胸が熱いという経験が増えた

磯部正文(撮影=小池直也)

――アルバムタイトルの『Lacrima』に込められた意味についても教えて下さい。

 「このアルバムは涙流してます」という様な意味はなく(笑)。自分としては語感が好きだったんです。いつもアルバムのタイトルについては「何それ?」みたいな物が多いんですよ。HUSKING BEE自体がそうですし。ぱっと聴いてわかる単語ではない、みたいな物が好きで。初期の『GRIP』とか『PUT ON FRESH PAINT』(1998年)はわかりやすいでしょうけど、『FOUR COLOR PROBLEM』(2000年)、『the steady-state theory』(2002年)とか、造語を作った『variandante』(2004年)は不思議がられましたね。

 「Hold Me Back」も最初は仮タイトルが「Tear Tear」だったんですよ。メロディの中でどうしても「Tear Tear」と言いたい箇所があって、それ以外にはまる言葉が見つからなかったんです。でも全作業終わってから、仕上げで曲タイトルが「Hold Me Back」になりました。今でも多分、他のメンバーは「Tear Tear」だと思っているかもしれません(笑)。練習でも「もう一回『Tear Tear』やってみよう」とか話していましたし。

 というのも、その「Tear」から「涙」(Lacrima)というワードが浮かんだんです。昔から『はじめてのおつかい』とか観ていてすぐ泣くタイプなんですけどね。子どもが出来てから、運動会とかでかけっこをするだけでほろっとするんです。胸が熱い、という経験が増えましたね。あと去年、親父が亡くなって、その時に流した涙の意味とかも考えました。

――とても腑に落ちた感じです。

 自分としては、流れ落ちる一筋の雫みたいなものが『Lacrima』みたいな感じ。鍾乳洞の落ちてもなお、まだ作られる雫の様な。何かが染み出てくる様な。今回のジャケットを作る時も「Lacrimaってどういう事?」という様な話もありましたね。さすがに、鍾乳洞のアートワークにはなりませんでしたが(笑)。

 色々な涙の理由がありますけど、人が流す涙のイメージが強くて作っているわけでもないんです。その涙について語りたいという事もないです。ちなみにおすすめの映画は『リメンバー・ミー』。亡くなった人に会いに行く物語なんですけど、たまんないですよ

――親子の話題がありましたが、20年活動してきて、HUSKING BEEから影響を受けた次世代、次々世代も台頭してきています。それについて思う事はありますか?

 その時代その時代でものを作る時に、マテリアルが変わっていくじゃないですか。僕らの時代はもっとアナログで、テープで録るのが当たり前でした。プロトゥールスという言葉が聞こえ始めた時も「なんだそれ?」と思っていましたよ。でも、そういう新しい物を毛嫌いしている自分にも疑問がありました。「毛嫌いした方がパンクだ」みたいな。どうしてもパンクに繋げてしまったりして。ただ、中堅どころになるとある程度疎まれる立場も引き受けた方が良いと感じます。

 それから、彼らに対して何かのお手本にもなっていたい。自分も先輩たちをお手本にしてきて今がありますから。この間対バンした子に「今いくつ?」と訊いたら「20歳です」みたいな。もうびっくりを通り越してよくわからないですよ(笑)。娘とか息子でもおかしくないんだな、と。「大きくなったね」という感じ(笑)。しかも出会う子出会う子、上手なんですよ。自分がその年齢だった頃よりも間違いなく。やっぱりYouTubeとか、お手本にするツールが多いからですよね。

 僕らは画質の悪い、カスカスのビデオテープを観て「下手で格好良い」みたいなアーティストがお手本だったんですよね。だから今も「下手で格好良い」を目指しています。超絶技巧派とかではありませんし。それに比べて、今の子はネットを観ながら練習できるじゃないですか。それが技術の差になっているというか。それはそれでワクワクしますけどね。すごい人類の進化ですよ。でも俺らみたいのでもお手本になりたい。人間はどこかが欠けていても、どこかで秀でたりする。そういうバランスの中でバンドも存在できているのだと思います。

――ここが手本になれる、というイメージはありますか。

 自分としてはわかりません。若い人たちから見た僕らの感想は絶対わかりませんからね。ただ自分に対して「いかんな」と思う時は創造する事が大事。それが自分を助けてくれると感じます。そういう姿勢が少しでも参考になれば良いなと。僕は絵も書くんですけど、それも止めたくないですしね。娘も絵を描くと、上手なんですよ。それも僕が描き続けている姿を見ているからなんじゃないかと。


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