怖さを知っているからこそ

ビッケブランカ

――完成した『FEARLESS』、今の自分にとってどんな作品になりましたか?

 1枚目のアルバムということで、今の僕が出来ることを全て詰め込んだような面白いアルバムになったと思います。今までの自分が培ってきたものを今のビッケブランカとしてありのままに出した、自信を持てる作品になりました。

――楽曲ごとに、様々なベテランミュージシャンたちを起用しています。ビッケブランカさん自身アレンジまで手がけていますが、ミュージシャンの方々には細かく演奏の指示もしているのでしょうか?

 昔の自分は細かく演奏まで指定していましたが、今は熟練のミュージシャンの方々に逆にスパイスを塗してもらえないと、物足りなさを感じています。その化学反応を楽しんでいるところは、レコーディング面においては多々あると思います。

 ただ、僕がミュージシャンの方々の背景にある実績を知らずに図々しく細かいお願いをしていまして。みなさん大人なので優しく対応してくださったのですが。後で振り返ったら、なんて生意気な発言をしていたのだろうと思いましたからね…。

――まさに恐いもの知らず(FEARLESS)ですね。

 確かに『FEARLESS』は「恐いもの知らず」という意味で、怖がることがないことは良いことだとも思います。僕が『FEARLESS』に投影したのは、「恐ろしいものがそこにあることを知った上で、それに立ち向かう」という意味です。恐いもの知らずの人間ほど、じつはびびってたりします。その怖さを知っているからこそ、あえて恐れを乗り越えようと立ち向かっていく。

 恐れって、人間誰しもが持っている感情で。その恐れは、人それぞれ違うわけです。僕自身に関して言うなら、恐れさえ自然体で受け止め、今、自分にできることしかできないのだからと、開き直りに似た感覚で受け止めていくようにしています。このアルバムの中で言えば「TUNDERBOLT」が、『FEARLESS』というタイトルに込めた意味に一番寄り添っている曲です。それぞれの人が、それぞれの方法で恐れ知らずな精神で立ち向かっていく勇気が湧けばいいな、と思って「TUNDERBOLT」を作りました。

――ビッケブランカさん自身、将来への不安は?

 もうなくなっちゃいましたね。いや、その感覚が麻痺しちゃったのでしょうね。僕はもう29歳ですが、デビューのチャンスを掴むまでは本当にうだつの上がらない日々で、その間はどうしようとびびっていたこともありました。

 自分には、会社員は絶対に無理。むしろ、音楽を辞める選択肢はない、音楽を演り続けるという意識のみで日々を生きています。幸い、いい音楽を作れている自信はあるし、アルバムの中にも色んな遊び心を散りばめています。ぜひ、隠した色んな仕掛けも味わいながら、このアルバムを楽しんでもらえたらなと思っています。

ライブでは違う表現をしていく

――ビッケブランカさんは、昔バンド活動もしていたんですよね。

 やっていました。と言っても、20歳頃のことですが。当時は、自分の作った音楽をライブでも完璧に再現したかった。でもバンドである以上、いくら僕が完璧にやったとしても、誰かが間違えたりしたら失敗してしまうわけで…。それが嫌で、そこから、たとえ失敗してもすべて自分の責任として背負えるソロにシフトしていきました。それに、一人の方が失敗の原因も分かりやすいし、修正を通して成長もしていける。

 ただ、今はサポートメンバーを迎えてライブをやる楽しさを感じています。理由は、ちょっとしたミスよりも、楽しい時間を作ることの大事さを知ったことが大きいですね。今は、ライブじゃ絶対再現できないだろうというのも音源として作っています。自分の音楽の再現をライブに求めるよりも、違う表現をしていくことにライブの楽しさを感じています。

――「楽曲を分解する」という話をしていましたよね。その辺りをもう少しお聞きしたいのですが。

 アルバムの中で例を上げるなら、「Want you Back」はかなり自分の歌声を重ねています。たとえば10の声を作るうえで僕は、左60度、右60度、左80度、右80度、左20度、右20度など、その歌声を定位させたい位置で歌を録り、入れ終えた時点で一斉に重ねた形で鳴らし、納得のいく形になったかどうかを判断していきます。そこで、どこか1本ピッチがずれていたら、それだけ差し替えたり。

――頭の中でイメージが固まっているんですね。

 そうなんです。この歌には、6人ほど違うキャラクターを持ったガヤの声を、入れたい場所へ特定して歌声を定位させています。それも、あらかじめどの歌声のキャラクターをどの位置に配置して、どんな風に響かせたいかを計算した上で、それに沿った歌声を一人ひとり入れています。

 例えば、その人がその位置にいるからこそ、この人はこの位置でこういう歌声の役割を持って存在しているというような。そういう細かい設計図を立てて、僕は歌声も楽器の演奏も録っていきます。だからミックスする際も、自分が居て欲しい場所に音や歌声がいるかをエンジニアの方に細かく指定しながら制作を進めています。

――そのこだわりがビッケブランカさんらしさなんでしょうね。

 それくらい一生懸命に作った心の籠もったアルバムだからこそ、ぜひ配置された音や歌声の細部まで聞いて欲しいなと思っています。

(取材=長澤智典)

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