andropの新曲「Hikari」が好評だ。8月2日に先行配信され、各チャートで上位にランクインしている。同曲は、山崎賢人が主演を務めるフジテレビ系ドラマ『グッド・ドクター』の主題歌として書き下ろした。ボーカル&ギターの内澤崇仁による楽曲は近年、提供曲の「カタオモイ」(Aimer)、「ストーリーボード」(上白石萌音)などに見られるように、メロディと歌詞で描く独特の世界観が高い評価を得ている。しかし、今回は、ドラマがサヴァン症候群を抱える小児科の研修医というテーマだけに、楽曲として表現するのは難しい。それを内澤はどう向き合い、楽曲にしたのか。【木村陽仁】

第一話を見て音源差し替え

 ドラマは、小児外科医を舞台にした物語。山崎賢人が演じるのは、驚異的な暗記力を持つ一方で、コミュニケーション能力に障害があるサヴァン症候群の青年・新堂湊。研修医として小児外科に配属した彼は、周囲からの偏見や反発にあいながらも、子供たちの命のために闘い、そして寄り添い、ともに成長していく。

 内澤は楽曲を制作するにあたり事前に、ドラマプロデューサーと打合せし、複数回におよびデモや歌詞のやり取りをおこなった。ドラマ初回放送の直前にテレビ使用の1コーラスのみの音源が完成。ドラマ第1話を見ながら、フルサイズの歌詞を考えた。それと同時に、歌にもう少し柔らかみを持たせた方が良いと思い、歌い方や微妙な譜割りを変えて録り直し、ストリングスも生演奏に差し替えたとのことで、途中の放送から音源が差し替わることになった。

 オファーを受けた後にまず原作を観たという内澤。主人公が、偏見やいろんな壁にぶつかりながらでも、純粋な心で様々な登場人物の心の闇に光を当てており、その闇で光を照らされた人が次第に変わっていく、ところに惹かれたという。

 そのなかで完成した楽曲。タイトルの「Hikari」。この「光」という言葉は、今までもandropの楽曲の中で何度も使われてきた。しかし、同じ「光」でも角度によって色彩や形が変わるように、この楽曲で使われる「光」はまた違う。弱い光もあれば、強い光もある。どちらかと言えば、弱い光を強くさせたいという「切なる願い」にも似た希望のような光にも感じられる。

様々な世界が宿る「Hikari」

androp「Hikari」

 楽曲は、ドラマが放送を終えた後も歌い継がれていくものだ。ドラマを観た人なら、楽曲から物語の世界を思い浮かべるだろう。逆にドラマを観ないで楽曲を聴いた人ならば、歌詞を自身の人生に重ねて前に進もうとするだろう。ドラマに寄り添いながらも、決してドラマだけで完結させない。その意図が十分に表れているのが「Hikari」と言える。それは曲作り、言葉選びにも反映されている。

 そして、一つの楽曲に様々な「表情」がある。様々な「世界」を宿している。

 楽曲は、ドラマ用のピアノバージョンと通常バージョンがある。この2曲だけでもそれぞれ特色があり、別の楽曲のように聴こえるが、同じピアノバージョンでもドラマで流れる時とは異なる表情を見せている。楽曲そのものはしっかりとした「個」をもっているが、ドラマで流れるとそれが無くなる。まるで無色透明のよう。主体である楽曲が、ドラマでは物語に同化している。主体と客体が入れ替わる妙な楽曲だ。

 また、シングル表題曲の通常バージョンもまた異なる表情を見せている。ピアノバージョンとは異なるピアノの音色。晴れやかでもなければ、暗くもない。コードは、メジャーでもなければ、マイナーでもない。多彩な音色を、既定の“位置”には置かずにややずらす。それが人によっては不協和音に感じるかもしれない。

 音色も譜割りもあえて“不安定”にさせているように感じる。しかしそれは、サビや終盤で安定化する。波がおさまり、鏡のような海が凪ぐ印象だ。その“潮の変わり目”を、サビ前のピアノとヴァイオリンが演出している。

 そして、歌詞。以下はAメロの歌詞だ。

<365日をあなたと過ごせたら>
<思い通りにいかない日があっても>
<それすら「幸せ」と呼びたい>

 冒頭から現実を突きつけている。思い通りにいかない新堂湊。小児科医の現状。小さな鼓動を鳴らす子供の命。それを重ねるような言葉を並べる内澤。しかし、サビは希望の光を当てようとしている。

<光に変えてゆくよ どんな暗闇も>
<夢見た未来が途切れないように>
<生まれる明日が眩しく光るよ>
<そこから僕が連れてゆく>

 受け入れがたい現実も、希望の光によって前へ進ませようとする、そんな思いが見え隠れする。

 内澤は、小児外科医が舞台のドラマの世界に寄り添いながらも、聴く人のそれぞれの人生に重ねるような言葉選びをしている。テーマの難しいドラマの世界観と、一般社会をものの見事に両立させる。それもメロディに乗せた上で。改めて彼の作詞力の高さを感じさせた。

選んで 選ばれて あなたといる

 そして、この楽曲を決定づけさせているフレーズがある。Dメロだ。

 内澤は楽曲を作るにあたり、埼玉にある「埼玉県立小児医療センター」を訪問している。日本で有数の最先端設備が整う同院で、病室やナースセンター、ICUなどを見学し、小児患者にも面会した。そこにあったのは医療現場の厳しさだった。新たな命が生まれる一方で亡くなる小さな命。病院で突き付けられた現実に内澤はきっと心をえぐられたことだろう。それがDメロに表れている。

<始まりと終わりが在る場所で>
<やっと巡り会えた>
<選んで 選ばれて あなたといる>
<一人じゃない>

 SNSでは、この楽曲に対する評価として「泣ける」や「このドラマは毎回泣かないで見られない。更にこの曲が追い打ちをかけて来る」との言葉が多数書き込まれている。

 選んで、選ばれて、あなたといる、一人じゃない――。心で繋がる命。自然と涙が溢れてくる。

 ドラマは次回が最終話、この楽曲が希望の光となりドラマを結んでくれるだろう。

 ※山崎賢人の「崎」は正しくは、つくりが「立」に「可」。

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