Aimerが歌う「カタオモイ」が、2016年のリリースから約2年半が過ぎた現在もLINE MUSICや歌詞検索サイトで上位にランクインするなど若い世代から変わらぬ支持を集めている。更に、3月20日には約1880万のフォロワーを持つ防弾少年団(BTS)がツイッターでこの「カタオモイ」を聴いているとツイート。95万件を超える「いいね」がつき、アジアでも注目されていることをうかがわせた。この曲は、andropの内澤崇仁が提供、プロデュースしたもの。彼女の特長でもある深みのある歌声を際立たせる曲調が、曲の世界観と聴く者の距離感をより近づけさせており、この“密接度”がリピートを生む要因の一つとなっている。当時から内澤の楽曲センスは注目されていたが、こうした現象もあって内澤の楽曲提供力が再び脚光を浴びそうだ。

歌手の声質も考慮した楽曲づくり

 21日、映画『L○DK ひとつ屋根の下、「スキ」がふたつ。』(※○は白抜きのハートマーク)が公開された。恋に奥手な女子高生・西森葵(上白石萌音)、学校一のイケメン・久我山柊聖(杉野遥亮)、そして柊聖のいとこ・久我山玲苑(横浜流星)の同居生活のなか巻き起こるピュアな三角関係を描いた青春恋物語だ。その主題歌「ハッピーエンド」を歌うのは葵を演じる上白石。そして、その曲を提供したのが内澤だ。

 デモを聴いた上白石は運命的なものを感じ「この曲を歌いたい」と思ったという。さらに、歌詞を読んで「男性の内澤さんがなぜこんなにかわいい歌詞を書けるんだろう、なぜこんなに恋する女の子の心がわかるんだろう」とその表現力の高さを絶賛した。

 上白石に楽曲提供するのはこれで二度目だ。最初に提供した「ストーリーボード」と同様に、上白石の声質や表情を十分に考慮したうえで、映画の世界観を反映させた作りになっている。この楽曲を通じて改めて、内澤の感性と観察力、そして表現力の高さがわかる。その理由を具体的に示す前に、過去の提供曲を紹介したい。

 ▽Aimer「カタオモイ」
 彼女の特徴的な深みのある歌声は、壮大にすることも閉鎖的にすることも可能だ。その特長を内澤はあえてマイナー調にすることで深みを与えている。Aimerとは、andropの曲時間8分にもおよぶ大作「Memento mori with Aimer」でも共演しているが、こちらもマイナー調寄りだ。どちらかと言えば、本音と建て前、相手との距離感の違いなど、対比を付けるときにマイナー調を使っているように思える。提供曲には「twoface」もあるが、こちらはメジャー調寄り。しかし、描いている歌詞からは届かない想いへの鬱憤が見え隠れする。

 ▽上白石萌音「ストーリーボード」
 Aimerとは対照的にピュアさが特長の彼女の歌声。大人の女性というよりも幼さが残る清楚なイメージだ。純粋な彼女の声質を活かすようにメジャー調を使用。どこか俯瞰しているAimerへの提供曲と比べ、一緒に向き合い、一緒に泣き、一緒に笑うかのようだ。歌詞の世界観もストレート。そして今回の楽曲もそれらが使われている。

 ちなみに、マイナーとメジャーの話でいえば、フジテレビ系ドラマ『グッド・ドクター』の主題歌でもあったandropの「Hikari」は、様々な思い、希望と絶望が交差するドラマの世界観に沿うように、晴れやかでもなければ暗くもない、メジャーでもなければマイナーでもない“不安定”さがある。しかし、光を差すようにサビや終盤では安定化させている。

時間軸と間が作り出す余白

 上白石が歌う「ハッピーエンド」について深く掘り下げてみたい。過去に提供した「カタオモイ」、「ストーリーボード」と共通するのはまるで映画のような音楽であることだ。Aメロ、Bメロはあえて起伏を設けずに、曲の主人公が一人で語っているかのように進んでいく。しかし、内に込めた思いが溢れ出すかのようにサビで一気に開け、力強くなる。感情が抑えられないと言った感じだ。

 Aメロはこういう歌詞だ。

せっかくのケーキも失敗作
夢のサプライズも上手くいかない
あなたの声が好きです
言えないけど

 好きな人に夢中で上手くいかない、あるいは、好きな人に届けたいけど上手くいかない、など様々な捉え方ができるが、いずれにしてもシンプルに流れるメロディに乗る歌詞はまだ恋愛へと発達していない片思い、心に静かに燃える思いが募っている。

 さらに、<失敗作>や<上手くいかない>というネガティブな要素は、尻上りに音程を上げることで前向きさ、あるいはピュアさに変換している。さらに<あなたの声が好きです>では<好き>の「き」を2秒ぐらい伸ばした後に「です」と繋げる。「好きーーです」のように。伸ばさずにつなげることもできるが、あえて「間」を設けることで、好きであることを改めて自覚させているようだ。

