理想のシンガーソングライター像は槇原敬之

藤田麻衣子

──細かい話ですが、カバーを歌う場合は、最初に原曲を完コピしてから自分流に崩していくんですか?

 メロディに対する歌詞のハマリ方はなるべく忠実にしたいので、聴いてチェックをするんですけど、あまり聴きすぎると影響を受けすぎて、カバーではなくコピーになってしまいます。だから聴くのは譜割りの確認くらいに留めるようにしました。それと私の場合は、どんなアレンジの原曲でもまずピアノの弾き語りをして確認するので、それだけでも随分と自分流になります。その上で羽毛田さんにアレンジをしてもらって、それを聴いて歌を練習するというやり方でした。だから似せることはしないけど、リスペクトする部分はリスペクトするという感じです。

──最初にピアノの弾き語りをするときは、どこかで楽譜を入手して?

 いえ全部耳で聴いて確認します。歌詞は、歌詞カードでチェックします。楽譜も売っていますけど、やはりいちばん信頼できるのは自分の耳なので。

──槇原敬之さんの「もう恋なんてしない」も、ピアノとストリングスのアレンジで、違った魅力を放っていますね。

 小学3年生のころからCDを買って聴くようになって、初めて買ったCDが槇原敬之さんの「もう恋なんてしない」だったんです。続いてサザンオールスターズさんの「エロティカ・セブン」、classさんの「夏の日の1993」。今回収録しているZARDさんの「揺れる想い」も1993年の曲で、絶対入れたかった曲の1つです。一人っ子で親が共働きだったので、友だちとも遊ぶけど、家でひとり遊びするのが好きで。ブロック遊びをしながら、ずっとCDを聴いていました。平松愛理さんの「部屋とYシャツと私」も、そうやって聴いていた1曲です。

──もちろん今も恋の歌は多いのですが、90年代当時の曲はそれ以上に恋の歌が多かったような気がします。当時と今で違いは感じますか?

 当時の曲は、言葉の使い方やインパクトがすごいし、情景描写が具体的ですね。特に槇原敬之さんの歌詞からは、とても大きな影響を受けました。槇原さんの『うたのきろく』(幻冬舎)という、デビューからそれまでの180曲くらいの歌詞が載った本があって。22歳くらいのときに読んだんですけど、1曲ごとに短編小説を読んでいるようなストーリーがあって、まるで少女漫画を読むときのような気持ちで読めて、「これはすごい!」と思って感銘を受けました。写真も何もいらない、言葉だけで勝負できる歌詞集を出せるのは凄いことです。それで将来自分も、歌詞だけで自分なりの物語を紡げるようなシンガーソングライターになりたいと思うようになり、自分でも景色や季節感を取り込んで歌詞を書いていくようになりました。

 私が思う正統派シンガーソングライター像の、ど真ん中にいるのが槇原さんです。詞も良くて曲も良くて歌声もいい、まさしく三拍子揃った方。自分もそういう風になれたらいいなと思う、理想のシンガーソングライターです。だから槇原さんの歌は絶対に入れたくて、槇原さんの曲で初めてCDを買った「もう恋なんてしない」をカバーさせて頂きました。

──平松愛理さんの「部屋とYシャツと私」は、どんな思い出がありますか?

 小学生のときからすごく好きな曲のひとつで、<毒入りスープ>というフレーズが子どもながらに衝撃的で、浮気されたら毒入りスープを作らなければいけないものと思って、ある種の怖さも感じていました(笑)。シンガーソングライターになって聴くと、改めて歌詞のすごさに驚かされます。当時は怖いイメージが強かったんですけど、フルサイズを最後まで聴くと、ホロリと泣けるんですよね。たった5分で人生を最後まで描き、でも使っている言葉は、すぐそばにある日常的な言葉ばかり。そんな歌詞を書けるのは、本当に凄いことです。

 以前に神戸でライブをやったときに、神戸にまつわる曲を歌いたいと思って、平松さんが神戸出身ということでカバーしたことがあって。そのときも、来て下さった女性のお客さんがみんな泣いていました。その経験からも、カバーアルバムを作るにあたって絶対に入れたいと思っていました。

──他に、山崎まさよしさん、今井美樹さんなどのカバーも収録しています。

 山崎まさよしさんの「One more time, One more chance」は、友だちがカラオケで歌っているのを聴いて知った曲で、歌詞に惹かれて、カラオケの画面から目が離せなくなってしまったことを覚えています。また、今井美樹さんの「PIECE OF MY WISH」は、22歳で東京に出て来たばかりの頃に聴いて好きになった曲で、落ち込むことがあるとこれを聴いて、勇気をもらっていました。竹内まりやさんの「シングルアゲイン」は、ボサノバ調にアレンジを施して、気だるさのある歌い方をしていて。どちらも初めてやったことで、自分にとってはチャレンジだったし、新境地と呼べるものになりました。

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