『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド-50周年記念エディション-』がリリースされるザ・ビートルズ

 ザ・ビートルズの『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド-50周年記念エディション-』が5月26日に、世界同時発売される。同作のオリジナルは1967年6月1日に、8枚目のスタジオアルバムとして発売された。今回は新たなステレオ・ミックスに加え、オリジナル英国盤の「Edit for LP End(レコードの溝の最後の部分)」が収録されたものとなる。2枚組、LP、6枚組ボックスセットの4形態での発売で未発表音源や映像素材などが収録される。4月某日に関係者向けの試聴会がおこなわれ、発売より一足早くその音源を2CDの形態で聴く機会に恵まれた。ここではその音源とオリジナルの相違点と、グラミー賞4冠に輝き、米国で「国家保存重要録音台帳」に登録されたまさにポップミュージックの“世界文化遺産”と言っても過言ではない同作の真価について再考したい。

歴史的名盤の価値

 『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』は、当時の英国チャートで27週間に渡り1位の座をキープ、実に148週間もの間、チャート内にとどまり続けるというロングヒットを見せた。米国においても200位に88週間とどまり、その内15週間1位をキープした。そして、同作は1967年のグラミー賞で最優秀アルバム賞ほか4部門を獲得している。2003年には米国議会図書館が同作を“文化的、歴史的、もしくは審美的観点から重要なアルバム”と位置づけ「国家保存重要録音台帳」に登録している。

 同作がリミックスされ、セッション・レコーディングを追加してリリースされるのは初。また、ビートルズの作品がリミックスされるのは2003年の『レット・イット・ビー・ネイキッド』以来となる。本作の為にメンバーのポール・マッカートニーは、イントロダクションを書き下ろしている。

 その中で彼は「50年後の今、僕たちはこのプロジェクトをとても懐かしく振り返りながら、当時4人(ジョン・レノン、ジョージ・ハリスン、リンゴ・スター)のメンバーと偉大なプロデューサー(ジョージ・マーティン)、そしてエンジニアたちが、これほどまでに長持ちする芸術作品をどうやって作り上げたのかと、少々驚いている。本当に凄いことだと思う」と半世紀に渡り色褪せるどころか、逆にその至高な輝きを増々強める本作について綴っている。

 ボックスセットに付属する曲解説やレアの写真や手書きの歌詞などを掲載した書籍では、リンゴ・スターが「この作品は、あの時代の雰囲気を的確に捉えていたと思う。そして、多くの人たちがアルバムに刺激を受けて本気になったんだ」と当時を振り返っている。
 
 2人のこの言葉通り、この作品は1967年に米国を中心に起こった社会現象「サマー・オブ・ラブ」の先駆けのような、当時のサイケデリックで、まだ経済的に成長できるという社会的希望に満ち溢れた空気感をそのままパッケージしたようである。

 本アルバムは「世界初のコンセプト・アルバム」といわれる。当時、ビートルズのローディ(※編注=ミュージシャンの裏方業務全般をおこなう人)であったマル・エヴァンズが飛行機の中でポールに「塩と胡椒(ソルト&ペッパー)を取ってくれ」と頼んだところを、ポールが「サージェント・ペパー」と聞き間違えたという。そこからポールは“サージェント・ペパー”なる人物を空想し、ビートルズ自体をエドワード朝時代(20世紀初頭)のミリタリーバンド“サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド”に見立て、彼らが架空のライブショーをおこなうというメタフィクションの世界観をアルバムに仕上げた。

ライブ会場に誘うような音作り

発売から50年を迎える『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』

 その幕は、タイトル曲「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」で開く。粗めに仕上げられた音像がオリジナルよりも臨場感を増し、本当に1900年代にタイムスリップして当時に会場でライブを聴いているような感覚だ。

 続く「ウィズ・ア・リトル・ヘルプ・フロム・マイ・フレンズ」では、リンゴのボーカルがよりサウンドの前面に出たように聞こえる。さらに「ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイアモンズ」ではレノンの耳元に迫りくるボーカルと、チープ感の増したハープシコード(チェンバロ)の音が幻想的な世界観をより引き立てる。

 「ゲッティング・ベター」は、金属的な響きがより強調された鋭いサウンド作りになっている。ハンドクラップも生々しく加工されてライブ感が増している。「フィクシング・ア・ホール」では歪んだギターサウンドのソロが際立って印象的になっている。

 ハープによる前奏とストリングスが美しく響く「シーズ・リーヴィング・ホーム」は、ポールの高音のボーカルと相まって、夢幻の様相を呈している。「ビーイング・フォー・ザ・ベネフィット・オブ・ミスター・カイト」ではレノンのくぐもった様に聞こえる歌声とチープな電子音が怪しく響き、サイケデリック感がさらに濃密になっている。

