今年デビュー15周年を迎えたシンガーソングライターの笹川美和が12月5日、東京・ duo MUSIC EXCHANGE(渋谷)で単独公演『笹川美和 Concert 2018 ~春待ち月唄会~』をおこなった。10月31日にリリースされたデビュー15周年を記念したベストアルバム『豊穣 -BEST ’03~’18-』を引っさげて、東京と大阪の2公演をおこなうというもの。デビュー曲「笑」や「蝉時雨」「高鳴り」などアンコール含め全16曲を歌唱。笹川のピュアで叙情的な歌声に魅了されたライブのもようを以下にレポートする。【取材=村上順一/撮影=勝永裕介】

12歳の時に初めて作曲した「向日葵」を弾き語りで披露

笹川美和(撮影=勝永裕介)

 優雅なオーケストラによるサウンドがBGMとして流れる中、静かに開演を待ちわびる観客の姿。薄暗いステージにはグランドピアノが存在感を放っていた。開演時刻になるとゆっくりと会場の明かりが落とされ、笹川とサポートメンバーであるギター・マンドリンの設楽博臣とピアノの山本隆二がステージに登場。「プリズム」でコンサートはスタート。マンドリンとピアノのコントラストが楽曲の世界観を作り出し、その上で歌う笹川の歌声が、モノクロの写真に色を付けていくような感覚だ。

 「目よりも耳をメインに聴いて頂けたら…」と会場の構造上、若干観えにくい場所にいる観客への配慮、楽しみ方を提示する場面も。続いては大橋トリオが楽曲提供した「紫陽花」では、流れる空気感に乗って、伸びやかに自由に歌い上げていく姿が印象的。そして、天井から降り注ぐ月の光のような照明を浴びながら歌唱した「朧月夜」、叙情的な楽曲と歌が胸を打つ「蝉時雨」では、自身の存在を強く訴えるかのような、生きる強さ感じさせてくれる歌声に惹き寄せられた。

 デビュー15周年を迎えられた感謝を伝える笹川。10月にリリースされたベスト盤について「皆さんに喜んでもらえるものをコンセプトに選曲しました」と、『豊穣 -BEST ’03~’18-』に込められた想いを語った。

 ここで笹川がピアノの前に座り、弾き語りでハナレグミ の「家族の風景」を披露。弾き語りの魅力は自身の呼吸と、よりリンクした歌が聴けることだ。楽器奏者が演奏し、その上で歌う時とはまた違う趣が弾き語りにはある。この楽曲を敢えて選んだことも、その独特な一体感を欲していたからだと感じさせた歌唱だった。時間がゆっくりと流れていくような感覚を我々に与えてくれた。

 続いて2005年にリリースされた「向日葵」をギターの設楽と2人で届けた。12歳の時に初めて作曲した記念すべき楽曲で、デビュー曲である「笑」と同じく特別な楽曲のひとつだという。笹川も20年以上経った今も歌い続けてこれていることに、不思議だと話す。彼女のルーツを感じさせる楽曲に多くの観客がじっくりとその歌声に耳を傾けていた。そして、もう一曲2ndシングルの「金木犀」を透明感のある歌声で紡ぎ、自身のピアノ演奏によるセクションを終えた。

“真実の雫”に辿りつけたら…

笹川美和(撮影=勝永裕介)

 来年は今年よりも更に活動的になれるように頑張りたいと嬉しい意欲をみせ、届けられたのは妖艶さも感じさせた「忘れないでいて」。続いて、真っ赤に染まるステージでシリアスで緊張感を与えてくれた「咎」を披露。ピアノの山本は直接弦を弾いたり、現代音楽的アプローチで楽曲にアクセントを加えていたのも印象的だった。

 語りかけるかのような歌声が心地よかった「横顔」では、歌唱後の笹川の笑顔が印象的。そして、「都会の灯」では、ギターの設楽は街灯、ピアノの山本はタクシーの運転手、自分は「痛い女」を演じ歌ったと自分たちを比喩し会場の笑いを誘った。

 「来年はどんな風になっているのかわからないけれど、“真実の雫”に辿りつけたら…」と話し、披露されたのはベストアルバムに収録された新曲「真実の雫」。15年を経て来た今だからこそ出来た楽曲は、まだ見ぬ未来への希望と特別な感情が込められているようにも感じさせた。
 そして、デビュー曲「笑」を届ける。この15年間で何度も歌い続けてきた楽曲だ。歌は生き物、その時々で表情は変化していく。同じ歌というのは存在しないということをより感じさせ、この日は力強さと儚さが同居しているかのような歌声で紡いだ。それは、この後のMCで話した、「ライブというのは一期一会」という言葉が妙にしっくりときた。本編の最後に届けたのは「今日」。光りに包まれるような照明の演出はこの楽曲の世界観を後押し。神秘的とも言える空間のなか、ひとつひとつの言葉を丁寧にメロディに乗せ、ステージを後にした。

 アンコールを求める手拍子に再びステージに笹川が登場。笹川はグッズにも“熱”が入っているものを提供したいと語る。数は多く作れないが愛や熱が入ったものをライブの度に作り上げている。その熱はもちろん楽曲や歌にも表れていた。冨田恵一が作曲し安藤裕子が作詞した「琥珀色の涙」。笹川は「絶対私からは出てこない素晴らしい曲で、歌えることが幸せ」だと話し、多幸感あふれる歌声で会場を包み込んだ。最後に「16年目も宜しくお願いします」と告げ、観客の手拍子も加わり会場が一体感に包まれた「高鳴り」。感情を揺さぶりかける、まさに高鳴る鼓動を感じながら『笹川美和 Concert 2018 ~春待ち月唄会~』の幕は閉じた。

 先にも書いたが、本当に時がゆっくりと進んでいくかのような感覚を与えてくれたステージだった。この場所に訪れた人誰もが特別な空間だったと感じられたはずだ。この日のMCからも感じられたように、彼女の未来にも大きく期待したいと思えた一夜であった。

 

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