駆け出すようだった。アンコール後に「七瀬コール」でステージに戻り、ソロ曲「光合成希望」をメンバー全員で歌った後のこと。帰路を案内する場内アナウンスの最中に、西野が再び戻ってきた。白のドレス。可憐なティアラ。お茶目な変顔。満面の笑み。「脚とか疲れたと思いますけど、帰ったらしっかり休んでくださいね」。そして、労り。この瞬間をファンは決して忘れることはないだろう。

 24日、京セラドーム大阪で西野の卒業コンサートが開催された。『7th YEAR BIRTHDAY LIVE』の4日目、5万人のファンが駆けつけた。自身が初めてセンターを務めた楽曲「気づいたら片想い」。スポットライトに照らされるなか、西野はアカペラで独唱。灯りが広がるとメンバーの輪に加わる。4時間にわたる卒業コンサートの幕開けだった。

 ファンは息も切らせぬレスポンスでパフォーマンスに声援を送った。西野と白石がWセンターを務めた「今、話したい誰かがいる」、センター西野の威勢の良い掛け声で始まった「夏のFree&Easy」。立て続けに4曲を披露した西野は「今日、卒業? ホンマ?」と登場1分前に緊張感が溢れだしてきたことを伝える。大阪出身の24歳。故郷に錦を飾る卒コンだった。

 メンバーは様々な形で西野を送り出した。グループ創設からともに歩んできた白石と生田絵梨花は、西野の卒業シングルになった「帰り道は遠回りしたくなる」にまつわる“イタズラ”を告白。歌唱中に2人は西野に“変顔”で笑わせる企みをおこなっていたという。

 さらに、松村沙友理は、西野と一緒に“変顔”をしていた頃を振り返る。“人参顔”なる変顔を西野がしていたことを告げ、観客席を爆笑に包んだ。

 94年組の3人、井上小百合、桜井玲香、中田花奈もステージに立った。若月佑美や永島聖羅らすでにグループを卒業したメンバーがいる中、この日、西野も卒業する。中田は堪えきれない涙があふれた。後輩たちもパフォーマンス中、流れる涙と必死に戦っていた。

 最後の楽曲「いつかできるから今日できる」。歌い終えた西野は「汗だくです」と話し、びっしょりと濡らした表情にスポットライトがまぶしく光った。「はー、終わっちゃう、さみしいですね」。ラストステージを西野は噛みしめた。

 ここからファンの「七瀬コール」は続く。声を出し切り、再登場を願う。戻った西野はファンにメッセージを寄せる。10分間に及ぶ感謝の言葉を口にした。

 「『みんな私を見て欲しい』ってできる場所なんですよね、私にとって、ステージ上は。降りると恥ずかしくて『見ないで―』ってなるんですけど。見てくれるファンの方に喜んで欲しいのが原点にある。そういうふうに思わせてくれたことが、ありがたいことだなって思います」

 ステージという舞台への思いを吐露した西野は「乃木坂の西野七瀬じゃなくなりますけど、西野七瀬はずっと生きて行きます」と宣言する。「綺麗な形ではないかもしれないですけど、気持ちをお伝えできたかなって思います」と照れたような笑みを浮かべ、ソロ曲「つづく」へ。ファンとの絆を歌唱に込めた。

 メンバーと「帰り道は遠回りしたくなる」など3曲を歌い、一人ひとりと抱きしめ合った西野。気丈に笑い、泣き濡れた後輩の背中をさすった。メンバーに対する感謝が目いっぱい詰まったなかで、苦楽を共にしてきた1期生とのハグで涙がこぼれた。白石と抱きしめ合った時間は数十秒を数えている。

 ただ、ファンは西野を帰さなかった。「七瀬コール」の洪水のなかで、ステージに戻った西野はメンバーと自身のソロ曲「光合成希望」を歌う。そして、「どうしたらいいんだろう。終わりたくないですよね、さみしいです。はあ。でもね、どうしよう。一実、助けて」と同じ1期生の高山一実に助け舟を出す一幕も。″はかなく″も″たくましい″姿が見られた西野の卒コン。等身大の24歳の姿だった。

 ラストパフォーマンスの西野は、ときおり涙をこらえるような姿が印象的だった。メンバーとのハグで相好を大きく崩したが、気丈にも笑顔でステージに立とうとする気持ちが伝わってきた。

 昨年末、グループ卒業の舞台だった「NHK紅白歌合戦」で両親からサプライズの手紙が紹介されている。

 父親は「絵が好きで、前に出るのが苦手で、いつも泣いていた七瀬。ここまで良くがんばったと思います。これからの自分の行きたい道をしっかりと歩んでいってください」と記した。

 母親は「17歳で実家の大阪を離れて、本当はすごくさみしかったです。でも私たちに心配をかけないよう、いつも良い報告だけをしてくれた心遣いをありがとう。最後の紅白、悔いなく、笑顔でステージに立ってください」と言葉を寄せている。

 “いつも泣いていた”と書いた父親。“笑顔でステージに”と送り出した母親。この日の卒業コンサートは、紅白の舞台とは別物かもしれない。それでも、それを受け止めた西野は、涙に濡れた顔よりも、最高の笑顔でファンの前に立ち、新たな旅立ちへの覚悟をこめたようにも見えた。

 場内アナウンスが流れる。「お帰りは…」。万感を胸に締まって帰路を急ぐ人も出始めるなか、それでも「七瀬コール」は巻き起こった。

 ステージ中央から西野が走りだして来た。“駆けだす”の形容がぴったりのあわてた様子。観客席は万雷の拍手だ。松村がイジった“人参顔”。西野はグッと食いしばり、白い歯を見せた。笑顔なのか、はにかみなのか、それとも…。例えようのない表情に、7年という時間を突っ走ってきた西野の、思いの丈が詰まっていた。【小野眞三】

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