シンガーソングライターの高橋 優が10月24日に、通算6枚目となるオリジナルアルバム『STARTING OVER』をリリースする。前作『来し方行く末』から約2年ぶりとなるアルバムは、「ありがとう」や「ロードムービー」などシングル曲6曲を含む全16曲というオリジナルアルバムとしては過去最高のボリューム。高橋はこの曲数について「このくらいの曲数は出さないとスタートラインに立てない」と話す。楽曲が生まれた制作背景についてや『STARTING OVER』、再出発を意味するタイトルについての真意を聞いた。【取材=村上順一/撮影=冨田味我】

このくらいの曲数は出さないとスタートラインに立てない

高橋優(撮影=冨田味我)

――アルバムは全16曲とすごいボリュームですが最初からこの曲数でいこうと?

 ありましたね。実は創作意欲は初めの方はあまりなかったんです(笑)。アルバムは作りたいとずっと考えてはいたんですけど、次のアルバムは自分の再スタートを切るのに、適したものではないとこの先がないなと感じまして。このくらいの曲数は出さないとスタートラインに立てないなと思いました。

――このタイミングで再スタートという気持ちになったのにはどのような理由が?

 昨年あたりから幸せになって丸くなってきたと思って、でもそれが凄く中途半端な幸せだったり。おそらく余裕が出てきたと思うんですけど、それじゃダメだと思いました。もっと良い曲書きたいし、良いライブもしたい、自分が幼い頃にイメージしていたカッコ良い大人になっていきたい。でも、ここで現状で満足してしまったら自分が一番なりたくない大人になってしまうような気がして。それってどうなの? すごいの? みたいなところでやった感を出してしまっているような。僕はそういう人にはなりたくないから、そこでのせめぎ合いが1年くらいあって。その1年間はほとんど曲も書けなかったんです。その時はツアーなど他にやることがあったから良かったんですけど、でも結局最近まで書けなくて…。再スタートを切ろうと決めた辺りから、溢れ出すように曲が出てきて。

――再スタートと行っても過去を振り返る訳ではなく、新しい自分としての再スタートなんですね。

 そうですね。とは言っても、昔ながらの自分もいるんですけどね。原点回帰というわけでもなくて、今の自分を全部出して空っぽにしないと新しいものを入れていけないなと。まだ現時点で出し切ったとは言い切れないんですけど、楽曲としては今まで作ってきたアルバムの中でも一番生々しくなったし、自分の経験値を踏まえたものが出来たかなと。

――9月19日に先行シングルとして映画『パパはわるものチャンピオン』の主題歌でもある「ありがとう」がリリースされましたが、映画をご覧になられてからの書き下ろしでしょうか?

 そうです。映画を観させて頂いてから書きました。

――映画のどこにポイント置きましたか。

 まず、お父さんの仕事を理解したいけど、理解出来ない息子というテーマが映画にあります。人間関係がで喧嘩したりしてギクシャクすることって必要な儀式だと思うんです。人って近すぎると嫌なところが見えてきてしまうじゃないですか。その嫌なところが見えてきてからどうするかというのが、家族の始まり、人間関係の深化が見られるところだと思いました。この曲を書くにあたって、その嫌になってきたところからの描写を曲にしたいなと思いました。映画では描写されてない含みの部分も素敵で、家族のすれ違いと繋がりを「ありがとう」という言葉で表現しようかなと。

――家族をテーマにした映画ですが、高橋さんの理想の父親像はありますか。

 僕は子供が産まれたら育休で捧げたいくらい子供が好きなんです。近くに祖父や祖母がいたら、また違うとは思いますけど。

――5歳くらいまでで親と過ごす総時間の3割は終了してしまっているという数字が出ているみたいで、なるべく一緒にいてあげたいというのもありますよね。そういえば「美しい鳥」には数字が出てきます。美しい鳥と現実的な数字の対比が面白いなと思いました。

 親戚に小さな子が沢山いるんですけど、あんな鳥がいたとか、こんな虫がいたとか教えに来るんですけど、それに驚く大人ってあまりいないと思うんです。それは子供からしたら大事件なんですけどね。そこで疑問が生まれて、昔は色が変わったり動いたりするものに純粋に驚いていて、それはシンプルな感動だったのにそれに慣れていってしまって、シンプルではない数字が絡んでくるものではないと受け入れなくなってきている、これって僕らが何かに支配されていると思いました。大まかに言うとお金なんですけど。

