シンガーソングライターのあいみょんが、11月に新曲『今夜このまま』をリリースする。同曲は放送中のドラマ『獣になれない私たち』(日本テレビ系)の主題歌に起用されている。高いソングライティングスキルと一度聴いたら忘れられない歌声で人気のあいみょん。弱冠19歳でのインディーズデビュー以来順調に勢力を拡大し続ける才能豊かな逸材だ。そんな彼女が特に高く評価されているのはそのメロディメイキングと歌詞。独特の切なさや悲しさがありながらも、どこか心地よさすら感じる楽曲が「共感できる」と10代~20代の男女に絶大な支持を得ている。まだあいみょんの楽曲に触れたことがないという邦楽リスナーに聴いてほしい、彼女の不思議な魅力をダイレクトに感じられる4曲を紹介したい。【五十嵐 文章】

『あなたのために』

 8月にリリースされた最新シングル「マリーゴールド」のカップリング。シンプルなアコギの音が印象的なイントロから始まるこの曲は、牧歌的なメロディが可愛らしく、何も考えずに聴いているとハッピーな気持ちになれること請け合いの癒し系ソングだ。

 しかしその実、歌詞の内容にはハッピーなサウンドに相反する切なさが満ち溢れている。主人公の「わたし」は失恋から立ち直ろうと努力している女性。しかし、彼女は恋人のために嘘をつき、過去を変え、髪を伸ばしてメイクも覚えるような“重い”女性だ。

 祝福のような鐘の音に乗せて、あいみょんはおどけたように<もう誰のものでもないわたし><あなたのためについた嘘は わたしのため>と歌う。その可愛らしくポップなボーカルと優しいサウンドがかえって歌詞の切なさを際立たせているのがにくい。じわじわと心を抉る、あいみょんらしい失恋ソングだ。

『マトリョーシカ』

 タイトでスタイリッシュなギターサウンドが印象的な楽曲。女性詞でありながらダンディーなイメージの湧き上がるこの曲は、アルバム『青春のエキサイトメント』に収録されている大人っぽい1曲だ。自分を偽り誰かに愛されることを夢見る女性の心理を「マトリョーシカ」に託した歌詞は至妙の一言。

 <殻に閉じこもったマトリョーシカ せめて神棚に添えて欲しいわよ>といった言い回しの端々から、気高くありたいと願いながらも独りよがりな「私」の心理が表れている。

 サビではメロディが少し明るくなり、歌詞にも<キラキラに光る何かを追いかけた>といった明るい印象が残るフレーズが表れる。あいみょんの歌声も冒頭のダンディーな雰囲気から一転、高らかにきらめきを増していくが、その明るさや伸びやかさが<私は本当に愛されたかった>といったフレーズの痛々しさをさらに引き立てているのがたまらない。

 決して彼女のスタンダードやキラーチューンといったタイプの楽曲ではないが、4分足らずの中にあいみょんの真骨頂といえる「ヒリヒリ感」と「きらめき」、そして巧妙なサウンドメイクが詰め込まれた至極の1曲だ。

『漂白』

 メジャーデビュー翌年に手掛けた映画『恋愛奇譚集』の主題歌。アコースティックギターのシンプルな音で始まり、最後のパートも同じ音で終わる構成が見事なバラードだ。映画のように壮大な起承転結が、トラックだけで完成している。

 出会いと別れを繰り返して生きていく人生を俯瞰で見たまなざしと、失った恋を忘れられない想いが入り混じる歌詞が切ない。

 中でも特に白眉なのが、絶妙な比喩の使い方。少女から大人の女性へと成長していく過程で日々傷つき、それを癒しながら生きていく「私」の気持ちを「心を優しい泡で洗い流す」と言い表す表現力には脱帽だ。

『生きていたんだよな』

 ポエトリーリーディングのような語りが、冒頭から異質な雰囲気を醸し出す楽曲。現代社会情勢をテーマにしたセンセーショナルな歌詞は、リリース当時賛否両論を呼んだ。

 一方で、過激な歌詞には相反するようにメロディはあくまで美しく聴きやすいものになっている。ピアノがアクセントになったサウンドも素朴でどこか神々しくもあり、いわゆる“美メロ”が特徴的な楽曲だ。

 <血まみれセーラー 濡れ衣センコー たちまちここらはネットの餌食><「危ないですから離れてください」 そのセリフが集合の合図なのにな>といった、そのままでは生臭い印象になってしまいそうな歌詞も、美しいサウンドによって聴き手の心にすんなり柔らかく入り込んでくるのが見事だ。

 あいみょんの楽曲の中では、情感豊かでありながら赤裸々な歌詞と、時にきらきらした輝きすら感じさせる“美メロ”が絶妙なバランスで共存している。そのことによって、どんなにやるせない感情を描いている楽曲であっても「切ない」「悲しい」だけではない“心地よさ”が呼び起こされ、それが多くのリスナーの共感を呼ぶのではないだろうか。

 まずはこの4曲から、彼女の不思議な魅力に触れてみよう。

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