オランダ人・ピアニスト/コンポーザーのユップ・ベヴィンが10月16日、はじめて手がけた映画音楽『「楽園」(オリジナル・サウンドトラック)』を発売した。CM曲などを手掛ける広告音楽家として活動する傍ら2015年に自費で『ソリプシズム』をリリースし、これまでに3枚のアルバムをリリースしてきた。今作は綾野剛が主演を務める、瀬々敬久監督の映画『楽園』を彩るサウンドトラック。「映画音楽をやってみたい」と言っていた彼にとって今作は念願の映画音楽デビューとなった。ユップに新作について、広告音楽家だった時代も振り返ってもらいつつ話を聞いた。【取材=小池直也】

日本ならではのものは尊重したい

「楽園」ジャケ写

――日本に来られるのは何回目ですか。

 3回目ですが、もっと来ている感じもします(笑)。日本は大好きで、東京以外の都市にも行ってみたいですね。クリエイティブな面で刺激を受けるし、安全なので居心地がいいんですよ。日本のデザインはセンスが良いし、食文化や音楽、ナイトライフも奥深い。2000万人以上が東京に住んでいて、ギスギスした雰囲気がないのは不思議ですよ。アムステルダムはもっと小さな都市なんですけど、とっ散らかっていますから(笑)。それに比べて、こちらは整然としている印象があります。

――前作『ヘノシス』のリリースから少し経っていますが反響はいかがですか?

 『ヘノシス』は自分がこれまで作ったアルバムのなかで、最も野心的な作品だったと思います。いろいろな意味で妥協せずにやりたいことをすべて詰め込みました。もちろん、だからこそのリスクも承知のうえでの制作です。そういう意味で一度聴いただけでは理解できないと思いますし、時間をかけて何度も聴いていただくことで分かってもらえるアルバムですね。

 過去の2作が聴きやすくて空間を満たす様なサウンドだったの比べて、今作は能動的なリスニングが必要なんです。今では「1曲を最初から最後まで聴く」ということも難しいのに、2時間近くを費やさなければいけない。それでも僕の挑戦したかったビジョンを体験してもらうためには、その時間が必要でした。聴き終わった後に「その甲斐があった」と思っていただければ幸いです。ただ、作る前も後も満足感に変わりはありません。

――現在は新しいプロジェクトを進めている?

 小さなプロジェクトはあるんですけど、そこまで動いてはいません。今は新しいスタジオを作っているんですよ。映画音楽の作業もできるような機材を入れて、そこで新作の制作もできればと考えています。

――そして音楽を担当された、映画『楽園』も公開になりました。過去のインタビューでも「映画音楽をやってみたい」と語られており、今回は念願の映画音楽デビューになりますね。

 「愛華」という曲とサウンドトラックには入ってない短い曲を2曲書き下ろしています。なので、そこまで制作に時間はかかりませんでした。でも日本映画で自分の音楽が使われるなんて、不思議な感覚です。日本に来るまでよくわかっていませんでしたが、到着してメディアの方々と話しているうちに「すごいことなのかもしれない」と実感しているところです。舞台挨拶の時は俳優の皆さんと同じマイクロバスで移動するので、それぞれの名前も覚えなきゃと思っています。

――どの様な経緯で映画音楽をやることになったのですか。

 ちょうど『ヘノシス』のレコーディング中にレーベルを通してお話をもらいました。「スコア(楽曲)を書いてほしい」という依頼だったのですが、制作中で時間がないと伝えたら「では既存の曲と新曲1曲でどうか?」と提案してもらえたので、承諾したんです。瀬々(敬久)監督がなぜ私を選んでくれたか、いろいろと話してくれたんですけど、詳細は忘れてしまいました(笑)。

――映画はご覧になった?

 制作を始めた時に観たので少し前にはなりますが、しっかり2度観ましたよ。最初は両親と一緒でしたが、初めて観る日本映画に息子の音楽が鳴っていることに驚いていて面白かったです。2度目は彼女と観て、僕もその時にだんだんと内容が理解できてきました。展開がスロウな映画なので、これが典型的な日本の作品なのかとか色々なことを考えたり。もどかしさを感じましたが、何度か観ると腑に落ちる部分がありましたね。それでも半分くらいしか分かっていない気がします。

 音楽の使われ方は監督にお任せでしたが、とても良かったです。ただ自分は日本人じゃないので、これが普遍的に通じるものなのか、この国ならではの表現なのかは分からない部分もありました。でも、これは瀬々監督の映画ですから彼にまかせたいという気持ちと日本ならではのものは尊重したいという気持ちでしたね。その両方を考えた上での評価です。

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