした理由は?

堀込高樹 鎮座さんは前からリスナーとして聴いていて声が良いなと思っていました。フロウもリラックスした感じもありつつ、バシっと芯がある。他のラッパーとは確実に違うなと感じました。外人っぽいというのかな。でもラッパーじゃないですか(笑)。RHYMESTERは面識もあったし、年齢も近いからお願いしやすかったんですけど、鎮座さんは遠いなとは思ってて。でも、彼がU-zhaanさん(タブラ)や環ROYさん(ラッパー)とやっているプロジェクトではヒップホップ的なトラックではないものもあるじゃないですか。一方でFNCY(ZEN-LA-ROCK、G.RINAとのユニット)もR&Bというか80'sの流れのなかにあるものですよね。

 ああいうポップ的なものもやるのであれば、今KIRINJIがやろうとしていることにも興味を持ってくれるのかなと思ってお願いしました。この曲はメロディが8ビートなので、それだけで仕上げてしまうと割とまったりした曲になってしまう。ラップが入ればきっと流れができるんじゃないかなと。オファーしてからは、なかなか返事が来なかったので興味ないのかなと心配でしたが「いいですよ!」というハイテンションな返事が突然来ました(笑)。

――千ヶ崎さんから見た鎮座さんの印象はいかがでした?

千ヶ崎学 最高ですよね。ヒップホップは好きなのですが、ラップそのものについてはド素人で、言葉を詰め込むものだと思い込んでいたんですけれど、彼は詰める部分と隙間のある部分のバランスがカッコいいですよね。間があるのにグルーヴが続いている感じ。ベースもそうですが、グルーヴって休符がすごい大事なんです。鎮座さんはそれを感じるラップだったし、声質もかっこいいので驚きでした。

堀込高樹 僕はもっと8分音符ぽいラップが来るのかなと思っていたのですが、意外に16分音符系で彼にしては詰め込んだ感じなのかな。メロディが8ビートで隙間が多いから、そこに隙間の多いラップが来ると温度が上がらない感じになる。だからもっと細かい動きがあった方がいいと判断したのかもしれません。後半は歌っぽくなって、それもまたいいですよね。FNCYで彼の歌も聴いて、めっちゃイケてると思っていましたから。歌とラップがシームレスになったものも増えてきていますが、彼には歌物をもっとやってほしいですね。

――MVは海外のリスナーからもコメントが付いていました。

堀込高樹 YonYonをフィーチャーしてから途端に海外のリスナーが増えた感があります。やっぱり韓国の人が聴くし、韓流ポップスが好きな海外の人も聴いているだろうし。それからヴェイパーウェイヴで日本のポップスに触れた人が「何これ!竹内まりやみたいな曲じゃん」というノリで聴いていたみたいですね(笑)。それでKIRINJIの存在を知ってMVをチェックしてくれたのかもしれません。

――ちなみに「killer tune kills me feat. YonYon」のボーカルのリバーブ感とかはヴェイパーウェイヴ的な音楽を意識されていたんですか?

堀込高樹 特にしていません。サウンドの低域がどっしりしてたので、上に乗るメロディはきれいに伸ばしたら気持ちいいだろうなと思っただけです。

記事タグ

関連記事は下にスクロールすると見られます。