井上陽水が4月17日と18日、東京・NHKホールで全国ツアー『50周年記念ライブツアー『光陰矢の如し』~少年老い易く 学成り難し~』の東京公演をおこなった。ツアーは4月7日の新潟を皮切りに、6月30日の鳥取まで全24公演をおこなうというもの。デビュー曲「カンドレ・マンドレ」や「夢の中へ」などヒット曲を惜しみなく投入し観客を楽しませた。ツアー4本目、東京公演初日となった17日のもようを以下にレポートする。(※ネタバレあり)【取材=村上順一】

「あかずの踏切り」で幕開け

井上陽水(撮影=有賀幹夫)

 アンドレ・カンドレとしてデビューし50年を迎える陽水。最前線で歌い続けて半世紀というとてつもない数字だ。数々の名曲を生み出した50年でもある。今宵のライブでも多くの名曲たちを聴くことが出来た。メドレーとアンコールを含むと26曲、まさに光陰矢の如しと、この50年を振り返らせてくれた。

 ホールを見渡すと観客の年齢層の幅も広い。世代関係なく刺さる音楽だということがよく分かる光景だ。きっとそれぞれに青春時代の曲があって、生で聴くことで、より鮮烈に当時の記憶が甦らせてくれるセットリストだった。

 楽器が壮観に並ぶステージには紗幕が下がり、そこにツアータイトルが投影され、存在感を放っていた。開演時刻になるとサポートメンバーに続いて、ゆっくりと陽水がステージ中央の定位置にスタンバイ。アコギを手に取り、73年にリリースされた日本初のミリオンセラーとなった3枚目のアルバム『氷の世界』より「あかずの踏切り」でコンサートの幕は開けた。身体を弾ませるリズム、ゴージャスに広がる稲泉りんと佐々木詩織によるコーラスも、そして、個性あふれる陽水の歌声に耳と心を瞬間的に奪われる。

 ステージ後方には、LEDを使用したリングが楽曲によって色が変化していく。視覚的にも楽しませてくれた。陽水は「皆さんお揃いで…」と声を発すれば、一気に場が和む。独特な調子のトークで、音楽以外でも“陽水ワールド”で楽しませてくれる。このMCコーナーを密かに楽しみしている人も多いことだろう。どんなエピソードが飛び出すかは、ツアーに足を運んで自身の耳で確かめて欲しい。

 心にそっと寄り添うような歌が、会場を包み込んだ93年にリリースされた32枚目のシングル「5月の別れ」。ステージも桜色と新緑を感じさせるグリーンのライティングが曲のイメージを後押し。そして、陽水のお気に入りテレビ番組のベスト3に入るというNHK『ブラタモリ』のエンディングテーマ「瞬き」は、アコースティック楽器が活躍。オーガニックなサウンドのなかに長田進(Gt)によるスライド・ギターがアクセントとなり、その上に乗る陽水の歌声は寄せては返す波のよう。心地よい時間がゆっくりと流れていく感覚。

 自身の子どもが生まれた時に制作されたと話す1曲「海へ来なさい」では、とても繊細な演奏と歌を堪能させてくれた。今堀恒雄(Gt)が奏でるガットギターの音色に山木秀夫(Dr)のシンバルワークが彩りを与える。そして、陽水は椅子に座り語りかけるように歌い紡ぐ。どこかストーリーテラーのような趣も感じさせた。

 興味深かったのは陽水が初めて共作したと話す記念すべき1曲で、陽水と忌野清志郎、2人の才能の相乗効果で生まれた「帰れない二人」。2009年に58歳という若さで他界した忌野と、こたつに入りながら制作したというエピソードを話す陽水は楽しそうで、何ともその時の情景が浮かんできそうな歌を届けてくれた。

メドレーで振り返る50年

井上陽水(撮影=有賀幹夫)

 近年、コンサートは休憩を挟み1部と2部に分かれている。陽水は「最近このコーナー(休憩)が一番人気なんです」とアイロニックな笑みを浮かべ、2部はNHK『ブラタモリ』のオープニングテーマの「女神」でスタート。ブライトなブラスサウンドがゴージャスに、サルサのリズムが異国の地へいざなってくれる。ガラッと雰囲気を変え、幅広い音楽性で楽しませてくれる。

 50周年ということで、少しでも沢山の楽曲を届けたいとメドレーで代表曲を披露。デビュー曲「カンドレ・マンドレ」や中森明菜に提供した「飾りじゃないのよ涙は」、美久月千晴(Ba)による色気のある音色に心奪われた「ワインレッドの心」など7曲を披露。それぞれの記憶に訴えかけるようなメドレーは「もっと聴きたい!」と思わせるものがあった。

 メドレーを終え、陽水はハンドマイクで披露したのは、名曲「少年時代」。歌詞に登場する<風あざみ>は陽水が作った造語で、「鬼あざみがあるなら、風あざみもあるだろう」と、何とも陽水らしいエピソードを先日放送された NHK『SONGS』で語っていたのも記憶に新しい。だが、ノスタルジックな情景を映し出す説得力がこの曲の歌詞とメロディにはある。

 コンサートも終盤戦に。小島良喜(Key)が奏でるオルガンの音色がシリアスに響く「最後のニュース」。陽水の歌はリアルな言葉を放ちながらも、幻想的な空間を生み出すという一見矛盾した世界観を作り上げる。代表曲でコンサートでも披露されることが多い曲ではあるが、平成元年にリリースされたこの曲を、平成が終わろうとしている今歌うことで、この曲の味わいも変化し感慨深いものがあった。そして、ライブもフィナーレへ。本編ラストは観客もスタンディングでノリノリで楽しんだ「氷の世界」。陽水もブルースハープを粋に響かせ、ステージを後にした。

 アンコールを求める手拍子は、ピッタリと揃った一体感。その手拍子の音色に誘われるように陽水とサポートメンバーがステージに登場。74年にリリースされた4枚目のアルバム『二色の独楽』に収録された「御免」を演奏。アクセル全開の爽快なアレンジで、コンサートが始まったばかりかと思わせるようなテンションだ。その勢いでヒット曲「夢の中へ」。イントロのフレーズが鳴っただけで心躍らせてくれる。陽水も雄叫びを上げながらテンションの高いパフォーマンス。

 ラストは名曲「傘がない」。“ない”という絶望を恋愛をベースに表現した陽水の持つ深い世界観は圧巻。その圧倒的な音と言葉の渦に飲み込まれてしまう。観客もじっくりと身を委ねるように歌と演奏を聴き入っていた。印象的なサビの一節<行かなくちゃ 君に逢いに行かなくちゃ>。この能動的な言葉が切ないメロディとともにホールに響く。70歳を超え、さらなる“深化”を続ける井上陽水。6月30日まで続くツアーは1公演毎に違う表情を見せてくれることだろう。

記事タグ