 ここからはライブも後半に差し掛かる。LPではB面ということになる。「ウィズイン・ユー・ウィズアウト・ユー」は、実はこのリミックス盤で一番好き嫌いが分かれない曲になるのではないか。それはジョージが今作で唯一作曲した、この曲の特性でもあるのかもしれないが、他曲はライブ感やサイケデリック感を引き立たせる様なオリジナルと聞き比べても明らかな違いが際立つリミックスとなっている。それは、やはり好き嫌いが分かれる差異が生まれていることだ。その点、この曲は当時、インド音楽に傾倒していたジョージがインド楽器を総動員したオリエンタルな雰囲気と、今回のリミックスが溶け合うように自然と馴染んでいるように感じる。

 続く「ホエン・アイム・シックスティー・フォー」は童謡のようなメロディがノスタルジックに響く。肝となるベース音もしっかりと縁どられている。「ラヴリー・リタ」ではより乾いた音質が印象的で、途中に挿入されているピアノの伴奏もよりライブ感が増している。

 「グッド・モーニング・グッド・モーニング」は、個人的に記者が最もこのリミックスの意義を感じた曲だった。激しいドラミングで元々ライブ感の強い楽曲ではあるが、今回のリミックスを経て、それは本当にあの4人が目の前のステージでまるで無名の駆け出しのバンドのように無我夢中に演奏する姿を思い起こさせるようなサウンドに仕上がっている。ポールによる激しいギターソロが、全てを切り裂くように響き渡る様は圧巻だ。食物連鎖を暗喩していると言われる動物の鳴き声もリアル感を増して聞こえる。

 そして、本編は「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド (リプライズ) 」で幕を閉じる。音圧も限界まで上げられている様で、迫力あるサウンドだ。アンコールのように奏でられる最後の「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」。アコースティックギターの前奏はより粒立ち、曲が転調する前のオーケストラの音はより迫力を増してその混沌とする曲の世界観を壮大に演出している。

 ビートルズは、このアルバムのレコーディングの為に英国・ロンドンの『アビイ・ロード』のスタジオ2で400時間以上を費やし、その制作期間は実に129日以上にも及んだ。4人はジョージ・マーティンとともに当時4トラックのテープの録音機材を使用し、ダビングを繰り返しながら奇抜なアレンジや新技術を取り入れ、試行錯誤しながら本作を作り上げた。

セッション音源に見る偉業

 Disc2には、当時のオリジナルテープのセッショントラックスが収録されている。さらに1967年2月に発売された両A面シングル「ストロベリー・フィールズ・フォーエヴァー」の未発表だった音源を含む3バージョン、また両A面のもう1曲、「ペニー・レイン」を2バージョンそれぞれ収録している。

 この音源を聴くことは今作がどのような過程を辿り、その歴史的評価を得るまでの名盤として完成したのかを理解する上でとても大きな役割を果たすだろう。“百読は一聴に如かず”とも言おうか。しかし、驚くべきことは、テイク1でもその楽曲の完成度は極めて高いことだ。「ザ・ビートルズ」がどれほどスーパーバンドであったのか、4人がいかに音楽的才能に恵まれていたのか改めて実感できるという意味でも一聴の価値はあるだろう。

 ストリングスなどを使っている箇所もアコーステックセットで演奏していたり、カウントが入っていて、セッション後にその演奏を振り返るメンバーの声なども聴くことが出来る。音楽的魅力とは別に、このようなドキュメンタリーな要素も聴き所となるだろう。

 デジタル音源、サブストリーミング型音楽配信サービスの普及で「コンセプト・アルバム」をミュージシャンが今後発表するということは、難しくなるかもしれない。それはアーティストがライブで表現していくしかないのかもしれない。ビートルズが「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」という架空のバンドを演じたようなメタな世界が皮肉にも半世紀経ち、現実となってしまったのかもしれない。音楽の持つ「世界観」で言うならば「プレイリスト」というものがその代替物となっている感は否めない。

 しかし、だからこそ、この時代にアーティストがその想像力を時間と、ありったけの技術を用いて作り上げた一つの到達点を今一度、再確認することは重要なのかもしれない。ただ、デジタル処理が進んだその恩恵の賜物として今作を見れば、そこにはやはり希望がある。VR技術やAI技術が音楽をさらに次のステップへ進める可能性だって、アーテイストの想像力次第であり得るのだ。それを証明してくれたのは、50年前にこのアルバムを完成させたビートルズのようなバンドだったのだから。(文=松尾模糊)

この記事の写真

記事タグ

コメントを書く(ユーザー登録不要)