「涙のリクエスト」がヒットした要因

鶴久政治

――それは基礎なんでしょうか?

 基礎の基礎です。盛り上がるとメロディはどんどん上の方に行きたくなるんですけど、人間の音域ってある程度決まっているのでそこまでは行けないんですよね。楽器なら行けますけど、歌はだいたい1、2オクターブ内でしか出来ないので。でも、逆に色んなアイディアを出して出来るので面白いですよね。

 だから僕は243の時もそうですけど、音域の幅を1オクターブくらいに指定しているんです。そうすることによって、カラオケでたくさんの人が歌う時に歌いやすいんです。それは歌ってくれた時に初めて感じることなんです。

 「涙のリクエスト」がヒットした要因の一つに、あの歌は1オクターブでメロディが収まっているというところがあるんです。

 当時「お前が作った曲ヒットした曲でも1オクターブで収まってる曲がある」と言われたんです。「夜明けのブレス」なんですけど、その時自分では意識してなかったんです。だから、曲が広まった後に長く愛される、それはたくさんの人が歌いやすいということ、そこは今回のプロジェクトでは意識して作っていますね。

――そこを無視してしまうと、歌手の方に負担がかかってしまう?

 今はデジタル編集で上手い具合には出来るんですけど、ライブではちゃんと踊れる子で、歌はそこそこという人が来るので、逆に、メロディやサウンドを作ったりする人達が色んなアイディアを駆使すると思うので楽しいと思うんです。だから今回のプロジェクトも楽しいんですよね。

カバーの大事さ

――ところで243はいろんなカバーをされて歌唱力が上がってきていると思いますが…。243の成長は何によるものが大きかったでしょうか?

 80年代の名曲を歌えたことです。歌って肌で感じることによって本物を味わっていますから。80年代の曲を20曲レコーディングするという企画はなかなかないと思うんです。名曲たちに本気で触れたということは243にとって財産だと思います。僕らも昔、ビートルズやエルビス・プレスリーなどをカバーしたことは自分達のひきだしになっていますからね。

――カバーやコピーをするということは大切なことなのですね。

 大切ですよ。例えば兄弟がいて兄がヒット曲を聴いていた環境だった人は、環境が良かったと思うんです。僕も矢沢永吉さんや井上陽水さんの曲なんかを兄と一緒に聴いていた環境でしたしね。

 80年代も、70年代や60年代に感化されて作っている部分がありますから、あとはアイディアだけだと思いますね。1オクターブ12音の中でメロディを作る訳なので、そうすると余計に歌い手の魅力だったりしますからね。これは一概には説明できないですね。

――すると鶴久さんがプロデュースをする時は、歌声は重要視する?

 そうですね。一番大事です。例えばお肉が好きな人は、何であってもお肉が好きじゃないですか? でも魚が嫌いな人は、どんなに美味しい魚であっても魚が嫌いな訳ですから、拒否するんですよ。僕が好きな歌声というのがあるので、そこだと思います。

――万人に好かれる歌声というのもある?

 それはやってみないとわからないんです。そう思われてデビューをして売れない人の方が多いんですよ。確かに、プロの経験者が聴くと「この人の歌声は広がりやすいかな」というのはあることはあると思います。ただそれが100人中100回やってみんな売れるかといったら、それはないんですよね。こればっかりは分からないんです。

――味のある歌声というのは、一つの要素としてありますか?

 何かありますね。普通の人が味わえないような家庭環境の人は、それによって人生を棒に振る人もいるんですけど、それによって、人よりも感性が豊かな人もいるんです。僕らの世代の頃は、おぼっちゃま、お嬢様ではなく“訳あり”でバンドをしていた人が意外と多かったんです。

 そうすると、それが“叫び”っぽく聴こえたり、悲しい歌をそういう人が歌うとより悲しみが伝わってきたりするんです。表現者としてリアリティがあったりするんですよね。これも一概には言えないんですが。恵まれた環境だったら、綺麗で透きとおった声の人もいますし。それらをどう音楽の方に活かすかですよね。経験が滲み出るというところがありますね。だから行儀悪い奴は歌も行儀悪い。細かく言うと言葉尻とかもね。意外と生活なんかも見えたりするんですよね。

――それは演奏にも表れますか?

 表れますね。いい加減な人はいい加減だから。でもそのいい加減が魅力となる場合もあるんですよ。

――それが“ロック”だったり?

 そうそう。だから一概には言えないんです。遊び人に女の人が騙されるけど、それは遊び人に魅力があるから寄ってくるということでしょ? 生真面目な人だと生真面目な人と結婚して、遊びも浮気もないけど、それはそれで幸せなんだろうなという。どちらが良いという訳ではないですからね。

――陰があるとそこに惹かれたりということも?

 ありますよね。ちょっとワイルドなところがある人に惹かれたりというのはあるじゃないですか。ワルの人と付き合っていることが自分にとってのステイタスとなっていた高校時代、とかね。

 振り返ってみると「何であんな人と付き合っていたんだろう?」ってね。“魅力”って捉えられる瞬間があるんですよね。それは人のタイミングによって違う。だから243も吉崎もこれからどんどん経験していって、歌も女優もやっているので、そこでたくさん刺激も受けるでしょうし。

 色んな現場で色んなことを学んで、共演者との心遣いとか、そういうところで学んで人として成長してくれれば歌声もたくましくなると思います。野球の野村克也監督は「野球をしながら人間を磨け」という持論があって、それは確かにそうだなと感じるんです。

――例えば野球界では、打撃や投球の不振は結局、基本からずれていたり、体力や怪我でそれが出来なくなっている結果とも聞きます。

 それは音楽でも一緒で基本は大事です。新しい事というのはあまりないんですよね。サウンド面で新しく聴かせられるということはありますけどね。10代の子達なんかは基本も初めてのことなので、80年代の曲を聴いても「これは新しいな」と思う子もたくさんいるんでしょうね。僕らがデビューした時もそうだったと思いますから、たぶんそれの繰り返しだと思うんですよね。

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