表でリズムを取っても良いじゃない!

山中千尋

――そんな社会の中で外国人がジャズを演奏するという事についてはいかがですか?

 秋吉敏子さん(1950年代から活動し続けている女性ジャズピアニスト)の時代と私の時代では全然違います。逆にジャズを聴いたり演奏するのは米国人よりも外国人の方が多いと私は思いますよ。例えば私のいとこは米国生まれですが、ジャズとか聴かないです。米国の若い人はジャズほとんど聴かないし。「ジャズが好き」という米国人に会う確率はもの凄く低い。もちろん、米国では音楽教育にデフォルトでジャズが入ってくるという側面はありますよ。でも実際外国人の方がジャズに触れる事が多いのじゃないですかね。

 ジャズというのは私自身、元々自分の中にない音楽ですので、そういう意味では違和感があるかもしれません。ただ、ジャズの強みは色々な音楽的ルーツを持った人が一緒に演奏できる事だと思うのです。自分のルーツをねじ曲げずに音楽に取り込むことができる。それがあるからこそ、ジャズという音楽が長く続いているのじゃないかなと。私もジャズを始めた頃は「どうやってスウィングするの?」と考えて、言葉や人種の壁を感じたのです。もちろん今でもそれは取り組まなければいけない問題なのですけど、「日本人だから裏でリズムを取るのが難しい」とか、そういうコンプレックスを感じる事が少なくなりました。

 逆に「表でリズムを取っても良いじゃない!」と思う事もあります。チック・コリア(米国出身のピアニスト)とか見ていると、早い曲をずっと表で取ってたりもしていますし。マイルス・デイヴィス(米トランぺッター)も「テンポが遅れるのは裏で取るせいだ」と言っていたそうです。

 だからテンポの取り方も色々あって良い。それぞれに得意な部分があって、それを伸ばしていけるようになれば良いのではないかな、と思える様になりましたね。若い子にもそういう戸惑いがある子がいます。でも「自分の強みをジャズに活かせば良いんだよ」と背中を押しています。例えば歌も、たとえ訛っていても、強いジャパニーズアクセントでも聴く人がわかっていたら良いと思うのです。音楽の魅力というのは表面的なことよりも、もっと深い所から出ますし。

――山中さんはエッセイも執筆されていますが、音楽と文章の並列についてもお伺いしたいです。

 自分の音楽と文章についての関わりはちょっとわからないです。ジャンルに関わらず、本を読むのは好きで、言葉によって新しい世界が開け、思い込みから解放されたり、心が自由になるという感覚はあります。新しい言葉を知って、肯定的になるとか、自分を受け入れられるようになっていくとか。そういう部分が凄くあります。だから常に言葉からもアイディアを探していきたいですし、自分の音楽も1音出す度に、心が自由になる様なものでありたいなと思っています。言葉でこぼれてしまったものを音で表現する、音でこぼれたものを言葉で表現する、そういう往復をしているという感じです。文章にするのも私の大事な表現です。

 でも、自分では書き手だという意識はあまりありません(笑)。ありがたい事にそういう機会をたくさん頂いていますし、音楽についてだけでなく日常や本について書いたりするのも凄く好きです。もちろん音楽評論を読むのは好きです。実際に自分で書いてみて、音楽について書くことの大変さが身に染みてわかりました。なので音楽について書いて頂けるのはとてもありがたいです。

――新作を引っ提げたライブも決まっていますね。

 今回の来日するバンド(カレン・テーパーバーグ、インガ・アイヒラーの女性バンド)は英・ロンドンや伊・ミラノのツアーで既に演奏し、これからスイス、フランス、ドイツをツアーします。瞬発力があって、情熱的でエネルギーが満ちているライブになりそうです。ライブはライブならではのフィジカルな演奏する楽しさがあるので、そういうのを十分に出せたらなと思っています。

――読者にメッセージをお願いします。

 ジャズはプレイヤーの数だけスタイルがあるので、いろいろ聴いている内に気に入った1枚を見つけることができると思います。是非ジャズを楽しんでください。今回のアルバムもフレッシュなリズムセクションと一緒にポジティブでエネルギーに満ちた演奏が出来たかなと思います。私自身、フライング・ロータス(米ミュージシャン、ビートメイカー。クラブミュージックながらジャズの文脈上に位置する)が好きなのですが、今の音楽と融合するジャズの雰囲気が伝わればいいですね。ジャンルに関わりなく聴いて頂ければ嬉しいです。

(取材=小池直也/撮影=桂 伸也)

撮り下ろし写真

作品情報

『モンク・スタディーズ』
山中千尋
発売日:6月21日
【CD通常盤】
01.ハートブレイク・ヒル (Chihiro Yamanaka)
02.パノニカ(Thelonious Monk)
03.ノーバディ・ノウズ~ミステリオーソ(Chihiro Yamanaka / Thelonious Monk)
04.ニュー・デイズ、ニュー・ウェイズ(Chihiro Yamanaka)
05.イン・ウォークト・バド(Thelonious Monk)
06.リズマニング(Thelonious Monk)
07.ルビー、マイ・ディア (Thelonious Monk)
08.クリス・クロス(Thelonious Monk)
09.ハッケンサック(Thelonious Monk)
10.アバイド・ウィズ・ミー (Traditional)
この記事の写真

記事タグ

関連記事は下にスクロールすると見られます。