毎年この時期になると話題になるのが、大みそか恒例『NHK紅白歌合戦』の出場者についてだ。特にその年を代表するアーティストが肩を並べる初出場組の発表は、音楽ファンから高い注目を集めている。昨年はSuchmosやあいみょん、米津玄師など若者を中心に高い人気を誇ったミュージシャンが初出場を飾ったが、今年の有力候補の一組に名が挙がっているのは、Official髭男dism(ヒゲダン)だ。改めて彼らの魅力について紹介したい。

 ヒゲダンの楽曲の魅力を語るに当たって、実は大きな要素を占めているのがその印象的なイントロだ。たとえば、彼らの実質的な出世作となった『ノーダウト』のギターとピアノによる幕開け感の強いインパクトがあるイントロや、すっかり代表曲となった『Pretender』の聴く者の心をぐっと掴んで離さない求心力の高いギターのアルペジオなど、ふと耳にしただけでも印象に残りやすいイントロが多い。ヒット曲の多くはサビにキャッチーな歌メロや覚えやすいリフなどがあしらわれていることが多いが、ヒゲダンの楽曲においてはサビはもちろんのこと、イントロが何よりもキャッチーでメロディアスなものが多いように感じられる。

 最近では若者を中心にYouTubeやサブスクリプションサービスをきっかけに新しい音楽に出会うという層が増えている。CMやドラマなどのタイアップをきっかけにヒットする楽曲も今でも多い。現にヒゲダンもブレイクしたきっかけはドラマ・映画の主題歌に前記の楽曲が抜擢されたことだった。ただ、その前にYouTubeやサブスク配信によって若者の間で注目を集め、そこからヒットの火がつくパターンが多いのが現状だ。

 YouTubeやサブスクでは楽曲のさわりであるイントロで判断されてしまう可能性が非常に高い。リスナーはザッピングするように音楽を聴いているため、イントロに求心力がないと最後まで聴いてもらえないかもしれない。その点、ヒゲダンの楽曲はイントロでの求心力がかなり高く、一瞬でリスナーの注目を集める瞬発力を持っているといえるだろう。

 さらに、サビのキャッチーさもヒゲダンならではのものになっている。作詞作曲を手掛ける藤原聡(Vo,Pf)が伸びやかに歌い上げるメロディは一見聴き取りやすく覚えやすいためカラオケなどでも人気の楽曲も多いが、いざ歌ってみると細かな節回しが特徴的なものであることに気がつくだろう。あくまでJPOP的でありながら、R&Bの要素なども感じられる独特のグルーヴ感は“歌えそうで歌えないキャッチーさ”を生み出し、何度でも聴きたくなる、歌ってみたくなる楽曲としての魅力を醸し出している。

 <グッバイ/君の運命のヒトは僕じゃない/辛いけど否めない でも離れ難いのさ(Pretender)>

 <Let me show 神様も ハマるほどの 大嘘を oh/誰も ハリボテと 知るよしもない(ノーダウト)>

 <Stand By You いつもStand By You/涙のターミナル Uh Uh 並んで立っている(Stand By You)>

 これらなど、サビの一番印象に残る部分の歌詞にリズミカルでありながら情感豊かな言葉を配している点も、ヒゲダンの楽曲の求心力を高めている要素のひとつだろう。ヒット曲の特徴として“キャッチーさ”は必ず言及されるものだが、ただわかりやすく覚えやすいだけではその場で消費され、忘れ去られてしまう危険性すらある。そんな諸刃の剣であるキャッチーさを完璧に味方につけ、“ヒゲダンらしさ”の域にまでブラッシュアップしてしまった点に、彼らの楽曲がこれほどまでに多くの若者の心を虜にしてやまない理由があるのではないか。

 また、“ヒゲダンらしい”キャッチーさのほかに若者の心を虜にした理由として挙げられるのが、藤原の手掛ける歌詞に溢れる瑞々しさだ。

 ヒゲダンの楽曲の歌詞の多くが、「君と僕」の物語を描いたものと「僕」自身の人生について描かれたものとに分けられる。壮大な展開が魅力的な『イエスタデイ』では<うつむいて 君がこぼした 儚く生ぬるい涙/ただの一粒だって 僕を不甲斐なさで/溺れさせて 理性を奪うには十分過ぎた>と不器用で儚い青春の恋を文学的な言葉選びで描き出し、静かな曲調ながらライブでも映えるアジテーションソングとしての存在感を示す『Stand By You』では<どんなにすごい賞や順位より 君のそばに居られることが1番誇らしい>と素朴な愛を歌い上げている。対してアニメの主題歌に起用された『FIRE GROUND』では<掴み取るのだ理想像を>と情熱的な闘争心を鼓舞し、『ノーダウト』では<時代の声に 責め立てられる筋合いはない>とブレないしたたかな信念をシニカルな視点を交えながら描き出す。

 いっそ貫禄を感じるほどのトラックメイキングとは相反して、藤原が描き出す歌詞には瑞々しい若者の等身大の感情が滲み出している。卓越したリズム感に裏付けられた言語センスとともにスッと耳に馴染む言葉たちは、時に聴く者の背中を力強く押し、時にさりげなく胸を抉る。そのミニマルでありながら普遍的な物語は多くの若者の心を掴み、それだけでなくかつて若者だった大人たちの胸にも迫るのだろう。

 Official髭男dismの楽曲が若者を中心に多くのリスナーの心を虜にした理由は、彼らにしか成しえないキャッチーな音楽性と瑞々しい歌詞世界にある。彼らの音楽はきっと若者やコアな音楽リスナーに限らず、多くの人々を巻き込みながらより大きなムーブメントへと進化していくに違いない。紅白歌合戦初出場が決定した暁には、その前哨戦として彼らの一世一代の晴れ舞台をしかと見届けたいと思う。【五十嵐文章】

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