昨今、J-POPシーンは米津玄師を筆頭にして変遷の時期を迎えつつある。そこで、いまシーンを牽引する米津を軸としながら、ボカロシーンがJ-POPシーンを牽引する少し先の未来について考えたい。

キーマン、米津玄師の存在

 TBS系ドラマ『アンナチュラル』(主演・石原さとみ、2018年1月~3月)の主題歌として起用された「Lemon」は、米津が時代の寵児というべき存在になったことに直結しているのはいうまでもない。

 「Lemon」が老若男女問わず受け入れられたのは、米津の心情を綴った叙情的なバラードであったことが大きく寄与しているのだろう。

 広く受け入れられたことを認知した米津が、また一つ先のステージに足を踏み入れるようにしてできた次作「Flamingo」は、「Lemon」とは対極的な楽曲だ。本来の米津のボカロに通じる珍妙な世界観そのものを世間に向けて開放させたような楽曲になっている。

 いまのボカロシーンを特徴づけるダンサンブルなビートでダウナーな雰囲気を纏うサウンドを昇華しながらも米津のボカロ時代の初期の楽曲を彷彿とさせ、さらなる高みを目指しているようにもとれる曲調だ。

 また、ジャンルレスと謳われるボカロ曲に呼応させるように、曲中の随所には米津のユーモアに溢れた声のサンプリングを入れ、島唄を取り入れたかと思わせておきながら大サビではスキャットを取り入れる大胆かつ斬新なアレンジで、型破りなサウンドを演出。

 ちなみに「Flamingo」はMV公開後、3時間17分で「Lemon」のMV公開時の“13時間で100万回再生“の記録を大幅に更新した。一般的にはタイアップ曲以降の楽曲においては盛り上がりに欠けることが少なくないが、米津は「Lemon」以降の次作でも驚異的な数字を叩き出し、自身の記録を突破しているのだ。米津は、J-POPシーンを刷新し始めた存在といえる。

特異な存在

 なにより、米津が音楽シーンを変えるアーティストとして注目されている最もな理由は米津自身がネットミュージック、いわゆるボカロ出身アーティストであるからといえよう。米津は2008年からボカロPとしてハチ名義で音楽制作をおこなっていたが、次第にボカロ界隈で才能が認められ、2010年にはDECO*27、wowakaに並ぶ当時のボカロシーンを象徴する一人となった。

 さらに2015年には本名である米津玄師名義でロッキング・オン主催の日本の大型野外ロック・フェスティバルである『ROCK IN JAPAN FESTIVAL』で堂々たる初出演を飾った。他にもゆよゆっぺ、2018年には天月-あまつき-などといった同出身アーティストがロック・フェスティバルに参加する例が目立つ。

 それはボカロシーンがそのシーン内で留まらなくなってきたことを意味しており、なかでも米津はボカロシーンから邦楽ロックシーン、さらには今年でJ-POPシーンまでの流れを作り出した特異な存在なのだ。

起爆剤になるか、Eve、Reol

 今後、ボカロシーンから邦楽ロックシーンへの趨勢のなかで、邦楽ロックシーンへの起爆剤となり得そうなアーティストを挙げるとすれば、EveやReolだろう。Eveは歌い手だが、2015年「sister」からボカロPとしても精力的に活動している。Eveがここ最近で急進的に人気を博してきたのは2017年5月20日に公開した「ナンセンス文学」からである。

 Eveはおっとりしたキャラクターも相俟って歌い手界隈では名の知れた存在だったが、そのイメージをすり替えるような闇テイストの「ナンセンス文学」を公開したことで、一挙にファン層を獲得。「ナンセンス文学」のYouTube動画再生回数は現時点1411万回再生である。2019年2月にはニューアルバム『おとぎ』のリリースが決まっており、このアルバムがEveの大きな起爆剤となるに違いない。今最も勢いがあり、邦楽ロックシーンに名を馳せるアーティストに変わりつつある存在なのだ。

 Reolは2015年から、れをる名義で歌い手活動をおこなっていたが、2016年には3人組ユニットREOLとして活動を開始し、翌年2017年にはREOLを解散。Reolのターニングポイントと呼べる楽曲は2014年10月13日に公開した「No title」だろう。“れをる”名義ではじめて作詞作曲を手がけたオリジナル曲だ。YouTube動画再生回数は現時点2432万回再生。2018年にはソロ・アーティストReol名義により活動を開始し、「サイサキ」が専門学校HALの2018年度TVCMソングに起用されるに至るなど、ラップを織り交ぜた洋楽テイストな楽曲は斬新。Reolの活動は国内に留まらず海外でも注目を集めており、2019年1月には中国ライブも控えているほどだ。

 また、ボカロPでもオリジナル楽曲をセルフカバーする流れが圧倒的に増えており、ボカロPは全方位型のマルチクリエイターともいえる時代になってきた。今後、ボカロPからも米津のようにJ-POPシーンに名を馳せるアーティストが現れるのではないか。

ボカロとロックの接点

 米津はハチ名義でボカロ界隈を風靡したが、J-POPシーンに先陣を切って介入していく姿においても同様で、滞在するシーンの頂点に上り詰める。しかし、それとは相反するように米津の楽曲「LOSER」のフレーズには<深く転がる 俺は負け犬>とあるように米津は自身を負け犬と主張する。

 自分はルーザーと認知し、世間一般とは離れたアンダーグラウンドな世界で音楽を極限まで作り続けてきた果てに、結果的には米津がウィナーの位置に躍り出ることに成功したのだ。反転攻勢に出るように本物のウィナーを呈した米津は今後もリスナーにさらなる展開を魅せつけるだろう。

 同様にボカロシーン全体でいえば、米津のルーザー精神は、世間に対する不満など報われない気持ちを音楽にしたためているボカロ、ロック全般に通じる。ここ最近で、米津を筆頭に、ボカロシーン全体が勃興する兆候が見られてきたのだ。

2018年はボカロシーンの台頭

 2017年のボカロシーンは、ダウナーかつ洒落たボカロ曲が流行るなか、ハチの「砂の惑星」が公開され、「砂の惑星」に負けじと再生回数を増やしたDECO*27の「ヒバナ」の公開もあり、じんによる『カゲロウプロジェクト』シリーズ最新作「失想ワアド」の公開など有名なボカロPの帰還と呼べるような出来事が多々続いた。

 そして2018年には米津がJ-POPシーンに台頭。既にボカロシーンで支持されてきたアーティストが米津を追うようにしてシーンを牽引し、ひいてはJ-POPシーンに新たな展開を齎す時代がやってくるのも時間の問題だろう。【小町 碧音】

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