KEMURIのボーカリスト・伊藤ふみおが3月27日、6年半ぶりのソロアルバム『FRIENDSHIP』をリリース。今作の作曲陣には1966年生まれのアーティストが集まったイベント『ROOTS66』で共演している斉藤和義や難波章浩(Hi-STANDARD/NAMBA69)、マイク・パーク(Skankin‘ Pickle/The Bruce Lee Band/The Chinkees)、津田紀昭(KEMURI/THE REDEMPTION)と豪華な顔ぶれが集まる“FRIENDSHIP”の賜物。レコーディングには高田漣、K5(NAMBA69)、tatsu(LÄ-PPISCH)、山口美代子(BimBamBoom)、岡愛子(BimBamBoom)に加え、THE REDEMPTION、田中‘T’幸彦(KEMURI)、コバヤシケン(KEMURI)らも参加。“現在の伊藤ふみお”が生々しい音として表現された「究極に肉を削ぎ落としたサウンド」となった。無意識下に直接響く楽曲の背景に迫るとともに制作中のエピソードや彼の考える音楽について話を聞いた。【取材=平吉賢治】

「音の密度が薄い音楽・グルーヴを作りたい」

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――今作を聴いて、スカ・パンクのルーツにもあたるボブ・マーリーやクラッシュなどの、レゲエやパンクの作品で感じる気持ち良さを感じました。

 僕もメチャメチャ聴きましたよ。ボブ・マーリーとかクラッシュとかは。

――クラッシュのアルバム『London Calling』を聴いた感覚と似たものを感じました。クラッシュがパンクというストレートな音楽性から、スカ・ジャズ・レゲエなどの要素を取り入れた様に、これからの新境地に期待感を抱かせてくれるような、そんな感触があります。

 嬉しいですね。とにかくクラッシュはよく聴いたんですよ。今回のアルバムを作るにあたって。でも、久しぶりに聴いて…ジョー・ストラマー(クラッシュのフロントマン)が大好きだったんだけど、ジョー・ストラマーが亡くなって凄く悲しくて聴けなくなっちゃって。クラッシュが好き過ぎてもう全然聴いていなくて。前にソロアルバムを出したときにライブでクラッシュの「Rock the Casbah」とかカバーしたりしたんだけど、家で聴くまでには至らなくて。でも、こういう機会だと思って、逃げないで、避けないで聴こうと思ったんです。ボブ・マーリーもそうだし、スペシャルズもそう。そのとき色んなものを聴いていたんですけどね。そのとき思ったのは「音の密度が薄い音楽・グルーヴを作りたい」ということで。

――その点は正に『FRIENDSHIP』で感じられます。

 そうなの。やっぱり一発録りで出来れば…まあPro Tools(音楽制作・編集システム)は使うけど、一発録りで“せーの”で顔を見ながらクリックもカウント出しもなしに音楽が出来ないかなというのをそこから感じたんです。ギターの音はKEMURIとは違う音・グルーヴ・音楽性にしたかったので、ドラム・ベース・ギターの音にはもの凄くこだわって。

――その点もアルバムから凄く伝わってきました。ドラム・ベース・ギターがどっしりと中心となっているという印象で。

 ドラムは16ビートをけっこう叩きまくれる人、それで女性がいいなと思っていて一緒にやってもらったりとか。ギターはテレキャス使いの女性のギタリストいないかなと。それで探したりとか。

――今作では錚々たるメンバーが参加していますね。

 3年くらいに渡って録音した楽曲を詰めたアルバムなので、一番先に僕が作った曲はもう正に言ったようなメンバーと作ることができていると。テレキャスターというギターもジョー・ストラマーもテレキャスターだから近いものがあるのかもしれないですね。

――とにかくドラム・ベース・ギターが生々しいと感じました。Pro Toolsなどで、やろうと思えばデジタル処理などでいくらでもクリアなサウンドにできると思うんです。でも、あえてそれをせずに生々しさを残して、その方が伊藤さんが表現したい精神が音として表れるのだなと感じました。

 合ってます。何て言うのかな…カウントやクリックから自由になって音楽をやりたいってことですかね。

――実際にクリックは鳴らしていない?

