東京は面白いことの奴隷になるのは簡単な街

大森靖子(撮影=冨田味我)

――情報の質量というのは面白いですね。さて、今作には「東京と今日」という楽曲が収録されていますが、愛媛出身の大森さんが初めて東京に来た時どのような印象を持ったのでしょうか。

 とにかく電車が速いと思いました。地元と比べたらアトラクション並みですよ。地元の電車のスピードはみなさんが思っている5倍はガタンゴトンと遅いんです(笑)。山手線がディズニーランドに感じましたから。

――人混みはさほど気にならなかった?

 私がその時に住んでいたのが小平市でそんなに人の多さというのは、びっくりはしなかったです。割と閑静な所で、コンビニまで歩いて10分はかかるみたいな。愛媛の実家はマンションの下にコンビニがあったので、実家の方が人は多かったです。

――でも渋谷のスクランブル交差点はよく上京された人が驚きますけど。

 渋谷は確かにそうですね。でも私は渋谷より新宿の方が街としては好きです。渋谷は渋谷の人みたいな…新宿はいろんな人がいるんです。私の東京への憧れは色んなものが混ざり合っているというところに魅力を感じているので新宿が好きです。

――確かに新宿の方がそのイメージありますね。この楽曲を作ろうと思ったのにはどのような背景が?

 東京都の広報の方からオファーを受けまして、東京都公式動画チャンネル『東京動画』のために書かせていただきました。東京は今、私が住んでいる場所ですし、そこの地に足をつけて歩いているという自覚があって、いつも東京について考えていたので、そのままそれを落とし込むだけでした。

――もう上京されてから12年が経つわけですが、新しい気づきとかありました?

 人が作り上げた街で、人のひらめきによって出来た新しいものに囲まれて、そこにまた人が集まって、また新しいことを考える人が現れての連鎖、その回転が早くて何かを作っていける場所だという印象があります。

――その場所の中で何か思うことはありますか。

 何にでも思想はあると思うんですけど、その思想を作った人はもういませんよねと思うこともよくあります。空っぽの思想に凝り固まって何かを作っていることに何の意味があるのかなと。とにかく自分で考えるというのが重要だと思っています。毎日人が考えていることなんて変わっていくので、毎日思考していかなければと思っています。東京は面白いことの奴隷になるのは簡単な街だと思うんです。自分はそれでは嫌なんです。でもそれに甘んじていける街でもあって。

――僕もそうかもしれないですけど、大概の人が甘んじている可能性もありますよね。

 そうですね。でも私はそれが嫌で(笑)。

――だからこういう楽曲ができるわけですからね。さて、今作で新しい“大森靖子”を表している曲はどれになると思いますか。

 もう全部です。そうでなければ新しいものを作る意味を感じないということもあって。あえていうなら「死神」がその中でもこれからを具体的に示していく曲になったと思います。この曲ができたからこのアルバムができたので。

――指針となる楽曲ですね。さて、大森さんの中で売れる曲、売れない曲というのはどのように考えていますか。

 もう何が売れるかわからない世の中なので、作りたいものを作るしかないと思っています。わかりやすい言葉を使うなどして売れる倍率を上げることはできると思うんですよね。

――ちなみに売れている曲を分析したりされますか?

大森靖子(撮影=冨田味我)

 それは面白いのでします。でも、それをしたからどうするというわけでもないんですけど(笑)。同じ音楽のジャンルで1枚のアルバムであること、同じ内容で一貫性があるものが売れているというデータがあったとしても、それを頭に入れつつも違うものが出来てしまったらしようがないという感じです(笑)。でも、今まではアレンジャーさんがバラバラだったけど、今回は私とANCHORさんとで作り上げたというところで一貫性はあったので良かったのかなと思います。色んなジャンルをやっても一人の人が作ればその中の文脈で作れるので。

――その中で今回はアルバムの形態が4種類あってその内3種類には弾き語りが2曲ずつ収録されているのですが、これはなぜ?

 全部入れたらそれは弾き語りのアルバムになっちゃうじゃないですか。『クソカワPARTY』をイメージして作った曲達ではないので弾き語りはおまけなんです。このアルバムに混ぜるのは2曲が限界かなと。ちなみにDVDなど映像作品が付いているものとリンクするような曲を収録しています。この盤を買ってくれた人だけの特別感を出したかったんです。あと、弾き語りが入っていないアルバム音源だけのバージョンもあるので、弾き語りはいらないという人はこちらを聴いていただければと思います。

――では、最後にアルバムタイトルである『クソカワPARTY』というのはどこから出てきたのでしょうか。

 私はクソみたいな気持ちとか、こういうこと言ったら嫌われるんじゃないかなというところに物事の本質があると思います。自分はそれを可愛いというものに感じるポイントが多いので、新しいものや見たことがないもの、何言ってるのこいつ、でも可愛いんじゃないというものがすごく好きなんです。そういうものを可愛いと言えという気持ちで『クソカワPARTY』というものが出来ました。タイトルは候補が他にもあって『クソカワPARTY』にするか先ほどでた『ジョーカー』にするかは悩みましたけど。

(おわり)

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