 なぜ、みんな自分の感動に正直ではないのだろうと疑問を持ったのがこの曲を作るきっかけです。みんなが安定して感動出来るものの方に寄せられていって数字だらけになってしまうんだろうなと僕は感じてしまって。それに子供でも、子供のまま大人になってしまった人でも良いんだけど、そういう人たちに届けられたら良いなと。子供の時にみんなこんな風に思っていたよね、というところから始まった気がします。

――純粋なところで感動できなくなってしまったというのは本当に寂しいですよね。経験値が悪い方に作用してしまっていると言いますか。高橋さんは損得で動いてしまう一面もありますか。

 もちろんあります。やっぱり、これは生産性がないとか合理的ではないとか考えてしまいますよね。でも合理主義って生産的、意味のあることでないと存在する意味がないと思う人たちだって、昔は意味のないことにも思いを馳せていたはずなんです。生産的じゃないとダメというのもわかります。だけど、レコードやカセットテープは必要ないと言われても、今改めて聴きたい人たちが現れたり。今ではデータですから。音楽は形を無くしたと言われていますけど、今だにレコードもCDもカセットテープも存在している、というところに面白味があると感じているし、人たる所以がある気がします。

――どの歌詞も共感出来るポイントがあると思うのですが、この曲のポイントとしては?

 この曲は数字の話しをするとみんな耳を傾けてくれるというところです。最初に鳥の話しをした後で次のBメロで<1秒で4人増えて2人減る>というのは皮肉を込めています。こうすることで共感さえも皮肉にしたかったんです。というのも、普通は美しい鳥の話しをもう少し詳しく書くとかあると思うのですが、敢えて更に数字を押し出すことで、数字にとらわれた方たちにはより響くんじゃないかなと思いました。

――確かに数字にとらわれている自分にはすごく惹きつけられました(笑)。さて、「いいひと」という楽曲が歌詞とサウンドの対比が面白いなと思いました。

 この曲はデビュー当時に出していたら、スタッフに止められたでしょうね(笑)。かなり誤解を招きそうで。今だからブラックジョークを混ぜても大丈夫かなと。毎週関ジャニ∞の大倉(忠義)君とラジオ番組『大倉くんと高橋くん』というのをやっていて、そこであからさまになってきたものがたくさんあるので、ブラックジョークをやれるようになって来たのかなと思います。

――歌詞にあるようなことを考えることも?

 そうですね。でも全てが自分のことを書いているわけではないです。そういう風に思ってる人もいるだろうなと。なので、全てのいい人たちへ捧げようと思い書きました。心の内もよく知らないくせに、簡単に「優しい人ですね」とか言われると「何を知ったように…」とか思うじゃないですか。その思った自分の部分って何だろうと考えた時に、<地獄に落ちればいい>とか、<血祭りにあげる>みたいな歌詞が出てきて。そこでブラックな笑いが起きれば良いなというのと、いい人と言われたことがあるみんなで歌いたいなと。

――結構そういう方は多いと思います。

 この曲の発端はスタッフからの提案でした。そのスタッフもいい人とよく言われるみたいで。僕はその人と付き合いが長いのでわかるんですけど、いい人ではないんですよ(笑)。どちらかと言うと変った人で。基本的にいい人というのは社交的だったりその場の空気を読める人なので、いい人と言われると思うんですけど。彼いわく「自分はいい人ではないけど、そう言われている人の戸惑いを歌詞にしたら面白いかなと思って」と言われたので、その人への応援歌として最初は作りました。だけど、自分も含めてそういう人ってたくさんいるなと。

――ファニーな歌い方とサウンドの妙もあって。

 『映画クレヨンしんちゃん 襲来!! 宇宙人シリリ』の主題歌になった「ロードムービー」も今作に収録されているのですが、これを聴こうと思ったお子様がこの「いいひと」の曲調で気に入ってくれて口ずさんでいた際には温かい目で見守ってくれればいいなと(笑)。

――キャッチーなのでありえますね。

 <いい人ですねっていうのは 大抵都合のいい人って意味>とか、<ボコボコにして血祭りにあげる>とか意味も分からず歌い出しちゃったりして(笑)。

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