 ない。クリックを使ったのは最初の方にやった何曲かだけじゃないかな? 「YOU」と「POSITIVE」。あとは「LOVE」も使ったかな…。それくらいじゃないですかね。斉藤和義曲の「Beautiful Dreams」もクリックを使ってないはず。

――3曲目「Long Train Running」は特にそう思ったのですが、聴いていて凄く気持ち良いんです。音を耳で聴いて脳が判断するというより、魂というか、なんとも言い表せない器官が先に反応するんです。それもクリックという機械的なものに標準を合わせなかったということが関係しているのでしょうか?

 いいドラムでいいベースで、いいギターを弾いてくれたというのはもちろんあるんだけど、案外できるもんだなってね。クリックをやらないでもできたのは、そういう風に感じてもらえるのは、正に「何だか説明できないけど気持ち良い」という、やっぱりそれが音楽なんじゃないかなって。「それをやってみたいんだよね」って言って、山口美代子ちゃんと愛ちゃんとたっちゃん3人が「面白いからやってみましょう」と言ってくれたからできたという。

 即決でできたからああいう風になったわけで。「ちょっと心配だからできないよ」って言われたらできないもんね。今回は本当にライブアレンジで、その場の踏み替えでやったりね。

――足下の機材などをリアルタイムで踏み替えながらサウンドを変えつつ録音した、ということでしょうか?

 正にそう。エンジニアの方も好き勝手なことを凄く汲み取ってくれて良い音にしてくれたから。

――サウンドが良い感じにザラっとしているというか、それこそが説明できない感覚としてダイレクトに響いていますね。後からミックスなどで綺麗めの処理を施すとそうはならないだろうなと。

 「Long Train Running」はKEMURIでは一回もやったことのないようなグルーヴだし、凄く面白い楽曲に仕上がりましたね。コーラスも含めて。

――女性メンバーを加え、メンバーや作曲陣に豪華ゲストが多数迎えられていますが、伊藤さんの“ソロアルバムとしての統一感”があります。アルバムにテーマを設けているとしたらそれは何でしょうか?

 「今の伊藤ふみおをちゃんと伝えたい」というのがテーマだったんですね。大きなテーマです。それは、ボーカルが真ん中にいて、その上で色んなグルーヴ、自分が気持ち良いと思うリズムをやりたいなと。色んなグルーヴがあるけど、自分にできること、自分が好きなことってメインはやっぱりスカやレゲエだったりするので、それをしっかりやろうというのがあったんだよね。それで走り始めて曲を作り始めたりして。「こういう音楽をずっとやっていく」という意思表示みたいなものですね。

 そこでまたタイトルに戻るんですけど、僕はスカやレゲエが好きだけど、やっぱりスカ・パンクバンドを始めたとき凄く面白くて楽しかったんです。ミクスチャー音楽としてのスカというか。スカとパンクが混ざったもの。スカ・バンドを別にやろうと思っていなかったし。今回はスカの曲を作って、「Rusty Nail」という曲を最初にこのバンドで作って一緒にやったんです。スカ・バンドがやりたいわけじゃないんだけど、やっぱりみんなのカラーを出してもらえるようにというね。

 自分的な、スカとかレゲエとかをベースにおいたミクスチャー音楽。それは“FRIENDSHIP”というところに立ち戻ると、一人だけでやっていたら起こらなかった化学反応で、誰かとやることによって、出会いによって生まれた音楽なんだなと。音楽で言ったらミクスチャーの派生系・発展系だと思うし。お酒で言ったらカクテルみたいなものかなと。一つひとつは個性が強いお酒が、作る人間と配分で新しいお酒になるみたいなものが凄くやりたいと思って。

――例えばカクテルベースのウォッカやジンをスカやレゲエに置き換えると「今回はウォッカとかじゃなくてテキーラベースでやろう」というわけではなく、そこはスカやレゲエを原液的な役割として残しつつ、という感じでしょうか?

 そうですね。音楽的に言うとメインでガツンとくるもの、例えばスコッチ・ウィスキーだとするとそれが一番メインでくるところはスカとかだったりね。人で言うとそれはやっぱりウォッカベースとかジンベースというか“伊藤ふみおベース”でなくちゃと(笑)。色んなお酒やフルーツジュースが入ったり、どれくらいシェイクするのかとか…そういうのをやりたかったですね。

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