奄美島唄と津軽三味線を取り入れたジャズバンド・黒船が10月10日に、3rdアルバム『Journey』をリリース。黒船の主宰は、TRI4THのベーシストとしても活動する関谷友貴。フロントにはNHK大河ドラマ『西郷どん』のメインテーマを歌った里アンナ、若手三味線プレイヤーの白藤ひかり。ジャズを日本の伝統を融合させ、独自の音楽を作り上げる5人組だ。このアルバムは彼らの3枚目にして、メジャーデビュー作品となる。今回はその黒船の関谷と里にインタビューをおこなった。「日本人にしかできない事を世界に発信したい」と語る彼らに、バンドのこれまでの歴史や、異なる文化を混ぜ合わせて創作する時の意思疎通について話を聞いた。【取材=小池直也/撮影=冨田味我】

日本人にしかできない音楽を世界に

里アンナ(撮影=冨田味我)

――3作目のアルバムでメジャーデビューとなりますが、現在はどの様なご心境ですか。

関谷友貴 2ndアルバム『BREAKTHROUGH』(2015年)から3年が経ちました。ライブでバンドサウンドを作り上げるということをしていたらあっという間に3年が過ぎてしまって。曲も貯まってきたし、そろそろ制作をしたいなという想いは去年くらいからあったんです。なのでクラウドファウンディングをして、舵を取り始めてはいたのですが、素晴らしいご縁でメジャーデビューとなりました、感無量です。更に色々な方に知ってもらうために、メジャーというフィールドで黒船をアピールしていきたいと思っています。

里アンナ もともと色々な方に聴いて頂きたいと思っていたんですけど、ご縁を頂けたことはメンバーも驚きで。本当に嬉しいです。

――当初の着地点として「メジャーに行きたい」という思いがあった?

関谷友貴 それはありませんでした。とはいえ新しい音楽を作っていると、なかなか知ってもらう機会が少ないなと感じる3年間でもあったんです。メジャーから声をかけて頂いた時に心機一転といいますか、道が開けるんじゃないかと。速攻で返事をしました(笑)。

――タイトル『Journey』はそんな門出にぴったりなタイトルですね。

関谷友貴 色々な意味が含まれています。収録したい曲に旅を連想させる曲名だったり、アレンジだったりが多かったんですよ。それでシンプルにこのタイトルになりました。別にメジャーのこととかは全く考えていなかったんですけど、不思議ですよね。他にも50くらい案を考えたんですけど、メンバーにダメ出しをくらって(笑)。

里アンナ リハが終わった後にやりましたね。そのまま「CARAVAN」というタイトルもありましたから。「それは…」とみんなから言われていました(笑)。

――そもそも、5年前のバンド結成はどの様なきっかけだったのでしょうか?

関谷友貴 黒船という名前ではなく、自分のソロワークと考えていたんです。もともと、とあるライブハウスでレコーディングライブを企画していて。「毎回メンバーを変えて面白い組み合わせで演奏し、それをすぐリリースする」という。そこで津軽三味線をフィーチャーしたジャズのピアノトリオを企画したら、好評で。ビジュアル的にも良くて「せっかくならDVD作ってみたら?」と言われていました。そこで「黒船」と名付けてユニットになったんです。その後にアンナちゃんと出会いましたね。すごい歌声で一目ぼれでした。

里アンナ 「本当にできるのかな?」という迷いは少し感じていて。私自身ジャズというものを詳しく知っているわけではないですし、耳にする事はあっても一緒にやるのは自信がなくて。お互いに同じ事を考えていたと思うんですよ。「何ができるんだろう」みたいな。私のメインは島唄で、デビューはポップスでしたし。でも面白そうだなという気持ちがそれを上回っていました。

――バンドを組むことに躊躇はありませんでしたか。

里アンナ ちゃんとバンドをやるのが初めてだったので。不安というか、それすらもよくわからない感じでした(笑)。

関谷友貴 アンナちゃんの歌っている「豊年節」という曲があるんですけど、それにとてもグッときましたね。それを自分なりにアレンジして、みんなで音を出したら「いけるかも」と僕は思ったんですよ。アンナちゃんはどうでしょう。

里アンナ 私も思いました(笑)。1番しっくりきましたね。

関谷友貴 「CARAVAN」も初期にやってはいたんですけど、ボツになったんですよ。

里アンナ レディ・ガガの曲もやっていました。何がこのバンドに合っているのか模索していた時期ですね。

――そういう実験の中で、それぞれのバックボーンの違いで苦労された点などは?

関谷友貴 共通の言語がないので、それをすり合わせるためにどれだけ分かりやすく言葉で伝えるか。それが大変でした。

里アンナ 島唄はすごく大変でした。島唄自体に譜面がないですし、同じ曲でも人それぞれ全然違う感じになったりします。三線の演奏の方が変われば流れも変わってくる。そんな中で、どこが1拍目なのかとかそういうやりとりもないんですよ。

関谷友貴 拍の感覚がないんですよね。

里アンナ それをどう譜面に落とし込んでくのか、そこがまず大変なところです。私自身も自分が三線を弾く時、誰かに演奏してもらう時、アカペラで歌う時、全部違うので。譜面上に起こされた、ある意味決められたものの中で歌うのがとても難しかったですね。慣れればいいのですが、慣れないと「今どこだ?」という感じになって(笑)。譜面に起こしてもらった私の歌は「その時の歌」。バンドに乗って歌う時はまた別物ですから、それは未だに何度もリハを重ねてすり合わせている感じです。

関谷友貴 基本的に自分のアレンジは土台を作っているだけなんですよ。歌に関しては基本的にアンナちゃんに任せています。三味線に関しても僕が作るフレーズよりも、三味線奏者が作るものの方が格好いいですから。なので、その人が光る様にある程度スペースを残しながらアレンジしています。狙いと違う方向に行っても「まあいいか」という気持ちもあって。僕もあまり知らなかったのですが、島唄も津軽三味線もジャズのアドリブに通じるところがあるんです。

――ジャズメンが自分のルーツを掘り下げる流れは世界的に起きていますよね。

関谷友貴 まさにそうです。僕もバークリー音楽大学に行っていましたし、ジャズを勉強してきました。津軽三味線と演奏して、初めて自分は日本人なのに日本のことを全然知らないなと気付いたんです。長い構想のなかで、いつかはこういうプロジェクトをやりたいなと思っていました。アンナちゃんと出会いもあって、ようやくできましたね。日本人にしかできない音楽を世界に発信していきたいなという気持ちはあります。

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