 こうしたメロディがAとBときて、サビでは一気にストリングスが加わり、感情を高まらせていく。歌詞はこうだ。

好きで好きで大好きなの
何千もの星の下で巡り会う奇跡
あなただけなの
夢はハッピーエンド
あなたとお揃いのストーリーがいいの
歳をとるたび好きになるのよ

 物語は曲が進むことで進展していく。2番の歌詞にはこう描かれている。

あと1センチが遠いよ苦しい…
だめだ だめだ 期待したってどうせ
ぎゅっとされたらそれで済むのに

 この歌詞ではスネアの音を強調させ、いかにも歩いているような描写を作り出す。うまく行かない恋を演出するのにギターの音を揺らしてみたり、チェロを使ってみたりと、夢の中であることを演出するためにピッツィカートを入れてみたりと、様々な音を挟んで情景を作り出す。まるで主人公が何をしているか、その行動が見えてきそうだ。いわば、作品のテーマがあり、配役を決めて、脚本を作っていく、そんな作りに似ている。

 そして、内澤の面白いところはそれを様々な年代に見させるような仕掛けを入れていることだ。10代の若い恋愛のつもりで聴いていたものが突如として<歳をとるたび好きになるのよ>という言葉が入ってくる。恋を寄せる相手が同級生なら、中学あるいは高校は3年間、大学は4年間、社会人であればその年数はもう少し長い。「歳をとるたび」という複数年をさす言葉が、この恋が卒業をした後も続いているのか、それとも在学中なのか、あるいは社会人になってからのものなのか、時間軸の余白が生まれ世代が限定されにくくなっている。実に巧みだ。

androp初の恋愛ソング「Koi」の効果

androp「Koi」

 感情の揺らぎを表現しているのが「ハッピーエンド」であれば、直接的な表現で歌っているのは、andropの「Koi」だ。内澤が初めて書く恋愛ソングだ。恋愛ソングはこれまでも書いてきたのではないか、と思われるが公ではこれが初めて。となるとこれまで捉えていた楽曲の世界観が様変わりする。

 ところで、内澤が歌うと直接的な表現になる。同じ曲だとしても内澤がボーカルを務めると、男の情感が溢れてくる。たとえ、先の「ハッピーエンド」を内澤が単独で歌ったとしてもまた変わった情景が生まれてくるだろう。そしてそれはきっと切なくなる。この楽曲「Koi」もAメロやBメロはシンプル。しかし、歌詞には二面性がはらんでいる。前向きにも捉えることができるし、後ろ向きにも感じる。ただ、なぜか内澤が歌うと切なさがこみ上げてくる。サビを引用する。

物語が僕を拒んだって
誰かが運命を定めたって
会いに行くよ
どこにだって
探し続けるよ
出会えた頃とまた同じように
目を合わせて そっと笑って

 「物語が僕を拒む」、「物語」の部分は「運命」でも良いところだが、あえて「物語」としている。運命は定められたものであり、変えることができない。しかし物語なら変えられる。そこに含みがある。その運命を「誰かが運命を定める」に使っている。人が定める運命なら変えることはできる。ここにも含みがある。

 ここまでの流れを読み取れば、うまくいかない恋という印象もあるが、その後に出てくる<出会えた頃とまた同じように 目を合わせて そっと笑って>という歌詞は、限りなく再び会うことができない、ということがうかがえる。なのに、その前には「どこにだって 探し続けるよ」としている。始まっているのか、始まっていないのか、終わっているのか、終わっていないのかが激しく交差する。

 しかし、それがかえって、人々のいずれかの境遇に刺さるのである。万人に共感を与える余白がそこにはあるのだ。内澤流の余白がこれまでの楽曲に多く存在する。そして、先の通り、これをAimerが歌ったなら、上白石萌音が歌ったなら、あるは他のアーティストが歌ったら、きっと物語は変わるだろう。

対応力を支える感性と観察力

 もう一つ、内澤の特筆するべき点は、対応力の高さがある。上白石は先の映画で「男性の内澤さんがなぜこんなにかわいい歌詞を書けるんだろう、なぜこんなに恋する女の子の心がわかるんだろう」と語っていたが、恋愛曲、それも若い世代だけでなく大人のプラトニックな恋愛や、どの世代にも通じるような感情を描くことができる上、「Hikari」のように社会的なものを描くこともできる。

 それを可能にしているのは、彼の感性であり観察力であり、音楽家としての表現の豊かさだ。

 歌は当然ながら、詞とメロディで表現するものだ。詞を補うのはメロディであり、その逆もしかりだ。内澤が作る歌はその「補い方」が絶妙なのである。これに加え、歌う歌手の声質によって歌詞と曲調を反転させたりもする。それは映画で言うところの脚本力にあたる。適切な配役に適切な脚本、そして適切な演出、それが全て整っているのが内澤と言えるだろう。

 andropは10周年を迎え益々活躍が期待されるが、内澤個人としても楽曲提供力やプロデュース力は今後、更に注目を集めることだろう。【木村陽仁】

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