ジャマイカのルールじゃ日本では理解されない

――「あー夏休み」はサビを大胆に引用されていますが、これについては?

 サビは1カ所だけ変えさせてもらって、あとはそのままサンプリングしています。僕がまだ音楽でご飯が食べられていない頃に、シンガーの仲間と「全然売れへんな俺ら」とか家で話をしていて。その時にTUBEさんがハワイで白人相手にライブしているすごい映像を彼に見せていたんです。「夏男で毎年夏にパフォーマンスして、言葉がわからなくてもすごい盛り上げている。この人の夏感を出すセンスヤバくない?」と訊くと、彼が「(寿君も)できるんとちゃうん?それっぽいイメージやで」と言ってくれて、「なれるかな?俺、レゲエ界の夏男になろうかな」と答えたんです。

 それがもとで僕の生まれた1985年に一番好きな「シーズン・イン・ザ・サン」がリリースされている事もあり「SEASON IN SUMMER」(2012)という曲を書きました。それが僕の初めてのミュージックビデオだったんですが、あれよあれよと100万回再生(現在は480万回)されて驚きましたね。インスタグラムとかで台湾からメッセージが来たりして、すごい可能性を感じて、それから毎年夏の曲を書いていて。

寿君(撮影=冨田味我)

寿君(撮影=冨田味我)

――ではなぜこの選曲に至ったのでしょうか。

 事務所の社長とカラオケに行った時にミスチルを歌ったら評判が良く「おまえ絶対Jポップもいけるから、Jポップで好きな曲はないんか?」と聞かれたんです。その時に僕も夏男なので「『あー夏休み』とか好きです」とやりとりしたのがきっかけです。その後に「あー夏休み」をまるまるカバーしたものと、サビだけカバーしたものの2つをデモで作ったら「寿テイストが入っていた方が良いな」と。

 デモ版はあるロックバンドに演奏してもらったものでしたが、本番はNAOKI-Tさんがスカとサンバの間をとって僕らに近いビートを作ってくれました。ちょうどレゲエの現場でも、EDMとかパリピが集まっているパーティでもいけそうなバランスの良いカバーができたと思っています。

 MVはせっかくのカバーなので、当時のバブル感を出して、世界的なダンサーのJAKENにも振付をしてもらっています。間奏に皆で踊れる曲とかは今までなかったので、ライブで歌うのもとても楽しみ。振付も是非覚えてもらいたいですね。

――硬派なシンガーだと振付は恥ずかしいという方もいらっしゃるそうですが、寿君さんは?

 そういう人もいますね。それはその人のスタイルだと思います。僕がそんな事言ったら「なに調子乗ったこと言っとんねん!」って話になりますし(笑)。ジャマイカのアーティストでも踊りながら歌うのは全然普通ですから。何が格好良いか、何が正解かを考えるよりもまず楽しむ事が最初だろと感じました。

 ジャマイカのルールで音楽をやっても日本では理解されないんですよ。現地語で歌った事もありますけど、日本のお客さんの反応は微妙で。「何がレゲエか」という事をジャマイカに長いこと住んだ経験を経てよく考えるんです。あの人らは自国の情勢、水が止まったり、銃で殺される現状があってのリリックですから。しかもジャマイカ人に向けて歌っている。

 それをモノマネして日本でやる事がレゲエかと考えたら、僕は違うと思います。あの人たちは音楽をパワーにして、レゲエを生きがいにしているんです。そっくりそのままそれを教科書みたいにしてもダメ。求められているものがそれぞれあって。僕は「ジャマイカ人がやらない事を日本でやっている俺の方がラガ(レゲエ)なんじゃない?」と思ってやっています。そうじゃないとモノマネ大会じゃないですか。

寿君(撮影=冨田味我)

寿君(撮影=冨田味我)

