ヴァイオリニストの石川綾子が16日、東京・青山のFuture SEVENで『Astell&Kern presents 石川綾子ハイレゾヘッドフォンコンサート Powered by TASCAM』をおこなった。昼の部と夜の部の2回公演で、昨年11月に第一生命ホールでのコンサートで収録された、ハイレゾライブ音源(192khz)をベースに、石川が会場でヴァイオリンを生演奏。参加者はヘッドフォンやイヤフォンを装着しながら鑑賞するというもの。その場でハイレゾミックスされた音響をヘッドフォンで楽しむライブは日本初の試み。この日は「糸」や「千本桜」など6曲を演奏し訪れた観客を至高の音で魅了した。同日に発売となったBlu-ray/DVD『ジャンレス THE BEST コンサートツアー』の発売を記念し、握手サイン会もおこなった。5月25日から3カ月連続で東京・ハクジュホールでSPゲストを招いて『石川綾子ジャンルレスクラシックシリーズ2018』を開催する。【取材=村上順一】

未知の領域でのライブ

 81年に大瀧詠一がおこなったヘッドフォンコンサートの現代版とも言えるこの企画、会場に入るとこれからコンサートが行われるとは思えない光景が広がっていた。机の上にはヘッドフォンアンプ、そしてイヤフォンやヘッドフォンが置かれ、床にはPAとそれをつなぐケーブル。この日のPAエンジニアには石川のレコーディングにも参加しているニラジ・カジャンチ氏。誰よりも石川の音を知り尽くしているといっても過言ではないニラジ氏が、どのように音を届けてくれるかにも期待が高まる。ニラジ氏も「最高峰の音を届けたい」と宣言。

 開演時刻になると石川が所属するタートルミュージック代表の望月衛氏が、このイベントの趣旨を説明。CDの44.1khzを遥かに凌駕する192khzというハイレゾの中でも滅多に使用しないサンプリングレートでのライブ。ニラジ氏はキャリアの中でも1度しか192khzでレコーディングしたことがないと話すほどだ。そんな未知の領域でのライブがいよいよスタートする。

 ヘッドフォンを装着した石川がバイオリンを手にステージに登場すると、緊張感に会場が包まれていくのがわかる。観客は各々が持参したこだわりのヘッドフォンやイヤフォンを装着し、流れてくる音に身を委ねる。ライブは中島みゆきの「糸」で幕を開けた。第一生命ホールでのコンサートで収録されたピアノなどの演奏がヘッドフォンに流れ、石川の今そこで奏でられた生の音色が重なりあう。ホールよりも耳元で鮮明に鳴り響くバイオリン、弦と弓が擦れる音や演者の息吹、ディテールまでも鮮明に捉えていた。石川も演奏しやすいのかエモーショナルな演奏で紡いでいく。

 叙情的な旋律が感動を誘う「ひまわり-Loss of Love-」や、ジブリの『天空の城ラピュタ』より「君をのせて」など誰もが知っている名曲で楽しませる。時折ヘッドフォンを外し生音を確認する観客の姿も見られた。フレキシブルにバイオリンだけを聴けるというのもこのコンサートのメリット。他にもヘッドフォンからイヤフォンを複数用意したりと、楽しみ方は無限大。ニラジ氏は天井につけられた異なる特性を持つマイクのバランスをリアルタイムで変えながら、高音から低音まで、その時に鳴っているベストのサウンドで構築しているという。

様々な可能性を感じさせたコンサート

 「NEVER ENDING STORY meets CANON」では、時代を超えた名曲のコラボレーション。ヴァイオリンの音域を幅広く使い、音色の魅力を堪能。ヘッドフォンというデバイスが周りの音を遮断し、より一層コンサートへの没入感を与え、音への意識を高めてくれる。生音だけでは聞こえてこない音も、ボリュームを上げれば聴こえてくる。そのため曲によってボリュームを変える観客の姿も見られた。

 情熱的なフィーリングを持つアストル・ピアソラの「リベルタンゴ」では楽曲の持つ躍動感をもしっかりキャプチャーしていた。石川のリズミックで熱い演奏が耳に直接届いてくる贅沢なシチュエーション。コンサートホールのように聴く場所によって音が変化せず、どこにいても全員が平等な音が聴けるのは、ヘッドフォンコンサートならでは。ニラジ氏も石川の演奏に触発されるかのように、笑顔で音を調整しながら楽しんでいる姿が印象的だった。

 ラストは石川のコンサートでも定番の「千本桜」。ミラーボールが回転し会場いっぱいに光を反射させるなか、観客も手拍子で石川の演奏をバックアップ。一体感のある空間を作り上げ、疾走感のあるヴァイオリンのフレーズが高揚感を煽り、ハイレゾならではのダイナミックレンジがホールで聴いているかのような臨場感を打ち出す。

 演奏終了後、石川は今後このシステムを利用して、ヴァイオリンの楽器としての個性を聴いてもらいたいとも話していた。確かにこのハイレゾミックスならば楽器の違いまでも克明にわかるので、この面白い試みを是非実現してほしいと感じた。まだまだ新しい可能性を持ったコンサートは、テクノロジーの進化とともに今後もリスナーに味わったことのない感動を与えてくれると確信した一夜であった。

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