「ヒカリ」で改めて所信表明する

――そしてもう1曲「まっすぐな橋」は、アニメ映画しまじろう『まほうのしま だいぼうけん』のテーマソングで、酒井雄二さんの作詞作曲ですね。

酒井雄二 絵コンテとかラッシュを観させていただいて作りました。先方からは、小さい子どもが初めて映画館にくる体験や感情を再現して欲しいと企画されたもので、大人と子どもが一緒に観てクライマックスに相応しい、すごく盛り上がるものにして欲しいと。

 つまり同じ映画館に、理解力も滲みる心のひだも違う、子どもと大人という二種類の心があるわけです。僕はどちらにも「いい曲だったね」と言ってもらえる音楽にしたいと思って。

――それは、すごく難しいことですよね。

酒井雄二 はい。子どもは集中力が短いですし、普通に書いたのでは難し過ぎてしまう。それで最初は、歌詞をすべて平仮名で書いていたのですが、「そうじゃない」と言われてしまって。確かに、歌ってしまえば平仮名も漢字も関係ないですからね(笑)。

 それで、シンプルなモチーフを繰り返しながら、だんだんアレンジが加わって壮大になっていく中で、大人にはストーリーを追っていただいて、ちびっ子にはポロリポロリと入ってくる言葉やメロディーに耳を止めてもらったり、冒険の旅に出て良かったという気持ちになってもらえたらいいかなと思いました。

安岡 優 僕ら大人も元々は子どもですから、だからこそ感じるところがあるし。たぶん僕らでも、5年後10年後には違った感情で歌えると思うし。歌うごとに成長していく曲だなと思います。

――「まっすぐな橋」というのは、ずっと続いて行くようなイメージですか?

酒井雄二 「かわいい子には旅をさせよ」という言葉がありますが…子どもは旅に出たはいいけど帰り着けるか補償はないし、送り出した親の側も心配だし気が気ではないわけで。絆という言い方は陳腐で言いたくないんですけど。例えるなら、アポロ宇宙船とNASAの宇宙センターのような、確実に帰ってくるための見えない繋がりやリンク、それがあるから大丈夫という支えの象徴です。

村上てつや それを絆と言うんだよ(笑)。

酒井雄二 その通りです(苦笑)。

――今作はバラード2曲というシングルですが、これを皮切りに2018年はどんな風に考えていますか?

安岡 優 最初にお話した通り、次回のアルバムは『Soul Renaissance』をより深く推し進めたものになる予定ですけど、その深くという言葉の意味の一つに、ラブソングの濃度を高めたいというのがありますね。

村上てつや バラードに限らずスウィートなものって言うのかな。

――徐々にそうなっていったんですか? それとも年始に書き初めで「スウィート」と抱負を書いて、事務所に貼ってあったり?

北山陽一 そんな張り紙は観たことないけど(笑)。

黒沢 薫 でもそういう話は、去年のうちからしていて。『Soul Renaissance』でスウィート&メロウな曲の評判が良かったし、時代がそうなってきているのかなという実感もあって。ただ懐かしいからだけじゃないっていう。

北山陽一 自分たちが楽しいからとか、単純にライブに来てくれる人とのやりとりの中だけで作ってしまうと、懐古趣味だけでやっていると思われてしまう危険性もある。そういう感じではない世の中だということは、追い風になっていると思います。

――洋楽のヒット曲でも、そういうスウィート&メロウだったり、90年代の彷彿とさせるものが増えていると。

黒沢 薫 確実にそうなっています。HIP-HOPでも、すごくメロウなものが増えています。「これもHIP-HOPなんだ?」って思うくらいの曲もあるし。昔は、ラッパーはラップだけしてか歌わないイメージだったけど、今はラッパーも歌うし。R&BかHIP-HOPかどっちかな? と思う曲もある。逆にシンガーでも、ラップのようなフロウを交えて歌う人も増えていて。だから、今回の「ヒカリ」でやったリズムの当て方も、すごく今っぽいと感じてくれる人も多いと思います。

――日本の音楽シーンでも、そういうものを感じますか?

黒沢 薫 そうですね。いわゆる音楽チャートの上位に入るようなものではないけど、じわじわときていると個人的には感じます。

村上てつや 追い風が吹いているとは言え、声優さんが歌っているアニソンを聴いている人にとっては、僕らの音楽なんてまったくカスってもいないのは事実だし。そっちはそっちで世界ができているから。でも意外に、若い子の中にもR&Bのフレイバーが好きな子が、実は隠れていっぱいいて。そういう場面に遭遇することがけっこうあって。

 その子たちをすくい上げられていないとしたら、先陣を切っている僕らの責任でもある。だって、少なくともその子たちに届いたものを、かつて出していた時期もあったわけだから。でも、実際に僕らの曲が届いた若い子たちと組む機会があった時は、僕らとしても気合いが入るし。そういう人や機会がもっと増えるかも、というワクワクもありますしね。

――もう一度、日本のR&B、Soulの枠をゴスペラーズが押し広げたいと。

黒沢 薫 簡単に言うと、そういうことですね。そのためにまずは、俺たちはまだいるぞってことを示すことが大事なんじゃないか、と思って活動しています。変わらず今もこういうことをやっているよと。そういう意味で「ヒカリ」は、改めて所信表明をするような曲になったと思います。

(おわり)

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