絵本作家の作品からインスパイア

――「エンブレム」というタイトルについてですが、ブレずにずっと持っている自分の中にある芯みたいなものの象徴でしょうか。

 そうですね。「エンブレム」=紋章という意味なんですけど、『食戟のソーマ』であれば、反逆者チームのメンバーが腕に巻いている黄色いバンダナがそうです。21年バンドをやってきて、そういう証のようなものがたくさん出来たという実感があったので、それを『食戟のソーマ』の物語になぞらえて書きました。

――自分にとってのその証とは、具体的に言うと何ですか?

 私もジュンも私生活を含め、nano.RIPEありきですべてを考えているので、nano.RIPEというバンド名がその証になっていると思います。それこそ名字よりも大きな存在で、nano.RIPEを始めてから21年ほとんどの人が私のことを“nano.RIPEのきみコ”と呼ぶわけですから、自分の姓名は実は“nano.RIPEきみコ”なんじゃないかと思うくらいです(笑)。

――新しくファンになった人は、そもそもnano.RIPEというバンド名がどうして付けられたか知らない人が多いですよね。ホームページにも由来は書いていないし。どういう経緯で付けられたか、改めて教えてください。

 “nano”は10のマイナス9乗という単位のことで、“RIPE”は果実が実るとか熟すという意味です。ほんのわずかだけ熟していて、これからまだまだ熟して実っていけるようにという願いを込めてnano.RIPEと付けました。つまり、まだ始まったばかりで、のびしろがたくさんありますという意味です。結成から21年経って、年数的にはもうnanoではないかもしれないので、そういう意味では、初心を忘れないための自分たちにとっての戒めのような意味を持つかもしれません。

――間に“.”を入れたのは、当時のこだわりですか?

 記号的なものにしたくて。すぐ覚えられなくても、「小文字にドットが入ったバンド名」みたいに、字面がそれこそエンブレムのように印象に残ってもらえたらなと思いました。

――また「エンブレム」のMVは、ストーリー仕立てになっていますね。

 主人公の男の子は裏設定で、ジュンの子どもの頃なんです。だから劇中にはゲームボーイなど、ジュンが子どもの頃にあったものが出てきます。その子どものジュンと友だちの少年が、近所で有名なお化け屋敷へ冒険しに行き、そこで登校拒否をしている中学生の女の子と出会います。それで大人が女の子を連れ戻しに来るんですけど、少年は悪い大人をやっつけるために勇気を振り絞る。でもその大人は女の子のお父さんで、少年の勘違いだったんですけど、女の子はその勇気に感謝して大事なエンブレムを少年にプレゼントして、自分も勇気を出して学校に行くという現代版の冒険譚です。この「エンブレム」という曲も、みなさんが勇気を出して一歩を踏み出すきっかけになったら嬉しいです。

――そしてカップリング曲「トロット」にも、出羽さんが編曲で参加しています。出羽さんとは、どういったやりとりをしたのですか?

 最初はメールやデータでやりとりをして、本番のレコーディングで、スタジオで実際にお話をしながら制作を進めました。出羽さんは、基本的には無口な方ですけど、ジュンとは音楽や機材の話で盛り上がっていましたね。すごく勉強になったし、特に「トロット」の編曲は、自分たちだけでは絶対に出てこないアイディアがたくさんあったので、また一緒に出来たらいいなと思いました。

――バイオリンが入っているのが印象的で、それもカントリーとかジプシーバイオリンのような雰囲気だと思いました。

 そうですね。今まで弦を入れる時は、ヴァイオリン2本とヴィオラ、チェロのカルテット(四重奏)か、ダブルカルテット(カルテットが2人ずつ)だったので、ヴァイオリンとチェロが1本ずつというのは初めてでした。でもそれがすごく新鮮で、面白い音作りになりました。それに全部は把握していませんけど、他にもいろんな音を入れてくださっていて。

――歌詞はおとぎ話的な雰囲気で、すごく温かい曲だなと思いました。

 こういう温かいメロディなら、少し重たい歌詞でも素直に聴いてもらえるんじゃないかと思って、それなら今だから言えることを書こうと思って書きました。だからこの曲は、聴いてくれた誰かの背中を押したいと言うよりも、のちのち自分の背中を押す曲になったら良いなという気持ちでいます。でも今までもそうなんですけど、自分のためにと思って書いた曲が、結局みんなの側に置いてもらえる曲になっていて。この曲もそんな風になったら良いなと思います。

――タイトルの「トロット」という言葉は、どこから?

 「ヨルガオ」のMVで、外山光男さんという絵本作家さんにアニメーションを描いていただいたのですが、外山さんのアニメーション作品の一つに『trot』という題名の作品があるんです。私はそのお話がすごく好きで、その物語に出てくる存在が私にもいたら良いなと思ったんですね。「トロット」という言葉は、そこからインスピレーションを得ています。

――その「トロット」という存在は、何なのでしょうか?

 トロットは、聴く人それぞれで形は何でもよくて。家族や恋人、友だちなどの身近な存在だと、近すぎてむしろ言えないことがあるじゃないですか。でも、この存在だけにはそういう話も素直に言えてしまう、そういう存在がトロットです。出羽さんは録り終えた後に、「トロットは僕の中で、白くてフワフワした綿菓子のような妖精のイメージだ」とおっしゃっていました(笑)。

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