ソロアーティストのWakanaが4月26日、東京・中野サンプラザホールでツアー『Wakana Live Tour 2019 〜VOICE〜』の東京公演を開催した。「約束の夜明け」など1stアルバム『Wakana』に収録の楽曲を中心に、スペシャルゲストに本ツアーの音楽監督=武部聡志を迎えて、一青窈の「ハナミズキ」とKalafinaの「oblivious」をパフォーマンス。全22曲、美しい歌声で集まったファンを魅了した。【取材=榑林史章】

令和では、Wakanaの曲がもっとも歌われるように

Wakana(撮影=川田洋司)

 このツアーに向けて、「私という一人の人間の声を、みんなに聴いていただき、それを表明するツアーにしなければいけないという気持ちから、ツアーのタイトルを『VOICE』と付けました」と、以前のインタビューで話していたWakana。MCでもそのことに触れ、Wakanaというボーカリストとしての存在感をいかんなく発揮した。

 「今夜は、ツアー『Wakana Live Tour 2019 〜VOICE〜』にお越し下さってありがとうございます。アルバム『Wakana』からもたっぷりお届けします。私という一人の人間の声をたっぷり堪能してください。ステージにいるミュージシャンの皆さん、見えないところにもたくさん支えてくださるスタッフさんもいて、そしてみなさんと一緒に作っていくライブです。どうぞ一緒に楽しんでください」

 「約束の夜明け」で幕を開けたライブ。ピンスポットを浴びながら歌う様子は、民族的なサウンドも手伝って、霧の立ちこめた湖畔に一筋の光が差し込めているような幻想的な雰囲気だ。観客は息を飲むように、ステージの彼女に注視した。

 温かくやさしい、包み込むような歌声で聴かせた「流れ星」。牧歌的な雰囲気とどこか民族的なリズムが1つになって、日本ではないどこかの国のようで、でもすごく身近さを感じさせる空気が会場に広がった。Wakana自身も、波音を表現する打楽器の一種であるレインスティックなどで演奏に参加した。

 見どころの一つになったのは、このツアーの音楽監督を務める音楽家の武部聡志をスペシャルゲストに迎え、武部のピアノ1本に合わせてカバー曲を披露したコーナーだ。武部は昨年のWakanaのソロコンサートでも音楽監督を務めた他、アルバム『Wakana』に収録の楽曲も手がけている。番組やイベントで出逢って以来、ソロアーティストとしてのWakanaの活動を支える一人だ。

 「お邪魔します」と笑顔で登場した武部聡志。「絶好調ですね」との言葉に、「からかわないで下さいよ〜」と言いながら、ホッとした安堵の表情を見せたWakana。彼女が武部に寄せる信頼の厚さがうかがえた。

ライブのもよう(撮影=川田洋司)

 2人で披露したのは、一青窈の「ハナミズキ」とKalafinaの「oblivious」の2曲だ。「ハナミズキ」は、「僕がプロデュースを手がけた曲で、平成でもっともカラオケで歌われた曲だそうです。令和では、Wakanaの曲が、もっとも歌われるようにとの気持ちを込めて選びました」と、武部。また「oblivious」は、「武部さんから、『一度この曲をピアノで弾いてみたかった。そのピアノでWakanaに歌ってほしい』とリクエストしていただきました」と、選曲の経緯を説明したWakana。

 Wakanaの歌声と武部のピアノだけという編成による2曲は、バンドやオーケストラのサウンドで歌うのとはまったく違う、たった2人とは思えない圧倒的な空気を作り上げた。Wakanaの歌声は、水を得た魚のように活き活きと、武部のピアノの上で遊ぶようだ。それをやさしく導く武部のピアノも、子どもを自由に遊ばせながら、決して目を離さない親のように、程よい距離間を保ちながら常に側に寄り添っている。「oblivious」は、ピアノ1本のアレンジで聴き応えがあり、集まったファンは、ステージから放たれる歌声とピアノに聴き惚れるようにして、ジッと息を潜めて耳を傾けた。

時代に流されないエバーグリーンな歌声

Wakana(撮影=川田洋司)

 「アルバム『Wakana』では、さりげなく時間をテーマにしていました。こうして話している瞬間から、言葉は過去のものになり、時計の針は絶対に過去には戻りません。しかし人は、いつでも時間を過去に戻して、思い出に浸ることができます」

 そんなMCを導入にして歌った「僕の心の時計」は、昨年のツアーのために、武部聡志がWakanaに贈った曲。メロディの繰り返しが印象的な楽曲で、歌詞はWakana自身が手がけた。武部から「等身大のWakanaを書いたほうがいい」と、アドバイスを得て書いたそうで、これまでの時間を振り返りながら、過去を愛おしく大切に思っていることが感じられる。最後のフェイクやハイトーンからは、歌詞に書き切れなかった思いが溢れているようで、歌い終えるとその歌声に大きな拍手が贈られた。

 また、MCでは、カバー曲の歌詞を紹介しようとしてど忘れしてしまう場面もあり、そのアワアワした様子は実に微笑ましかった。普段はおしゃべり好きな彼女の素顔がちらりとかいま見えて、以前から彼女を知る者にとっては、「通常営業だな(笑)」と思わせて安心した。そんな歌声と素のギャップもまた、Wakanaの魅力の一つだと感じた。

 ひとたび歌い始めれば、その空間を一瞬でどこか別の景色へと作り替えてしまうような、圧倒的な存在感を持った歌声を持つWakana。時には母親のようなやさしさで聴く者を包み込み、曲によってはすぐ側で聴く者を見守りそっと背中に手を置いてくれる。ポップスシーンにおいて、その歌声は唯一無二だ。そんなWakanaの歌声=VOICEを、余すことなくたっぷりと届けたライブ。目まぐるしく移り変わっていくポップスシーンで、ブレず揺るがずそのまま凛とあり続ける、彼女の歌声はエバーグリーンな魅力を持っていると感じた。

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