ピアニストの清塚信也が7月17日、『SEEDING』を発売した。本作は清塚が「10年近くやりたいと思っていた」と語る、バンド形式インストゥルメンタル作品。清塚と各演奏者のポテンシャルは最大限に引き出され、生々しい即興性を帯びる“嘘のない音楽”。リハーサルや楽譜の準備などは最小限という「余白を重要視するコンセプト」、そして音楽家としての本来の姿が音となった本作詳細について、さらに、邦人男性クラシック・ピアニストとして史上初となる、8月16日の武道館公演に向けての心境などを語ってもらった。【取材=平吉賢治/撮影=木村陽仁】

インスト、バンド、10年ごしの想いを形に

清塚信也

――『SEEDING』で聴ける演奏は、各パートが凄く活き活きとしていると感じました。

 ありがとうございます。日本の方は歌が入っていないインストはあまり聴かないと思うので、どういう反応か楽しみでもあるんです。インストって普段聴かれますか?

――わりと聴くほうかと思います。ギタリストのインストやエレクトロ、古めのテクノなども…。

 テクノは僕も大好きなんです! ゲームが好きというところからも影響を受けていると思うんですけど。最近のゲーム音楽は凄いですよね。

――昔のファミコンなどは8bit音源とかでしたから、凄く進化していますよね。清塚さんのピアノ演奏についてですが、聴くと光を感じるような感覚が生まれるんです。

 それ、よく言ってくださる方が多いんです!

――ある種の共感覚が引き出されるというか、清塚さんの演奏が持つ力なのだと思います。科学的な解明は難しい感覚なのでしょうか。

 人間なんてこの空間で生きていますけど、もっといろんな次元があるかもしれませんよね。これだけ科学が発展しても解明できないこともあるし…ピアノで言ったら、同じ条件で同じ重さでピアノを弾くのに、演奏する人が変わると音の質が変わって聴こえるのは、物理学者が追求してもそういう式は出せないそうです。ある意味、次元の違う話というか。

――面白いですね。科学では解明できない魅力ですか…。清塚さんの演奏から感じる光が今作では輝かしく乱反射していると感じました。

 みんなパワーを持った人達が集まりましたからね。

――YouTubeで今作をご紹介されていた動画を拝見したのですが、そこで「ロックやインストバンドをやりたかった」と仰っていましたね。

 かれこれ10年近くやりたいと思っていました。僕の活動が幅を広くしていくほど、アコースティックで美しい音楽を求められる方向になっていったんです。クラシックがルーツであるということもあると思うんですけど。求められることに応えることは、音楽家として非常に大事な使命だと思うんです。つまり、自分が出したいことも大事だけど、そればかりではなくて「何を求められているか」ということにアンテナを張り巡らせて、それに応える、ときには自分の中にない音楽かもしれないけど、相手が求めるのであればやるというのも、音楽家のひとつの使命だと思うんです。その「応える」ということを考えていくと、ロックやバンドとは違う方向に行っちゃったんです。

 だから、裏切りたくなかったというか。せっかくみんなで一緒に成長してきた音楽なのに、「もうやーめた!」みたいに思われるのはとても不本意なので、裏切るなら凄く良い形で裏切りたいと。「今回それを10年ごしに」と思ったのは、武道館公演があるからです。「武道館でやるから」と言ったら大抵のことは許されるだろうと(笑)。

――凄い場所でやるわけですから、確かにそうかもしれません。

 この節目というか、そこに乗じて僕の中にもう一つあるセカンドラインとしてあったインストバンドやロックなど、そういう音楽を世に出せるのが今だと思えたんです。あとはバンドのメンバーが揃ったことが大きかったです。長年探し求めていたメンバーばかりだったので。

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