歌手・女優の知英(歌手名義=JY)が主演する映画『私の人生なのに』が公開された。過去は、音楽グループに所属しアイドル的な存在として活躍していたということもあり、歌とルックスという部分で大きく注目を集めていた知英だが、近年は映画にドラマ、しかも本作を含め主演を行う機会も多い。海外の役者が日本人の役を演じるということでハードルの高さもあるはずだが、日本の反響の中でも彼女に対する反響は好評が多い。今回、映画の舞台挨拶に加え単独インタビューと、諸々に恵まれた取材の機会の中からは、表目から見える以上に役柄に没頭した役者としての姿が認められた。

 現在は日本での活動を主とする知英だが、日本語についてはすでに皆が問題ないと認めるほどに。『私の人生なのに』の舞台挨拶はもとより、それを見た観衆からも言葉のハンデなど全く感じさせないとのコメントがある。映画の関係者では「むしろ日本人の私のほうが、言葉の発音に問題ありそうなくらい…」などと冗談半分に語るほどだが、インタビューで質問を投げかけると、まず自然に「そうですねぇ…」などという言葉が当たり前に出て、言葉のやり取り自体にストレスを感じさせなかった。

舞台挨拶に立った知英

 単に“日本語が喋れるようになった”というと、質問と回答のやり取りは相当な間を覚悟しなければならないところでもあるが、そういう心配なども全くなく言葉のやり取りは進んだ。インタビューでは役柄に関して入り込むことを意識していたという発言が目立ち、”日本人の中での撮影”を振り返ってもらっても、今回の役柄に沿った新体操、車椅子、ギターの弾き語りといった新たなチャレンジに不安をのぞかせていたことは明かすものの、そこに言葉などのプレッシャーは感じていなかった様子を見せている。

 本作の演技でも、例えば“泣く”“笑う”といった個々の演技が単に積み上げられているというものではない、一人の人間を表す一貫性も感じられ、まさに映画の主役・“金城瑞穂”になりきった感じを受けた。映画の共演者である稲葉友や落合モトキが“現場そのままの雰囲気にいさせてくれる”と揃って語っているところが印象的でもある。そこに”知英”という姿は見えないのだろう。

映画『レオン』映像作品のPRイベントでの知英と竹中直人

 今年初めころに公開された映画『レオン』で共演した俳優の竹中直人が知英に対して「感情開放がちゃんとできている」と専門的な評価を下していたのも印象的でもある。本作を手がけた原桂ノ介監督は、以前同じく監督が手がけたオムニバス映画『全員、片思い』の一遍でも知英を主演として起用している。この作品では知英が、性同一性障害の韓国人留学生というかなり特殊な役柄を、独自の世界観で表現している。原監督は役者として知英を高く評価しているが、この二つの作品だけでもそれはかなりうなずける結果である。

 さらに近年では『レオン』やドラマ『オーファン・ブラック~七つの遺伝子~』(フジテレビ系)で一人7役という難役にも挑戦、“カメレオン女優”といえるほどの多彩な演技バリエーションを見せているが、もちろんそのバリエーションというものが単なるうわべだけのものではなく、かなり役に入りきり、なりきるという部分に長けている。もちろんその一端を担うのは、卓越した日本語力によるところも大きく、その力を会得した努力も、目を見張るものがある。

インタビュー後に撮影に応じた、知英

 その実力は、単に“日本語のうまい役者”などという基準ではない、日本の優れた役者と並べても遜色のない評価ができるだろう。近年、海外の役柄に現地の言葉で役者として活動する例としては、ディーン・フジオカや大谷亮平、藤井美菜などの例も挙げられるが、逆に日本にやってきた海外のアーティストというところもあり、知英はかなり突出した印象もある。さまざまな意味での「カメレオン女優」として、益々の活躍が予想される知英だが、今後はさらにスケールの大きな作品でも活躍を期待したい。【桂 伸也】

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