役柄に必要な浮遊感、湖畔の静けさ

――10年のなかで今の自分を形成しているターニングポイントを挙げるなら?

 挙げたら100、200はあると思う。本当にぐちゃぐちゃすぎて(笑)。ただ、最近の話になりますけど、今回頂いた、『警視庁ゼロ係』で僕が演じる神沼という役は、少しダークで、「静かな所に行かないと」という気がしたんですよ。去年からのゆっくりした時間を経て、今年に入ってやっと深海から出てきて、そしてこの役と巡り会って。それで、スウェーデンの田舎の湖畔にいたい、という気持ちになって、行ってきたんです。

 スウェーデンって、ミステリーものの印象が強かったり、寒くてダークな北欧のイメージがあったり、さらには森と湖が豊かで、すごく静かなイメージもあるじゃないですか。なので、そこで時間を過ごして、本を読んだりしながら、役作りをしたくて。

 目を開けたときに、鳥が飛んで、花が咲いている――。それが僕の中ではすごく豊かなことで。白鳥が泳いでいましたよ。僕は何をしているわけでもないし、そもそも一人だし。あの風景は、今実際に撮影に取り組んでいる今でも、心が帰る場所になっていますね。スウェーデンに帰るというわけではなく、あの光景そのものに帰るというか。その旅の心境がずっと今も継続している感じで、役作りとしても良かったし、これからの自分にとっても良いと思いますね。

――役作りで考えると、今回の役柄が凶悪殺人鬼ということで、少し正反対の場所にいるような気もしますが。

 むしろそこですね、今回の役が本来いる所は。ただアクションは、エクストリーム(過激)だけどね。人を殺したり、極端なアクションに出るんですけど。

――正反対と言いながら真逆の話になりますが、凶悪な殺人鬼について犯罪者と向き合った精神科医の話があって。全てではないけど、犯罪者は幼少期の体験が大きくかかわっているようで、例えば親から虐待を受けるなど孤独で寂しさの裏返しがあると。その話を聞くと湖畔という孤独も似ているような。

 僕も結構、下調べしているなかで見つかった共通点というのがあって、あまり一括りにするのはよくないんですけど、なんとなくあるのは、どこか人生のタイミングで力を奪われたとか、失った経験がある人が多い。というのは、寂しいことじゃないですか。例を挙げるなら児童虐待やDV、それと近しいものを受けたりとか。自分の圧倒的な力を失った経験がある人がすごく多くて。プラス、性的思考、フェティシズムが異常に強い人が多い。その濃度があまりにも多いから極端な行動に出る人が多いという。

 でもトルーマン・カポーティの『冷血』(実際に米国で起きた殺人事件をもとにした小説)を読んでいたりすると、殺人犯の一人、インディアンの血が流れている方の人はすごく寡黙で普通の人だったりもする。かといえば、すごくファンキーでサイコパスのような人もいて、いろんなタイプがいるんですけどね。

 神沼はというと、「謎」なんですよね。存在自体がすごく謎。だからそうありたい。それを表現するためには浮遊感だったり、漂っている感じが大事で。それってどういうことかというと、人から見た場合、質量がないように見えるというか、つかめないというか。僕にとってはそれって静かなことなんですよね。

――質量がない、ということは存在感がないということですよね。誰しもが持っているものかもしれないですよね。

 そうそう。『存在の耐えられない軽さ』(ミラン・クンデラの小説)という本もあるぐらいだし。自分が何者でもない感覚やどこにも染まらない、ハマらない感覚とか、みんなある程度持っているものだと思う。質量を持つことに憧れて生きてきた人もいるだろうし、僕もその一人だったりするわけですけど。

 それでも、他人から見ると、その軽さはすごく素敵に映るかもしれない、というか。軽さそのものが、この物理で考えると、すごく特殊で素敵というか。それで、その静けさというところを愛せるようになれば良いなと。でも、何かの化学反応が起きたら、雲が雨にもなる。ベースは水だけど、何かの拍子に氷になるとか。神沼もそういう極端な行動に出る特性を持っているわけだけど…。

――何かの刺激やタイミングを受けたときに裏返るというか、反応するというか。

 そうです。神沼はそういうものを持ち合わせていながらも、謎めいていて、あまりにも軽くて、浮遊感のある存在なんだなと思っています。

――撮影はいかがですか?

 すごく静かで、純情で平穏です。それで満たされている。ちょっとした笑いもあり、肩の力が抜けた、クリエイティブな環境、空気の中にいますね。

――共演者とは?

 先ほどの話と同じですね。ただ、今回僕はすごく特殊な立ち位置じゃないですか。みなさん基本的にはシーズン3まで一緒にやって今回シーズン4。だからすごく素敵な雰囲気がそこにはすでにあって、僕はそれを、どちらかというと外から見ている感じですね。パッと目を開けて素敵な景色が目の前にあったら気持ちがいいものじゃないですか。ただ僕はその景色の一員、一部ではないんですよ、今回の役は。そういう感覚ですね。

中野裕太

中野裕太

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