平原綾香と谷原章介が、ディズニー映画の最新作『メリー・ポピンズ リターンズ』(公開中)で完全日本語吹替版声優を務めている。1964年に公開された大ヒット作品『メリー・ポピンズ』の続編。平原は、主人公の魔法使いメリー・ポピンズの声、谷原は3人の子どもを持つシングルファザーのマイケル・バンクスの声を務める。ミュージカルの要素を持った同作で、2人は劇中でも歌を披露している。どのように挑んだのか。【取材=木村陽仁/撮影=片山 拓】

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メリーはツンデレ

 大恐慌時代のロンドンを舞台に、母を亡くし困難に直面したバンクス家が、魔法使いメリー・ポピンズの幸せな魔法によって希望を取り戻し、困難に立ち向かっていく姿を描く。

 1964年に公開された『メリー・ポピンズ』の続編で、前作では長男で少年だったマイケルが3人の子どもを持つシングルファザーになった。

 対して、エミリー・ブラントが演じるメリーは、変わらずのミステリアスで美しく、少し上から目線。しかし、様々な魔法を使って子供たちに希望を与えていく。

 平原綾香「メリーは、様々な側面も持っているような印象です。少女っぽさもあれば、母のような母性も、お父さんのような力強さもあって。でも昔の事も知っているからおばあちゃんのような知識も持っていて。ただものではないです(笑)」

 谷原章介「時代設定が恐慌時代ですけど、昔の女性と言いながらも現代に繋がるような、独立して芯の強さを持った印象があります。旧態依然としたものではなく多面的な良さを持っていて。ツンデレですから、ハートがグッと摘ままれますよね(笑)」

平原綾香

平原綾香

「一番難しい歌」に挑んだ谷原章介、平原称賛の歌声

 映画の見どころの一つにミュージカル要素がある。エンドンソング「幸せのありか」を歌う平原をはじめ、谷原も今回、歌に挑戦した。

 2人はその役をオーディションで勝ち取った。平原によれば、全世界における吹替版のキャスティングを指揮するリック・デンプシー氏は、骨格を見て決めているといい「骨格が声を左右するから、と。あごを見られていたんだなって」と照れた。

 そのリック氏から「家族愛に満ち溢れているこの映画が大好きなんだ」と聞かされ、レコーディングに挑んだ谷原。屋根裏で歌う「君はどこへ」では、妻を失い、今度は家も失おうとするマイケルのせつない心情をみごとに表現している。「本当に良いですよね」と谷原の歌声を褒める平原は、この歌がいかに難しいかを説明した。

 平原綾香「谷原さんはもともとお声が素晴らしいから、何度か歌っているかと思ったら『そんなに歌っていないんだ』と言われて驚きました。私にとってはこの歌は『メリー・ポピンズ』のなかでも一番難しい歌だと思っています。歌なのにセリフっぽい。けどセリフでもない、そういった難しさがあって。完全日本語吹替版の試写を見たときにこの歌で泣きました。とても良いシーンです」

 平原の言葉に「めっちゃ嬉しいです」と表情を緩ませた谷原。平原の説明の通り、レコーディングは難しさが伴ったという。

谷原章介

谷原章介

 谷原章介「英語の原曲とはメロディが若干違うところがありまして、言葉の特性だと思います。日本語ですと、単語として英語のままのメロディでやるとちょっとおかしくなるので微調整はして。最初はもっとセリフっぽかったんですよ。それを少し歌っぽくしようと。本当に紆余曲折ありましたので、原曲ではなく、その都度その都度メロディを聴きながら確認して1回1回やっていきました。しかも深長なセリフが入るので難しかったです」

 これに平原は「紆余曲折あるということはそれだけ難しい歌ということ。英語と日本語では全然違いますから」と補足。それほど、谷原の歌唱シーンは難しかったと言える。そうなると今後は、谷原のミュージカル出演も期待されるが…。

 谷原章介「初めてやったミュージカルでコテンパンな目に遭ったので(笑)。『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』というロックテイストのものでしたが、それは大変でしたよ(笑)。今回こうしてやって、皆さんから『良いじゃないか』と、オファーを下さったらやらせていただきたいと思いますが、ちょっとなかなか…」

 謙遜する谷原に、平原は「ぜひ、やってほしいですね!」と期待。それでも谷原は「平原さんみたいなに饒舌でパワフルで素晴らしい歌を歌える人にそう言っていただけるのは嬉しいですが、恥ずかしいです、正直」と照れ笑いを浮かべた。

