やさしさって難しい

「勿忘にくちづけ」初回限定盤

――「distracted」のメロトロン演奏は、「勿忘にくちづけ」でもピアノを弾いている西村さんですね。

 『Lazward Piano』という、ピアノと私のアコギと歌だけという編成でおこなっているツアーでも、ずっと弾いてくださっています。いろんな音楽に対する情景みたいなものを共有しながら、これまで7年くらい一緒にやってきてくれました。だから、今回もすぐにできるだろうと思っていたのですが、すんなり一発でレコーディングというわけにもいかなかったですね。たった3音を弾くだけですけど、それを5分間奏でるのはとても神経を研ぎ澄ませなければいけなくて。今回のCDに収録された音源が録れたときは、「きた!」という感じで、私も力が入ってしまいました。

――歌詞としては、どんなことを歌おうと思ったんですか?

 やさしさというものについて、いつも考えていて。やさしさとみせかけて、それはその人自身へのやさしさだったりする場合でもあって。結局そのやさしさの矛先が、どこを向いていたのか…。やさしい言葉をかけることはできるけど、本当にその人を救うつもりでやさしいことを言ってくれることができる人は、すごく少ないと思います。たとえば直接的にやさしいことを言わず、めちゃめちゃ笑わせてくれるとか、めちゃめちゃ茶化されるとか。そういうことを、本当に必要な言葉だけで、自分が書きたいと思う言葉だけを吟味して、1曲にしようと思って書きました。何かにまぎれていると言うか、まぎらわすといった感じのやさしさのことを歌っています。

――「distracted」は、散漫という意味ですが、どうしてこのタイトルに?

 最初は、まさかここでは口に出せないような仮タイトルをつけていて。言葉の響きが良かったんですけど、人としてどうなのかと疑われそうな言葉だったので、それに勝つ言葉をちゃんと考えようと思って。それで、この言葉を見つけたときに、これしかないなと思いました。

――聴いた人に、やさしさを感じて欲しい?

 今年の頭に『植田真梨恵 Live of Lazward Piano “bilberry tour”』をおこなったときに感じた、美しいことだけをして生きていきたいと、私は今も強く思っていて。何かに迷ったとき、こっちのほうが美しいと思えるものを決断していきたい。そういう気持ちで、ただ美しい曲を作りたいなと思って作りました。

――その美しさというのは、具体的に言うと?

 誰にとっても美しいと思えるものだったら、それがいちばんいいなと思うんですけど…。私の中では、誠意や潔さ、音楽を混じりけのない気持ちで作ることもそうだし。みなさんが私の歌を、心の底から求めて聴いてくださることも美しいです。そういう純粋なものが、私にとっての美しさにとても近いんじゃないかなと思っています。

――そういう美しさを求める結果、自分が苦しくなったりはしないですか?

 むしろ昔ほどの葛藤がなくなりました。それが自分にとっての基準になったので、何がしたいかが自分の中で明確になりましたね。こうしたいと思っても、それは美しくないからやめようとか。

――さて、7月にインディーズデビュー10周年。大阪と東京でアニバーサリーライブが開催されます。10周年、どんなお気持ちですか?

 実感はありませんが、どうやら私も27歳で、時は流れているようです(笑)。とても恵まれた環境で、やってこられた10年だったと思います。10年前と変わらないマネージャーが今も側にいてくれて、同じ体制で曲を作り、ずっと応援してくださっているみなさんへ届けられています。この状況は、今の音楽業界では、すごく稀で平和なことだと思っています。この今の状況に感謝しつつ、今後はもっと冒険していきたいと思っています。私自身はまだまだですが、そのときにベストだと思えるものを常に届けてきました。これからも、そのときどきでその曲の最善を見つけて届け、後悔のないように美しいことを積み重ねていけたらと強く思います。

(おわり)

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