wacciの楽曲「別の人の彼女になったよ」が「泣ける」としてネットで話題になっている。同曲がリリースされてから約9カ月が経った今、YouTubeのコメント欄に投稿されたコメントを発端に、TwitterなどのSNSで拡散されている。YouTube再生回数はショート、フルバージョン合わせて約400万回、3000件以上のコメントが寄せられ、YouTubeやSNSにはカバーする動画やアンサーソングを上げる人も増えている。しかし、なぜここまで反響があるのか。男性バンドであるwacciが女性目線で「別の人の彼女になったよ」と歌う詞に共感するリスナー。改めてその理由を探りたい。【平吉賢治】

元カレとのエピソードがTwitterで拡散され、「泣ける」と話題に

 発端はYouTubeのコメント欄に書かれた元カレとのエピソード。女子高生がYouTubeのコメント欄に綴った元カレとのエピソードがTwitterで拡散され、「泣ける」と話題になった。

 このコメント以外にも、「号泣した」「エモすぎる」「元カノと復縁したくなる」「ほんとは一緒に幸せになりたかった」など、リスナー各々の失恋のエピソードや恋愛観、「別の人の彼女になったよ」の歌詞の切なすぎる情景に反応したコメントで埋め尽くされているのである。

 同曲の歌詞は、恋人と別れた彼女が現在の彼氏の魅力を語りつつ、「本当は元カレとの関係の方が居心地が良かった」ということを遠回しに伝えているような、切なさがある。1番の歌詞から、ずっと現在の彼氏の長所を挙げていくのだが、次第に元カレへの忘れられない愛情が滲みだす様子がまざまざと綴られている。

 未練とも、元カレとの決別に対する後悔とも、復縁の想いとも少々異なる、あるいはそれら全てが含み合わさったようなやるせない心情が表現された歌詞に、自身の想いを重ねるリスナーの涙腺を刺激している。

リリースから9カ月経った今、なぜ注目されているのか?

 楽曲と歌詞を受けて改めてタイトルに着目すると、「別の人の彼女」という言葉の選び方から、「今の恋人と幸せに過ごしている」「元カレであるあなたとの関係は、今となっては良い思い出だ」というような、スッキリと決別した現状・心情であることを、否定しているようにも感じることができる。

 「本心は、心底では、元カレと幸せになりたかったのでは――」という想像をかきたてられる。

 老若男女、多種多様な恋愛観があると思われるが、恐らく、恋愛において最も辛く、永く想いが消えずに、いつでも愛情が再燃するタイミングが潜伏している場合として、「好きだけど、別れた」というシチュエーションがあるのではないだろうか。あるいは、「別れて初めて、大好きだったことに気付いた」という場合。

 本当に好きだが、相手のことを本気で想いやると、相手にとっての幸せを願った結果、自分は相手が心の底から大好きだが、この人とはここで「別れる」という選択をとる場合が、恋愛においてはあるのではないだろうか。

 選択をとることもできずに、相手のことが好きなまま、死別した場合、その想いはどこに行ってしまうのだろうか。どう扱えば良いのであろうか。恋愛を成就しようにも、復縁しようにも不可能となってしまったシチュエーションは筆舌に尽くし難く、辛く、切ない、悲しい、その思いを通り越して、あまりにも不本意に停止してしまった時間のなかで、一歩も身動きがとれないような心境なのかもしれない。

成就でも進展でも決別でも思い出でもない

 楽曲「別の人の彼女になったよ」のMV、YouTubeのコメント欄には、リスナーのリアルな心情を綴った内容が続々と書き込まれている――。

 「2人でこのまま幸せになる」「この人とは、別れる」「新しい恋人と過ごす」という、どの選択肢とも異なる、「別の人の彼女になった」という、wacciの表現は、様々な反響を呼び起こした。

 <あなたも早くなってね 別の人の彼氏に 私が電話をしちゃう前に>という一節で締めくくられるこの歌は、主人公である彼女の、現在の彼氏との現状と、素の自分で一緒に過ごせた、以前の彼氏への愛情がしたためられているようだ。

 “良曲”と評され、その作品の内容がストレートにSNSで拡散したりコメント欄が盛り上がることは、近年わりと一般的なアクションであるようにも思えるが、wacciの「別の人の彼女になったよ」の反響は特異な側面を見せている。

 「元カレを引きずる」という、開けることを躊躇する宝箱を覗き込むような想いを歌った曲。いつまでも消し切れない、心が忘却を拒絶するような優しく強固な情念を綴った曲。そのようにも捉えられるwacciの「別の人の彼女になったよ」は、「忘れられない人」「本当は一緒に幸せになりたかった」という、成就でも進展でも決別でも思い出でもない、あまりにもエモーショナルな愛のかたちを呼び起こし、聴く者のさまざまな想いを解き放つように昇華させている。

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