ドイツ・グラモフォン120周年記念した『Yellow Lounge Tokyo 2019』が3月12日、森ビル デジタルアート ミュージアム:エプソン チームラボ ボーダレスで開催された。今回の出演者にはアップライト・ピアノから発するシンプルな音楽がストリーミングで圧倒的な支持を受けているオランダのコンポーザー・ピアニストのユップ・ベヴィン、そして今年の1月にドイツ・グラモフォンと専属契約した現代で最も独創的かつ訴求力のあるヴァイオリン奏者のマリ・サムエルセン、さらにスペシャル・ゲストとしてデビュー25周年を迎え音楽家として新たな境地へ踏みだした人気ギタリストの村治佳織。イベントの模様を以下にレポートする。【取材=村上順一】

村治佳織with伊藤ゴロー

村治佳織(撮影=Rina Asahi+cyando)

 昨年9月に日本に本格上陸し、世界最古のクラシック・レーベル=ドイツ・グラモフォンが、“一流の音楽を気軽に楽しむ”というテーマのもと、コンサート・ホールを抜け出してクラブをはじめとした様々な会場で実施している新コンセプトのイベント。会場に到着すると目の前に広がるのは、岩の上に滝が流れ落ち、花が散っていくアート「人々のための岩に憑依する滝」。現実離れしたファンタジックな作品空間の中でのライブで、観客は用意されたクッションの上に座り、床に座っての観覧は屋外にいる感覚も与えてくれた。

 トップバッターを務めたのは、今回のスペシャルゲストで、日本が代表するクラシックギタリストの村治佳織。笑顔でギターを持って椅子に座り、「ムーン・リバー」でステージの幕は開けた。柔らかいタッチで弦を奏でていく村治。楽曲の持つ表情を丁寧に紡ぎ、ガットギターの調べは穏やかに癒しの空間を演出。小気味よいテンポで情景を映し出したジブリ映画『ハウルの動く城』より「人生のメリーゴーランド」、続いては音楽プロデューサーでミュージシャンの伊藤ゴローが参加し「November」、スティングの「Shape Of My Heart」、ラストは「Glashaus」を披露。ガットギターで奏でられる叙情的なメロディは、心地よい風を運んでくるよう。複雑に絡み合う弦のハーモニーに酔いしれる。異国の風を感じさせてくれる演奏でマリ・サムエルセンに繋いだ。

マリ・サムエルセン

マリ・サムエルセン(撮影=Rina Asahi+cyando)

 続いてはバイオリニストのマリ・サムエルセン。今年の1月にドイツ・グラモフォンと専属契約した現代で最も独創的かつ訴求力のあるバイオリン奏者だ。1曲目にはバッハの最高傑作の一つ「Chaconne」。伝統的な楽曲にも造詣が深い彼女は、鮮やかな手つきで指板を駆け巡り、メロディに命を吹き込んでいく。人の肉声に近いとも言われているバイオリンの音色は、歌っているかのような揺らぎを与えてくれた。時に儚く、時にエネルギッシュでダイナミックな演奏で感情を音でドラマチックに描いていく。最後はピアニストの大越崇史を招きデュオで「MetamorphosisII」を披露。生命力あふれる空間に、バイオリンとピアノの情緒あふれる音色で満たした。

ユップ・ベヴィン

ユップ・ベヴィン(撮影=Rina Asahi+cyando)

 トリは“ジェントル・ジャイアント(フレンドリーな巨人)”と称される身長207センチのピアニストのユップ・ベヴィン。アップライトピアノにユップの特徴的な温かい音色のひとつのファクターである、モデラートペダルと呼ばれるフェルトをハンマーと弦の間に挟む。スタンバイが整い、幻想的な空間の中2ndアルバム『プリヘンション』から「Ab Ovo」でステージの幕は開けた。静寂のなかに響き渡るやさしいピアノの音色。心を浄化させてくれるかのような演奏に観客も酔いしれる。

 4月にリリースされるニューアルバム『ヘノシス』から「Unus mundus」、「Anima」、「Anamnesis」も演奏。プログラムが進むに連れ、更に深くユップ・ベヴィンの世界、宇宙空間へといざなってくれる。「Prelude」ではマリ・サムエルセンを招きコラボレーションし、この日ならではの一流の2人で紡ぐアンサンブルに目と耳を奪われた。ラストは彼の曲の中でも色が違う1曲「Hanging D」。手の側面を使用し鍵盤を弾く奏法で、見た目のインパクトもあり、激しい感情をピアノに注入していくユップ。無心にさせてくれる楽曲と演奏で魅了し『Yellow Lounge Tokyo 2019』の幕は閉じた。

  約90分間の夢見心地な空間、現実から解き放ってくれる幻想的な時間を我々に与えてくれた。現代テクノロジーと音楽の融合は今まで体感したことがない感覚を味わせてくれた。観客も満足そうな笑顔を浮かべ帰路へと向かう姿を見て、未来のライブの片鱗を見れた気がした一夜だった。

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