セリフで全部語ってしまうのが好きではない

――本作の撮影は山形の方ということで…。

 そうですね。山形や新潟で。

――作中では永瀬さんが演じられた白川一希という男性に対して、木製の食器に漆を塗りつけていくという漆職人のバックグラウンドがありますが、あれは山形漆器などといった名産品の、実際の工程をおこなわれたのでしょうか?

 いや、山形漆器とかそういうものではなかったかなと。僕が習った先生は、輪島(石川)の方で勉強なさった方なので。工程は実際のものです。とにかく時間のない中、丁寧に教えていただきました。道具を自宅に持ち帰って毎日練習しましたね。本来なら師匠について何年も、何十年も修行を積まないとならないところを1ヶ月ぐらいで形にしなければならなかったので、先生には本当に熱心に指導していただき、感謝しています。

――劇中で一希が作業をしている場面で、漆の赤を絞り出す場面がクローズアップされるシーンがいくつかありましたが、全体的に映画がダークで色あせた感じの中で、赤というイメージだけが鮮烈にあちこちに登場する印象がありました。その意味で、あの漆のシーンもかなり強い印象を感じました。

 そうですね。あれも何らか一希の思いも表したものだと思うんです。朱色の漆を漉す場面でも、微かな記憶をなんとか絞り出そうとしている一希の思い、メタファーというか。監督が主人公の職業を選ばれた時に、この職を選ばれた理由というのはそこにあったのかもしれません。例えば、冒頭に過去と現在が、クロスオーバーしていく情景を描いたアパートを映し出すシーンがあって、あそこは地面が赤く映っているんですけど、あそこは実際に地面が赤かったんですよ。

――赤かった? 赤くしたのではなく?

 赤かったんです。鉄錆かなんかが出てきちゃっているみたいで、そんな赤。その場所を監督が見つけられて、まるで“ドス黒い血のような感じ”だな、と。もともと脚本上では“赤い雨が降る”というシーンを考えられていたんですが、それを見つけられて“こっちがいい”と、あの場所を生かされたんです。そういう意味でも、劇中のポイント、ポイントで赤というアクセントが、監督の描きたいものとして何か呼ばれる部分があったんじゃないかと思います。

永瀬正敏

永瀬正敏

――作品の世界観に対して、どのような印象を受けられましたか? 脚本を読まれた時に“こういう雰囲気の映画だ”というのは、ある程度感じ取られていたのかと。役柄としては全体的に、セリフと絡まない部分ですごく役者の演技スキルに依存する部分が大きい印象がありました。例えば菜葉菜さんが演じられた江藤早百合も、そう感じられる部分があったように見えましたし、全体的に独自の雰囲気も感じました。

 まあ僕は、どちらかというとあまりセリフで全部語ってしまうのが好きではないんです、会話劇みたいな、会話で成り立っている映画は別ですけど。例えばテレビは、決められた尺の中で全部説明しなければいけないので、セリフである程度成り立たせなければいけないのは、理解しています。でも映画はやっぱり画やたたずまいで見せられる部分というのもいっぱいあるので、あまりセリフで語るのは好きじゃないんですよね。

 だからその意味では、今回の作品なんかは、まさに自分の思いにバッチリはまるというか。そうでなくても、完全にオリジナルの脚本で、原作本もなくて、監督さんも長編デビュー作で、といろんなことが重なっている中で、さらにチャレンジされている、というポイントは大きいです。多分今回作品作りに参加された役者さんは全員、その心意気というか、そんな脚本を見たから集まってきたいのではないかと、僕は思っていますし。

――役柄に共感できるかというところはいかがでしょう? 例えば今回の役柄に関しては、どのようなモチベーションでこの役をやってみたいという思いにたどり着いたのでしょうか?

 まあ、共感できる、できないとかいった尺度より、まず役者だったら例えば普通の生活をしていく上では、共感できない部分もやってみたくなるんじゃないかな、と僕は思います。

――共感できない部分も?

 例えば、いわゆる誰もが“殺人を犯したい”とは思わないけど、殺人鬼の話もあるわけです。それでその作品を映画全体として見た時に、そのキャラクターは役として魅力があるかないかとか、そういった部分だって、役者さんたちの判断だと思いますし。

 また今回、(佐藤)浩市さんがやられた役はすごくゲスな男という感じですが、僕はああいった役もやってみたいと思う。全然僕自身は“そうではない”と認識しながら、何か自分とは全く違うものがやってみたいと思うんです。それこそ役者がやっていける理由でもあり、役者がやる面白さの一つだと思っていますし。

 まあそれはさておいても、今回はとにかく本ですね。最初に出会ったきっかけは、やっぱり台本だったし。役どうのこうのよりは台本の素晴らしさ、映画全体としての力強さ、重厚感に惹かれたというのが一番ですね。

――全体のストーリーの世界観、というような?

 そうですね、もちろんキャラクターも含めて。サスペンスでもあり謎解きでもあるので、出来上がった作品をお客さんが見るのと同じような気持ちで、僕も最初に台本を読んでいった感じでした。“これ、どうなるんだろう?”“どうなっているんだろう?”という感じで、ラストに向かって一気に読んで。そんな経緯で“参加させていただきたい!”と思いました。

永瀬正敏

永瀬正敏

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