三味線奏者の上妻宏光が11月7日に、約3年振りとなるオリジナルアルバム『NuTRAD』をリリースした。ジャズやロック等ジャンルを超えたセッションで注目を集め、2000年に本格的にソロライブ活動を開始し、米・ニューヨーク、ニューオリンズで地元ミュージシャンとセッションもおこなっている。海外でも活躍する上妻が挑んだ音楽はEDMとの融合だった。過去にもエレクトロミュージックとの融合はあったが、今作ではさらにディープなところまで追求し、三味線とEDMの親和性が見事に証明された1枚に仕上がった。伝統楽器で世界を踊らせたいというテーマをもった今作の制作背景やグルーヴについて、さらに音楽と会話の関係性など話を聞いた。【取材・撮影=村上順一】

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○踊れる作品を作りたいという思いがメラメラと出てきた
○共通の最大公約数でお互いを主張しながら演奏
○しっかりとプロセスを踏まなければいけない時期に来た

(約7500文字)

踊れる作品を作りたいという思いがメラメラと出てきた

上妻宏光(撮影=村上順一)

――上妻さんの演奏されている映像を拝見させていただいて、手がすごく大きいイメージをもったのですが、実際にお会いしてみるとやっぱり大きいですね。

 そんなに(ライターと)変わらないと思いますけど(笑)。(実際に手を合わせてみる)

――私は上妻さんの第一関節くらいまでしかないですね…。あの音が出る秘密の一つにこの手の大きさがあるのではと思いました。

 三味線には手の大きさはあまり影響がないと思います。ピアニストはストレッチしなければ弾けないフレーズがあると思いますけど、三味線はそんなにストレッチしなくても大丈夫ですから。

――ギターで「手が小さいけど出来ますか」みたいな質問もよく聞いたことがあったので、それは、逆に三味線をやってみたい人には嬉しいです。さて、『NuTRAD』がリリースされて少し経ちましたが反響の方はいかがですか。

 特に初めて聴く世代からの反響が特に良いですね。

――EDMと三味線の融合というところで、私もワクワクしました。今作にもリアレンジして収録されている「BEAMS -NuTRAD-」は以前にもそのエレクトロ要素もありましたが、今回はさらにその先へ行かれて。

 確かに2ndアルバム『BEAMS』でEDMの要素はありました。でも、ダンスビートに寄り過ぎるのはまだちょっと早いかなと当時は感じていて、深くなくライトに作品を作れたらなというのが当時にはありました。今回はさらにEDMに向かったので今回収録されている「BEAMS」も聴こえ方が違うかなと思います。

――今作を作るきっかけとなったのは、昨年7月にカザフスタンでおこなわれた上妻さんプロデュースによる日本の伝統音楽の進化を表現する公演でのことですが、そこでどのような思いが生まれたのでしょうか。

 僕は中央アジアには今まで行ったことがなかったんです。でも三味線のルーツとなる楽器もシルクロードを通ってきたということもあり、以前から興味がありました。そして、現地の人たちとセッションする中で、自分がやってこなかったジャンルにもトライしたいという気持ちが芽生えました。

 三味線という楽器の音楽はあまり動かずにじっくりと聴くものが古典では多いんですけど、踊れる作品というのも久しく作っていなかったこともあって、踊れる作品を作りたいという思いがメラメラと出てきました。カザフスタンの方では伝統楽器がダンスミュージックなどに使用されていて、これは面白いなと思いました。そのなかで三味線がEDMに入っているものは、ほとんど聴いたことがないなと思って。

――このアルバムのきっかけとなった曲はどれになりますか。

 1曲目の「AKATSUKI」です。この曲は今年の2月頃にメロディとトラックは仕上がってました。この曲をきっかけに他の曲をどうするかを考えていきましたから。今回は「踊らせたい」というテーマで選曲して、その中でデジタルではない生の人間がやっているサウンドも入れたいなと思って。「時の旅人-Jazzy-」という曲は、原曲はゆったりとした感じの曲なんですけど、リズムを変えてジャズにしてみたり、心踊るような、ワクワクするようなところが表現できたらなと思いました。「Solitude -Trio-」はバラード曲なんですけど、この曲も心が動く、孤独をテーマにした曲ですが、デジタルサウンドを取り入れて、真逆の曲に仕上がりました。間や空間を楽しめる曲として選曲させていただきました。

――今作が今までの制作と特に違ったところはどこでしょうか。

 三味線らしさが引き立つメロディというものがあると思うんですけど、今回はトラックに合わせてシーケンスのような感じのフレージングを作ったり、若いクリエイターの方と一緒に制作するにあたって、三味線でどういうことが出来るのかというところで、自分にはないものを引き出してもらって。20代のクリエイターの方だと三味線への新鮮さもあって、色んなトライがあって、その熱量が今回の楽曲へは反映出来たのではないかなと思います。

――上妻さんにとっても新鮮なフレーズもあったわけですね。

 三味線では難しいフレーズもありました。あまりEDMに寄り添い過ぎると三味線が生えない、逆に三味線に寄り添いすぎるとEDMという音楽が弱くなってしまうので、その混ぜ具合は考えました。

――三味線の音色は個性的で、存在感もあると感じているのでEDMとの融合は難しそうなイメージがありました。

 そうなんですよね。なので、生の音とエフェクトを使って加工することで混じり具合を調整していきました。今までは生の音を忠実に再現するという録音だったので。

――それもあってエフェクトが掛かった三味線のサウンドも聴けて、興味深かったです。

 今回のやり取りの中でエフェクトのかけ具合は、クリエイターの方と詰めました。最初ちょっとエレキギターのような感じになってしまったところもあったので、「もう少しエフェクトを弱くしてくれ」などのやり取りをして。そこは今までにはなかったことの一つでした。

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