トークショーに出席した坂本龍一

 音楽家の坂本龍一が1日、東京・南青山のINTERSECT BY LEXUS - TOKYOでおこなわれた「クルマと音楽による新しい体験」と題するトークショーに出席。坂本は8年ぶりとなる自身のアルバムに触れるとともに、自動車産業と音楽産業を重ねながら「フォードから始まった自動車の技術というものはある種、完成している。楽器もそう。そこから先に突き抜けるためには技術の進歩だけじゃなく、ステレオティピカル(固定観念的)なイメージを変えていかなきゃいけないんじゃないですか」など示唆に富む発言を数多く残した。

 このイベントは、坂本と、トヨタ自動車の高級車ブランド・レクサスが展開する『LEXUS Listening Drive | Ryuichi Sakamoto』の一環でおこなわれたもの。『LEXUS Listening Drive』は、坂本が薦める都内ドライブルートを、自身8年ぶりとなるニューアルバムを聴きながら楽しむ約1時間の試乗体験で、「クルマに乗って音楽を聴く」という日常を特別な時間へと導く、新しいライフスタイルの提案するプロジェクト。

 今回のトークショーは、雑誌「GQ Japan」編集長・鈴木正文氏との対談形式で進行。坂本と鈴木氏は、シックな会場の雰囲気に合わせてドレスアップしながらも、ショートパンツやスニーカーで“外し”を加えた装いで登場した。

愛車で聴く音を基準

トークショーのもよう

 坂本は自主作品としては8年ぶりのアルバム『async』をリリースしたばかり。この作品について坂本は「<アンチ・シンクロナイゼーション>という意味です。世界の音楽は、99パーセントが1つの時間軸と同期しています。だから、そうじゃない音楽はできないかと」と解説。さらに「バラバラの音楽って楽しいんですよ」とした。

 さらに坂本は「ニューヨークでは、ミュージシャンもリスナーも車で(音を)確認します。愛車で聴く音を基準にする人が多い」と、プロジェクトの核心である、車での『リスニングドライブ』に言及。坂本はこれに今回の作品で初めてチャレンジしたそう。感想については「外から入るノイズが混ざってとても良い感じでした。ノイズも音楽になる」と上機嫌。また、「東京はニューヨークに比べ静かですね。もっとうるさくしてほしい」とジョーク交じりに話していた。

 話題はノイズと楽音へ。坂本は、音が無い音楽のジョンケージ作曲『4分33秒』を例に取りながら「周りに耳を傾ける行為が音楽」と述べ、ノイズについては、「工場の音は大好きです。YMOの『テクノデリック』(1981年)でも使いました」と話した。2人は、20世紀最初の芸術運動である「未来派」についても触れながら、興味深いトークセッションを展開していく。

 テクノ音楽へ言及する場面では、坂本が「テクノをずっと聴いていると、個人性が消滅していく。トランスですけど、危険でもある」と述べた。また、90年代にベルリンのテレビで見た、レイブパーティ『ラブパレード』について「参加者のプラカードに『Unti individualism』(反個人主義)と書いてあって驚いた」と思い出を披露。音楽の持つ同期性に改めて触れていった。これについては、哲学者のプラトンや孔子といった、偉人も指摘しているそうだ。

 終盤は、車の話題に戻り、最後に坂本は「フォードから始まった自動車の技術というものはある種、完成しているわけで。“完成する”という事は似ること(にも繋がる)。楽器もそうです。ピアノは、これ以上発達しようのないところまできているわけですから。そこから先に突き抜けるためには技術の進歩だけではなく、ステレオティピカル(固定観念)のイメージを変えていかなきゃいけないんじゃないですか」と、プロジェクトの意義にもつながる、示唆に富んだ発言を残した。(取材・撮影=小池直也)

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