<エンタメ界の30代 Vol.7>
 変革期を迎えているエンターテインメント業界。テレビ最盛期やミリオンヒットが続出した時代に青春を過ごした30代は今まさに、その最前線で活躍している。その30代は今何を考えているのか、その人の考えや業界の展望を、リレー形式でインタビューする本企画。今回は、奇跡の大ヒットを遂げている映画『カメラを止めるな!』の上田慎一郎監督。若き日は失敗の連続でホームレス生活もしたことがある監督。今の大ヒットをどう見ているのか。「泣きよりも笑い」「苦しい人生をもコメディに変えたい」という監督の素顔に迫った。【取材・企画=山本圭介(SunMusic)/文・撮影=木村陽仁】

想像していなかったヒット

 映画『カメラを止めるな!』(配給・ENBUゼミナール)で脚本・監督を務めた上田慎一郎氏。今まさに「時の人」だ。約300万円という低予算で制作された同映画の出演者はほぼ無名。しかし、6月に都内の小劇場で上映されるとSNSなどによる口コミで瞬く間に広がり、全国150館以上で上映されることになった。

 世間では奇跡のヒットと呼んでいる。当事者の上田氏も「ここまでの事になるとは想像もしていなかったです」と驚きを隠せない。メディアや有識者のなかには「戦略的に考えられた作品だ」と分析し太鼓判を押すが、「全く考えていませんでした」と照れ笑い。しかし、そんな奇跡も偶然起きたわけでない。「ヒットさせたい」と思うキャスト・スタッフ全員が、草の根の宣伝活動をおこなった。

 「キャスト・スタッフがこの映画のために、公開日からずっと舞台に立ち続け、お客さんと接して、毎日SNSで発信している。『ヒットする』という奇跡の前に、こんなにもキャスト・スタッフ全員が『見てください』と発信し続けている映画はないと思う。『その“奇跡”が先なんです』と言いたいですね」

 上田氏いわく、作品には何かを狙ったような作為的なテーマは設けない。

 「僕が俳優に『テーマが映画愛、人間賛歌なので、これをしっかりと頭に入れてやってください』と言ったら嘘くさいものになる。とにかくただただ面白いものを作ろうと。テーマとかメッセージは絶対滲み出てくる。自分らしさなんてことも考えない。消そうと思っても消せないものが『個性』だと思います」

 「泣き」よりも「笑い」を撮りたい――。中学生の頃から映画に興味を持ち、ハリウッドを目指して英会話スクールに通っていた大阪で人に騙され、その後、映画の世界を目指して移り住んだ東京でも詐欺まがいの怪しいビジネスに遭い、一時はホームレス生活もしていた。そうした苦難の人生をも「コメディ」の肥やしにしている。上田氏は今の状況をどう思っているのか。そして映画に懸ける思いとは。

 監督・上田慎一郎が“形成”されるまでの歩み、そして、現在の想いを聞いた。『カメラを止めるな!』にならい、二段構成にしたい。まずは、作品と監督としての想いについて。(前半約5300文字/後半約3500文字)

記事タグ