日本独自のメリーでいい、平原綾香が魅せる歌声

 今作では、映画音楽と9曲のオリジナル・ソングが創作された。手掛けたのは『ヘアスプレー』などで知られるグラミー賞/トニー賞受賞者のマーク・シェイマン氏と、トニー賞受賞者でエミー賞に3度ノミネートされているスコット・ウィットマン氏ら制作チーム。

 そのなかでメリーが歌うのは、エンドソングにもなっている中心的なバラード「幸せのありか」や、トプシーと歌う「ひっくりカメ」、ミュージックホールでジャックと歌う「本は表紙じゃわからない」など多彩なメロディが並ぶ。

 メリーの声を担当した平原は、リック立ち合いのもとにレコーディングをおこなった。歌は、オリジナルを聴いてから挑んだというが、それに寄り過ぎず日本ならではものを目指したという。

 平原綾香「私がミュージカルでもメリーをやっていたことをリックさんは知っていて『自分じゃない違う人の声で歌うのは大変かもしれないけど、自分なりのメリー・ポピンズでいいよ。メリー・ポピンズらしさ、アイデアがあったらそのままやって構わないからね』と言ってくださって。エミリーさんの歌に合わせて日本語を吹き替えていくときも『ここはもっともっとこぶしを入れてくれ』と。エミリーさんはそんな歌い方をしていないのに大丈夫かなと思ったけど『これは日本版だから、日本独自のメリーで良いんだよ』と」

平原綾香

平原綾香

 平原が歌うエンドソング「幸せのありか」は、劇中では子守歌として披露している。囁くように歌う子守歌に対して、エンドソングで魅せる平原の歌声は圧巻で、鳥肌が立つほどの力が漲る。

 平原綾香「子守歌として劇中で歌っているものは『ほとんど歌わずに歌ってくれ』と言われました。逆にエンドソングでは『こうやってくれ』という要望はなく自由にやらせていただきました。外国のバージョンとは違うフェイクの仕方とか、いろいろと変えました。ディズニーになんて言われるだろう、とヒヤヒヤしていましたけど、何も言われなくて安心しました(笑)」

 先日おこなわれたジャパンプレミアに出席したエミリーは、平原の生歌を聴いて「本当に素晴らしい。胸に響いてきたし、声も含めて平原さんが演じて下さったことが嬉しい」と絶賛した。

 そんな平原は昨年、歌手デビュー15周年を迎えた。厳しい音楽業界で生き抜くのは「大変」という彼女は「どんどん少年になっていく」という。その真意をこう語っている。

 平原綾香「音楽界で生きていくのは大変なことで、どんどん少年になっていくんですね。私が憧れている人たち、たとえばオノ・ヨーコさんやマイケル・ジャクソンさんは性別を超越して中性的なものも感じる。そういう存在になりたいと思っています」

2人にとって音楽とは…

 普段から音楽をこよなく愛する2人。「音楽が好きなんですよ」という谷原はプライベートでは「エアプレイで飛ばして、キッチンとか書斎などで聴きながら作業していますね」という。平原の「お料理もお上手だし」という言葉に照れる谷原は6人の父親。「家事をやらなくちゃいけないからね。6人だから」とほほ笑み、音楽への想いを語った。

 谷原章介「物語は、日常生活のなかでたまった悩みみたいなものをポンと視点を変えてくれて少し楽になってまた違うアプローチみたいなことができると思います。歌の場合は、日々の生活の栄養みたいなもので、ストレートにダイレクトにエネルギーをくれます」

谷原章介

谷原章介

 一方の平原にとって音楽とは何か。「毎日歌っていますからね(笑)。かけなくても毎日流れてます。頭の中を」と表情を緩ませつつも「『オペラ座の怪人』の続編のミュージカルをやっているので、クリスティーヌになったり、メリーになったり結構大変で。車のなかでは逆に音楽をかけないで脳内で音楽の練習をしています」という。

 「昔のピアニストもそういうことをやっていたようで、譜面を見て頭の中で練習して何もピアノを触らず本番を迎えるという人がいたそうです。脳の中のイメージトレーニングはすごく大切みたいですね。イメージしただけで声帯が動くみたい。オリンピック選手もそうやるみたいですよね。走っているイメージをすると本当に筋肉が動くみたいで。声が出せないときや体調が悪いときは脳内練習をしています」

 そうして届けられる彼女の歌、そして映画は人々の心を動かしている。

平原綾香×谷原章介

平原綾香×谷原章介


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