若い世代を中心に人気を集める米津玄師。今年2月に配信リリースされた「Lemon」が150万DLを突破、YouTubeでのMV再生数が1億5000万回を超えるなどのヒットを飛ばし、最近では、<NHK>2020応援ソングプロジェクトとして、小学生ユニット「Foorin」が歌う楽曲「パプリカ」を書き下ろすなど、その活躍は目覚ましい。なぜそこまで支持されるのか。彼が作る楽曲の魅力、そしてそこに至る原動力を考察したい。【文=小町碧音】

寓話的な奥深さ

 まず、彼の半生を振り返りたい。米津は母親の影響もあり、小さい頃から絵を描くのが好きだったようだ。絵が好きだった少年が音楽に関心を持つようになったのは、小学校高学年から中学生にかけてのこと。ニコニコ動画の存在を知った彼は、ボカロPとして“ハチ”名義で音楽活動をスタートさせる。彼はジャケットのイラストを自身で手掛けることでも知られるが、その当時からCDジャケットやMVなどのイラストは自身で描いている。独特の世界観を緻密な歌詞によって描かれる歌はその界隈で人気を集め、2012年には本名の“米津玄師”名義で自身がボーカルをとったアルバム『diorama』をリリース。翌年には同名義でメジャー1stシングル「サンタマリア」をリリース。その後の活躍は前記の通り、数字でも表れている。

 なぜ米津の楽曲は支持されるのだろうか。その理由の一つに、楽曲が持つ寓話的な奥深さが挙げられる。1曲1曲にしっかりとした物語性があり、歌詞による情景描写がそれをよりリアルに映し出している。リスナーはその物語に自然と惹きこまれ、いつしか自身の状況や過去に重ねている。映画の主人公が台詞を吐くのに近いような歌詞も特徴的なところといえるだろう。

「あたし」という存在

 その寓話的な奥深さを演出するのは、楽曲のなかで登場する人物を指す表現だ。彼は楽曲の歌詞で、一人称を「あたし」、二人称として「あなた」を使うことがある。言葉ひとつひとつに拘るところからも、彼自身の繊細なセンスが窺える。

 例えば、「アイネクライネ」という楽曲。主人公の女性は決して強くない「あたし」であり、サビで<消えない悲しみも綻びもあなたといれば/それでよかったねと笑えるのがどんなに嬉しいか/目の前の全てがぼやけては溶けてゆくような/奇跡であふれて足りないや>とあるように運命的に出会えた「あなた」の存在が「あたし」の心の大きな指針になっている。この楽曲はMVからもその登場人物の様子が鮮明に描かれており、どのような物語で進行しているのかというのは想像しやすい。

 「アイネクライネ」以外にも「花に嵐」、「眼福」、「orion」、「かいじゅうのマーチ」、「Lemon」なども「あたし」を救ってくれた「あなた」に心から感謝をしているのが伝わる楽曲だ。

 また、「花に嵐」と「ホープランド」という楽曲では、更に具体的な情景描写が施されている。「花に嵐」は、サビ冒頭の<はにかんで笑うその顔が/とてもさびしくていけないな>で登場人物「あなた」の細かい表情を伝え、<雨と風の吹く/嵐の途中で>では天候を知らせている。更には<あの花の色とその匂いを>ではその場の空気までをも設定している。

 更に、<悪戯にあって/笑われていた/バラバラにされた荷物を眺め>と「ホープランド」の2番冒頭の<いつだってその手に丁度いい/憎める敵を探している/そうやって独りをつるし上げ/皆で笑い合うんでしょう>は共通して、イジメに触れたようなテーマだ。

 このような楽曲から浮かび上がるのは、米津はどちらかといえば「あたし」を経験してきた側だったのではないかということだ。彼の楽曲からは弱者に寄り添うような文脈が見えるからだ。

 例えば「眼福」には、<あなたのいる未来が/ただこの目に映るくらいでいい/私はそれで眼福さ>という温かな感情を表したフレーズがあるが、彼自身が孤独を知っているからこそ、書ける歌詞なのだろう。自分に味方はいないと諦めていた「あたし」を、たった一人でも救ってくれた人がいる。その人は「あたし」にとって尊い存在なのである。米津の楽曲に描かれているような孤独を経験した後に、人生の転機ともいえるほどの運命的な出会いを果たした人は、すなわち米津自身であり、その楽曲の主人公を自分だけのものとせず、多くの人に寄り添えるようにしたためる。その表現が、聴く者の人生をより身近にさせる。それは結果的に共感を呼びリスナーの心の琴線に触れやすくしている。

影響を受けたアーティスト、作品

 そんな魅力的な楽曲を作り上げる原動力はなにか。独特な雰囲気の楽曲を作る点においては、生い立ちも関係していて、例えば「海と山椒魚」では、出身地である徳島県の土地柄に根付いた言葉を歌詞に綴っている。

 また、BUMP OF CHICKENや、ASIAN KUNG-FU GENERATION、RADWIMPSなどのアーティストが、彼に大きくインスピレーションを与えた。米津自身、歌謡曲などの先人たちが積み上げていったものを紐解いていくことが大切だと公言している。例えば、BUMP OF CHICKENを例に挙げるとすれば、その楽曲の物語性の高さに引き込まれ、そのオマージュを米津のオリジナリティある楽曲へと昇華していった。

 そして、もう一つ、ジブリが挙げられる。米津はジブリ作品好きだ。例えば「飛燕」は『風の谷のナウシカ』からインスピレーションを受けた曲であり、他にも『千と千尋の神隠し』など数々のジブリ作品が自身の音楽制作に影響を及ぼしているという。

 米津の寓話的な楽曲は、こうした影響も少なからず受けており、米津の才能にこれら養分が加わり、生まれている。そして、言葉ひとつひとつがとても丁寧に使われていることも物語性を増幅させる要因になっており、彼の魅力を引き立てている。今後も米津はリスナーを新たな寓話的な楽曲のストーリーへと連れていくのだろう。

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