写真・ゲスの極み乙女。アルバム発売一中止

発売が一旦中止となったゲスの極み乙女。3rdフルアルバム「達磨林檎」のジャケット写真。「13曲全てが新曲。ゲスの極み乙女。は常に進化しています」(川谷談)という意欲作だった

 飽き足りる事もなく? 世間を騒がせているミュージシャンの川谷絵音。私生活の素行が問題となり、活動自粛を発表した。一連の騒動で、彼が所属するゲスの極み乙女。の3rdアルバム『達磨林檎(だるまりんご)』は発売は一旦中止となった。彼の素行はワイドショーにも大きく取り上げられ、批判の嵐に。その一方で、多くのコメンテーターが注釈を入れるように「才能は素晴らしい」「彼の曲は好きだった」と述べ、川谷の音楽的センスを高く評価した。彼の音楽に期待を寄せていた分、落胆も大きかったのであろう。発売は一旦中止となったが、川谷が「自信作」と謳った今作のリードトラック「シアワセ林檎」について、公開されているミュージックビデオ(MV)から音楽的な分析をおこなってみたい。

私生活とリンクする歌詞と映像

 まずこの楽曲、作詞作曲は一躍、時の人となっている川谷絵音その人によるもの。リリック的には、とても斜に構えていることが一様にしてわかる。<結果論で世は論じてる><斜め感を出して舌を出してる><パーパーパーパー><林檎みたいに赤くなっても言いたかった I love you>といった具合である。これは騒動への回答ともとれる、個人的な内容だと捉えて差し支えないだろう。

 さらに映像的に言っても全体的に力の抜けたメンバーの姿が目に留まる。騒動を受けて反論したり、エモーショナルな表現をするのではなく、ひょうひょうとした様子を見せる。そして2分29秒から始まる展開部における、川谷とドラムス・ほないこかの両名が多数のマイクに囲まれている図は言わずもがな。騒動の暗示に他ならないと考えられる。

 さて、ここまでを前置きとして、この先はコード進行的角度から楽曲分析をしていきたい。ここからの分析は、ご家庭にピアノがある方はピアノを、無い方はスマートフォンで鍵盤のアプリをダウンロードして眺めて頂きたいと思う。

 ピアノにはある「ド」からその上の次の「ド」までに白黒合わせて12の鍵盤がある。そして、この「シアワセ林檎」、特にサビ部分は最も基本的な「ドレミファソラシド」という白い鍵盤上で作曲されているのだ。難しい音楽理論は省くが、そのため、この音以外の黒鍵盤を使おうとすると、それは必然的に自然ではない=斜に構えることになる。

 そして見事に、川谷は天邪鬼ぷりを発揮していく。それはつまり、このMVは歌詞と楽曲と映像が同一テーマ上で拮抗しているという事を意味する。この事を以下に示していく。念のためテクニカルタームも用いるが、必ずしもわかる必要はない。そこは気にせず読み進めてほしい。

楽曲分析・イントロからAメロまで

YouTubeに公開されている「シアワセ林檎」ミュージックビデオ。再生数は160万回を超えている

YouTubeに公開されている「シアワセ林檎」ミュージックビデオ。再生数は160万回を超えている

 まずはイントロからサビ前の<あのねー>という歌詞の部分にかけては、ピアノによるメロディから川谷のラップシンギングへとリレーしながら進む。しかし、コード進行自体は<C-B♭-Dm-Am>という1つのパターンが、色々なバリエーションの演奏でひたすら繰り返されているのだ。

 既に、このコードの並べ方が日本におけるポップスでは、常用とは言い難いもの。これはブルースっぽいパターンのコード進行だからである。しかし、興味深いのは可愛いピアノと気の抜けたラップによるアレンジで、ブルースっぽさを中和しているところではないだろうか。つまり川谷は「常用外のブルージーなコード進行を、ブルースっぽく使わない」という天邪鬼をここで見せている。

サビ・ひねくれたコード進行

 続くサビは<F-Fm-G-Am/F-G-Em-Am>という進行の繰り返しである。サビは白鍵盤だけで構成されている純粋なメロディなのだが、コード進行は黒鍵盤が部分的に使われた少々ひねくれたものとなっている。注目すべきは、このパターンがマキタスポーツ氏曰くの『未練進行』、ネット上で言うところの『大道進行』と呼ばれる進行(この曲に則すれば<F-G-Em-Am>と表記される)の変形であるということだろう。

 あまりにポピュラリティが強く、日本人の琴線に触れやすい(=売れやすい)この進行を崩して用いた事でわかる2つの点がある。1つ目は、逆境にある川谷がそれでも「この作品を多くの人に愛してもらいたい、売りたい」と意欲を持っていること。そして、2つ目はそれと同時に「でも普通にはしないぞ」という反骨精神を持っていることである。ここで、彼のねじれた心情が浮き彫りになってくるのが面白い。

 メロディの白鍵盤と売れ線コード進行を使用しながらも、そこに忍ばせた黒鍵盤は、つまり「斜に構えている」としか言い様のない彼の態度を表しているのだ。

 他にも<I love you>というリリックが迫る部分では、また違う進行も選択されているが、そこでは映像以外に特筆すべき点は無いので省略する。よってこの楽曲で確認できる、大きな構成としては以上である。

三位一体で表現される「斜」

 つまり、この「シアワセ林檎」のMVは、トラブルメイカー・川谷絵音の「斜に構えた部分」がリリック的にも、楽曲構造的にも、映像的にも盛り込まれた、三位一体の興味深い作品だと言える。

 不倫騒動や未成年飲酒騒動に揺れる川谷。後者の行動は特に、社会的責任という観点からみても問題ではある。今回はそこには敢えて触れずに、音楽作品として彼の音楽的感性に目を向けてみたが、こうしてみると、直接的な言葉だけでなく、楽曲そのものにも意味を吹き込める事ができるという点において、彼の才能はやはり特出していると言える。

 ちなみに、同ミュージックビデオは、YouTubeでの再生数は24日時点で160万回を超えている。

 同コメント欄に書き込まれたネットユーザーの声には「最低やん...って思っても、ゲスの極みの曲実際に聞いたらさ そんな最低な事忘れてまうし、頭の中で何度もリピートされるし、アカン事したんやろうけど、私生活の実態なんか歌手の価値観決めるんに必要なことなんかな」という内容も…。(文・小池直也)

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