――「あー夏休み」、個人的にはバース(Aメロ)のリズムや韻が印象的でした。

 <Burn up!! Burn up!!>と歌っている部分とかは間違いなく僕の言葉なんです。上手い感じに踏んでいくのが僕の表現の仕方。ジャマイカのレゲエもそうです。でも、その中に<狙いを定めるオオカミBoy><叩き付ける水の音><夜は夜 浴衣に花火><ためらいは蚊帳の外に>など、TUBEの原曲からも引用しているんですよ。

 前田(亘輝)さんがオオカミBoyをこう言うなら自分はこう言おう、という感じで自分なりの表現で言い直したんです。「寿君ならこう言います!」という事にすごいこだわりました。原曲を大事にしているので、TUBEファンの方にも喜んでもらえたら良いなと思っています。TUBEのメンバーの方にも「こいつ面白いカバーしてるな」と思ってもらいたいですし。

――「SUMMAH!!」もかなり気持ち良い踏み方をしていますね。

 1年半くらい前に僕がジャマイカに住んでいる時、違う曲のMV撮影でLAに行くことになったんです。結構時間に余裕もあって、この曲は撮影の待ち時間に書きました。サンタモニカだったので<Santa Monica気取りの道のり>と。西海岸で降りてきた言葉をそのまま書いたという感じです。MVを撮りながら遊んでいたら出来た曲なので、日本語をこうこだわろうという感じではなく「いつもこんな遊びをしてますよ」という感じで。

――やはり場所というのは曲作りに関係しますか?

 めっちゃ関係しますね。<夢見がちの帰り道はTraffic>、トラフィックは渋滞という意味ですが、帰り道が渋滞するのは海外だとありがちなんです。海岸線で一定に波が押し寄せる感じが音楽の様だな、と感じてリリックが出てきたり。そういった曲に合わせてイメージ膨らませるためにも環境を変えて、沖縄で曲を書いたり、ジャマイカで書いたり、東京で書いたり。環境をわざと変えて曲を書くことがたくさんありますね。全然違うものになりますよ。

 人はいる場所や、見てる景色で言う言葉や考える事が変わります。東京に行って得たものがあってから大阪に行くと、話題の温度差を感じる事もありますね。一緒にいる人によってもそうですし。コンクリートの上で人にぶつかりそうなのを避けながら暮らす毎日とジャマイカとでリラックスした曲を書くと、リラックス度って全然違う。環境が顕著に反映されるんです。

――SPICY CHOCOLATE名義の「キミと未来 feat.Ms OOJA & 寿君」は2016年の作品です。過去の作品を収録した意図は?

 この曲は時代とか関係なしに、いつ聴いても良いなと思える歌だと思っています。デュエットに持ってこいなので、カラオケで男女に歌ってほしいですね。こういうテイストは今まで書かなかったんですけど、SPICY CHOCOLATEがMs OOJAさんと出会わせてくれて作る事ができました。メジャーデビューのきっかけになった曲でもあるんです。

 「お前の音楽なんか認めてないぞ」と言っていた兄も、「おまえめっちゃ頑張ってるやんけ! 俺Ms OOJAさんを超リスペクトしてるで」と家族からも応援してもらえる様になって(笑)。思い入れが深いです。Ms OOJAさんもお姉さんのような優しさで、安心感が半端ないんですよ。背中も押してくれて、自分がパワーをもらえる。未来に期待したいという気持ちも込めて、是非アルバムに入れたいなと。

――夏ではない「大阪 X’mas Eve Lover」についても聞きたいです。

 これは去年の曲で、初めて作ったクリスマスの楽曲。地元大阪を舞台としたご当地ソングなので、御堂筋とか難波が出てきます。シンガースタイルも見せたかったのでこういうバラードで聴かせる曲も欲しいと思っていました。だったら夏と真逆にいったろうと。このアルバムに入れたい過去の曲は他にもあって却下もしてきたんですけど、この曲は絶対要るだろうと考えていました。変化球になれば良いなという狙いもあったんですけど、流れ上必要不可欠な曲になりましたね。

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