歌う力というのは汲み取る力

佐藤竹善

――今作にはクイーンの「Don't Stop Me Now」が収録されていますが、竹善さんが思うフレディ・マーキュリーの凄さはどこにあると思いますか。

 ドラマチックなところだと僕は思います。基本的にフレディはロックンローラーなんですけど、クラシックやオペラもすごく聴いていた人じゃないですか。「ボヘミアン・ラプソディ」はオペラを知らなければ作れない作品で、アルバム『QUEEN II』はロックオペラですから。

 ミュージカルはオペラにジャズやロック、アメリカの様々な音楽が混ざって出来上がっていくんですけど、それら全てを踏まえた上でフレディのボーカルスタイルが存在していて、あのドラマチックさが生まれているんだと思うのですが、決して完全に丁寧な仕上げはしていないと感じます。それはフレディが粗削りさも命であるロックンローラーだからでしょうか。

――しっかりルーツが出ているんですね。

 例えばプロの歌手がある曲をカバーすると、上手いんだけど「これじゃない」と感じる時があると思うんです。それは、あまりに上手に表現されるとその歌ではない、といった現象が起きていて、ロックではそれが顕著にあります。ちょっとしたビブラートひとつでも、放り投げるように切るのか、しっかりかけて終わるのかで、もともと不良だったイメージの歌が優等生の歌になってしまう。そういったところをフレディはよくわかっていたんじゃないかなと思います。おそらくその感覚はポール・マッカートニーやジョン・レノン、ロバート・プラントなどからも吸収したところなんじゃないかなと。

――それがフレディから感じられるんですね。

 才能のあるシンガーというのは、その歌が持っているテンションやエモーションには敏感だと思っています。歌う力というのは汲み取る力だと思っていて、きれいに歌えば良いわけではない、かと言って下手でいいわけでもないんです。味のある歌ということで片付けてしまう方もいるかも知れませんが、それは周りが決めることであって、歌う人は上手になるために努力しないといけないと思うんです。だけど上手に歌うことだけがうまいということではなく、これは楽器を弾く人にも通じることだと思いますが、本当に難しいところです。

――ビブラートのお話がありましたが、ここでどのくらい揺らそうなど、細かく考えて歌うこともあるのでしょうか。

 あります。その音楽によって全部違うんです。揺らす回数もそうですけど、ビブラートのピッチ(音程)感というのもあります。ジャストのピッチを基準にして掛けるのか、少し上で掛けるのかなどあるんです。例えば民謡は上でビブラートを掛けるんですよ。昔、スタジオでコーラスを重ねる時に実験したことがあって、全部ジャストで重ねるとオフコースのような感じになって、上で重ねるとゴスペルっぽい感じで、下で掛けると演歌のような感じになったんです。

 あとピッチというところで面白い話があって、マイルス・デイヴィスはチェット・ベイカーのトランペットが微妙にフラットしていることから、そのフラット感が影があって良いということを教えたようです。それでチェット・ベイカーはフランスに行って成功して、逆輸入でアメリカでも成功するんです。

――土地によって趣きが変わるのは面白いです。さて、今回ミックスエンジニアは曲によって変えていますが、どのように選ばれたのでしょうか。

 僕はいつもそうなんですけど、アレンジャーの方が好きなエンジニアさんを選んでもらって頼むことにしています。やっぱりその方がアレンジャーさんの理想のサウンドに近づけると思うので。今回は曲によって演奏者もそれぞれ違うし、エンジニアも3人なので、その統一感をどう出そうかというのはずっと考えていて、マスタリングで最終的には統一感を出してもらいました。それがマスタリングの本来の役割でもあります。そのなかで最近素晴らしいマスタリングエンジニアに出会いました。temasの吉良(武男)さんという方なんですけど、すごく研究されていて、YouTubeで流れるとこうなるとか、配信だとこうなるとか、語らせたらずっと語れてしまうくらい博識です。

――その中で竹善さんのリクエストはどんなものだったのでしょうか。

 僕からのリクエストとしては、サブスクリプションで聴いてもCDで聴いても、同じ印象で誰もが楽しめる音にして欲しいということだけでした。音源の良い仕上がりというのはそこだと思うんです。前回のインタビューでもお話ししましたが、僕は家でもあまり凝ったオーディオのシステムを敢えて組まないようにしています。それに行き着いたのは、グラミー賞も獲得しているステファン・マッカーセンという、マスタリングエンジニアと仕事をした時に聞いた話がきっかけでした。ステファンは「多くの人はカーステレオや小さなヘッドホンステレオ、ミニコンポで聴いている。このスタジオには世界最高峰の機材が揃っているけど、それはリスナーがどんな環境でも、同じように気持ちよく聴こえるようにと考えてセットしているんだよ。良い機材じゃなきゃ良く聴こえないものは良い仕上がりではないんだ」と話してくれました。

――最後に11月24日と12月28日に『Rockin’ It Jazz Orchestra ~Live in Tokyo & Osaka~』がありますが、どんなライブになりそうですか。

 最近はあまり使わないんですけど、Rockin' Itという「最高だね」「イケてるね」といった意味を持つ言葉があるんです。この言葉に全ての想いが入っています。今回演奏する予定の曲も、ジャズが原曲のものはほとんどなく、ロックやポップスからの選曲になっています。それらがジャズのビッグバンドで料理することで、音楽は自由で楽しいんだということが大きなテーマとして伝わってほしいなと思っています。このRockという単語からできているRockin' Itという言葉とジャズオーケストラで演奏する想いが、うまく混ざり合ってステージから伝わったら嬉しいです。

(おわり)

ライブ情報

『Rockin’ It Jazz Orchestra ~Live in Tokyo & Osaka~』

▽2019年11月24日(日)

東京・中野サンプラザホール
17:00開場/ 18:00開演

▽2019年12月28日(土)

大阪・オリックス劇場
17:00開場/ 18:00開演

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