しっかりとプロセスを踏まなければいけない時期に来た

上妻宏光(撮影=村上順一)

――「MOGAMIGAWA(最上川舟唄) 歌: 朝倉さや」はどこかインドの音楽にも通じる響きを感じました。

 シタールのように共鳴弦が三味線にもついているということで、インドとの繋がりもあるとは思います。音の使い方も同じようなところがあるんです。民謡というのは生活から出てきた音楽なので。魂というものが民謡にはあると思っていて。インド音楽は神や仏教の影響もあると思うんですけど、生活に根付いたところから出てきた音楽でもあると思うので。

――朝倉さやさんの歌も素晴らしかったのですが、出会いはどのようなものだったのでしょうか。

 僕が『民謡アーカイブ』というコンサートをやっていて、そこでゲストに来ていただいたのが最初だったと思います。音源を聴かせていただいて、パワーもあって良い歌だなと感じてお誘いさせてもらいました。あと、通常の民謡歌手だとアレンジした作品に合わせるとなると難しい人もいます。だけど、朝倉さんはフレキシブルに対応出来る方だったというのもあります。今回、踊る、ダンスという部分もあるんですけど、「心が踊る」という部分で民謡を入れたいというものがありました。

――出だしから強烈な世界感に連れていかれました。さて、宮沢和史(THE BOOM)さんも「いいあんべえ」で共演されていますが、数ある宮沢さんの曲の中から、この曲が選ばれたのにはどんな理由があったのでしょうか。

 以前に曲も一緒に作ったこともあって参加していただきたいなと思いました。宮沢さんは山梨県出身で沖縄県の音楽をベーシックに作られていて、僕は茨城県出身で青森県の音楽をやっているという共通性もあって。他県の音楽やることに賛同する人間もいれば批判する人間もいるんですけど、作品を出した時に色んな意見をもらったということもあって、お話をしていたら宮沢さんと共通することが多いんです。

 「島唄」がヒットしたあとに出されたアルバム『FACELESS MAN』に収録されていた「いいあんべえ」という曲なんですが、宮沢さんの中で期待や葛藤もあって出来た曲というのが大きかったかもしれません。そういう想い入れがある曲も今作に入れたいなと思いましたし、「いいあんべえ」も、ものすごくダンスチューンとして良い曲だと思いました。宮沢さんとはそんなに頻繁にお会いするわけではないんですけど、魂とか通じるところがあるなと思いました。

――宮沢さんとは喋らずとも通じ合う部分もあったりするのでしょうか。

 作業自体はレスポンスも早くてスムーズで、今回は多くを語らずとも出来ました。でも、最近は僕も言葉を選びながら喋る人が増えたなと感じていて、環境が変わってきたのかなと思っています。今までだったら、例えばこういうピラミッドを作りたいと大きく始まって、結果どういうピラミッドができるかは結果を見ないとわからなかったんです。最近はしっかりと構築して演奏することが多くなった気がします。そうしないと成立しないような状況になってきたというのは、変革期で自分がそういう立場だったり年齢になったのかなと思います。しっかりとプロセスを踏まなければいけない時期に来ました。今作も緻密に作っていけたというのが今までの作品とは違うところでもあります。

――「時の旅人-Jazzy-」ではスリリングなインプロビゼーションが聴けます。

 「時の旅人-Jazzy-」は最初と最後でテンポが違います。人間は興奮するとテンポが上がってしまうんです。ドンカマ(メトロノーム)があると冷静にできるし、後から編集もしやすいんですけど、直せるという前提で入ってくるとそれが甘えになるわけです。現場で「ドンカマ使わないので」と言うとみんなの空気感がピリッとします。その緊張感が楽しいんです。

――初期の頃はドンカマを使用していたんですね。

 2作目『伝統と革新-起-』ぐらいまでは使ってました。今作は打ち込みの曲もあるので最初から最後まで同じテンポだったりするんですけど、逆に人間臭さを出すために興奮して早くなったりと、リズムのゆらぎというものの面白さを出しました。アルバムの構成もそういった緩急をつけたかったので、カチッとしたものとゆらぎがあるものを配置して、流れというものをすごく考えました。

――さて、今回は大きな挑戦だったと思います。いま三味線という楽器について思うことはありますか。

 400年という三味線の歴史がある中で、最初は三味線の曲を作ってきたけれど、途中からあまり新曲というのは作らなくなってきてしまったんです。古典を深く追求していくというスタイルになって、新しくトライしようとしても、古典の世界に籍がある人間にとっては、あまり新しいことをやりすぎると、古典の世界での仕事がなくなったり…。「それは津軽三味線じゃない」と言われた時代もあったでしょうけど、一般の人に聴いてもらえるようになってくると、これも音楽として良いもんだなと意識が変わってくるわけです。

――常にチャレンジですね。

 まず意識を変えるということが大変なことで、20~30年やったとしても大きく変えることは難しいです。だけど、やり続けていくことで若い人がトライする土壌が出来てくると、一般の人に聴いてもらえるようになってくると思います。『NuTRAD』のような作品を聴いて、三味線のイメージを変えられたらなと。それにはやり続けていくことが重要なんです。新しいことにトライするということは自分にとっても不安で怖い部分もあるし、今まで聴いてくれたファンの方が今作を受け入れてくれるのかとか考えると手を出せなくなってしまう。でも、三味線をよく知らない人に知ってもらう為にも、新しいことにもトライしていかなければいけないんです。

――様々なジャンルとの融合してきた上妻さんですが、次はどんな事を考えられていますか。

 もう、大体のジャンルはやってきてしまっているので、躍動感だけではなく、構築して作られる三味線の音楽というのを作っていきたいという欲求があります。新たな出会いというのも興奮するし、音楽として新しいスタイルのものはどんどん出てくるので。マイルス・デイビスみたいに時代の音を入れることによってスタイルは変わっていくんですけど、彼の音は変わってはいないんです。僕の音は変わらないけど、周りの音が変わっていくということが、それが音楽の面白さだと思っていて、伝統を継承していくことでもあると思っています。

――今作でも三味線のポテンシャルの高さを感じずにはいられませんでした。

 三味線ってこんなことが出来るんだと知ってもらうことで、若い世代に三味線というものが伝わっていく、それも一つの継承だと思っています。

――何にでもチャレンジしていかれるということですね。

 そこに意味合いがあればやっていきますね。例えばコラボするにしても僕のスタイルや生き様が必要であればお引き受けさせていただきますけど、三味線の音が欲しいということだけでは、お断りすることもありますけどね。

――最後にリスナーの方へメッセージをお願いします。

 ドライブをしていても耳だけでも楽しめるような三味線のサウンドが作れたと思います。聴いていただければ体でリズムを取りたくなるものになったと思いますし、今まで聴いたことがないようなサウンドを作れたと思っています。食わず嫌いにならずに、とりあえず1曲聴いてもらえれば良さを感じてもらえると思うので、ダイジェストで聴ける動画も上がっているので、まずはそこから入っていただけたらと思います。

(おわり)

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