シンガーソングライターのJQによるバンドプロジェクトNulbarichが2月6日、3rdアルバム『Blank Envelope』をリリース。70~80年代のソウルやファンク、90年代のアシッドジャズなどのブラックミュージックからインスパイアされた先鋭的でおしゃれなサウンドが話題となり、CM曲など数多くのタイアップ曲に抜擢されている。早くも昨年11月に日本武道館公演も成功させた。『Blank Envelope』には、映画『台北暮色』ED曲「Silent Wonderland」や、ドラマ『デザイナー渋井直人の休日』EDテーマ「Sweet and Sour」など話題のタイアップ曲も多数収録。また、イラストレーターの長場雄氏が手がけたジャケットデザインにも注目が集まる。「昨年の日本武道館公演で感じた気持ちがモチベーションになった」と話すJQに各楽曲で表現したものや、デビュー後の活動などを振り返ってもらった。【取材=榑林史章】

ジャケットはゴヤの絵画をモチーフ

『Blank Envelope』通常盤

――今作は、まずジャケットのイラストが、すごくインパクトがありますね。

 イラストレーターの長場雄さんとアートディレクターの前田晃伸さんのお二人にお願いしました。コンセプトも伝えずほぼ丸投げで、情報としては僕と小一時間ほど、音楽やアートについての考えをお話した程度だったんですけど…。お二人が観た、Nulbarichだったり僕だったり、僕が思う音楽に対する想いというものの描写が、これになったのかなって。

 長場さんはペンでイラストを描く方ですが、この作品はえんぴつで描かれているので、長場さんのえんぴつのタッチを観るのは僕も初めてで、そこにもすごく感じるものがあったし。長場さんのファンにとっても、永久保存版的なレアな作品になったんじゃないかなと思います。色も塗られていなくて独特の雰囲気ですけど、その分インパクトのあるジャケットになりましたね。

 有名な絵画を長場さん流にしていて、絵の解釈や捉え方は人それぞれだと思いますけど…。

――元になった絵と言うのは?

 フランシス・デ・ゴヤの『我が子を食らうサトゥルヌス』という作品です。それをトレースして、すごくポップにしてくれました。

――Nulbarichの持つ感性と、すごくマッチしたものになりましたね。

 アートって作る側の意思はあまり関係なくて、観る側がどう捉えるかで決まると思っているんです。モチーフになったゴヤの絵も、敢えて作品名を明らかにしなかったのかは分かりませんが、作者が亡くなって、それを評論家や識者たちが、このタッチはどうだとか、これはどういう感情を表しているとか、本人じゃない人たちが賛否両論を言って、それがずっと世の中に残っているんです。描いた側の意思ではなく、観た人たちがいろんな意見を言って議論をする、それこそがアートの神髄と言うか。これは、今回のアルバムのタイトルにもマッチする部分があるなと思いました。

――アルバムのタイトルは『Blank Envelope』ですけど、ここにはどういう気持ちを込めて?

 「宛名が空欄になっている封筒」という意味です。誰かに向けるとかではなく、自分の想いをガッとアルバムに詰め込んで、これをどういう風に聴くかはみんな次第だという気持ちで、宛名というものを無くしました。作り手の意思とは関係なく、観たり聴いたりした側に委ねるという考え方は、ゴヤの絵の成り立ちとも偶然一致したものになりました。

――昔の絵画をトレースして今流のポップに仕上げたイラストの描き方も、70年代80年代の洋楽をベースに今の形で表現しているNulbarichの音楽も、まさしく同じですね。

 そうですね。アートやファッション、音楽も、今まで自分が見たり聴いたりしてきた好きだったものを、自分というフィルターを通して世の中に発信したときにどう映るか、なんですよね。ファッションのブームもグルグル回って繰り返しながら、少しずつアップデートしていくものだし。音楽も絵も、そこはすごく一致している部分があるなと。たぶん長場さんたちにも、いろんな想いがあったと思うんですけど…そこの答え合わせをまだご本人とはできていないので、機会があったら聞いてみたいです。

――アーティスト同士、通じ合うものがあったんですね。

 話したときに、いろんな想いが伝わったのかなって、この絵を観たときに自分の中で解釈することができたので、すごく嬉しかったです。

 今までは、自分がこうしたいああしたいと想いを伝えて作ってもらっていたんですけど、今回は尊敬するイラストレーターさんに丸投げして描いていただいて。チャレンジではあったけど、間違いないものが返ってきたなと。


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