MV撮影現場の取材で見えてきたのはライブと音源のハザマにあるグルーヴだった

MV撮影現場の取材で見えてきたのはもう1つのグルーヴだった

 4人組ロックバンドのTHE ORAL CIGARETTES(ジ・オーラル・シガレッツ)が来年1月5日にニューアルバム『FIXION』をいよいよ発売する。そのリード曲となる「気づけよBaby」のミュージックビデオ(MV)が完成し、YouTube上で公開されたが、ミュージックヴォイスでは去る11月、某所で行われた同MV撮影を取材していた。彼らのMVの多くは再生数100万回を超えているが、その魅力とはなにか。今回彼らのMV撮影の裏側を密着レポート。映像や撮影現場に触れて感じたのは、彼らのMVは「明かり」が重要なカギを握っていることだ。照度の差に彼らのバランスが投影され、そこにはライブや音源とは異なるもう一つのグルーブが隠されていた。(取材・木村陽仁)

未明のプラットホーム

冷静に現場をみていた山中拓也

冷静に現場をみていた山中拓也

 日付が変わった午前1時半。吐く息も白いひんやりとした空気だった。地上で静かに音を立てる自家発電機。電気を供給するケーブルは地下に伸びていた。乗客がいない駅のプラットホーム。ホームの端からはまばゆいほどの光が辺りを照らしていた。

 「時間がないぞ!」
 「そのライトの角度下げて!」
 「貨車が来るぞ、機材をどけろ!」

 時間との勝負だった。始発までの約2時間で撮影を終えて、撤収しなければならない。カメラ位置を確認して、仮撮りしてから本撮りへ。これをバンド全体、2組、個別のパターンで撮る。当然、そのパターンによってカメラ位置や明かりの調整を行う必要がある。時間が刻々と過ぎていくことに焦りと、緊張感が漂っていた。

 撮影場所は、電車の乗車位置からすると先頭車両から二車両目の辺り。アンプやドラムセットが設置され、メンバーを撮るカメラの後ろには撮影用機材があり、それを多くのスタッフが囲んでいた。現場の声や音以外で聴こえるのはトンネルの先にある1つ先の駅でメンテナンス作業を行っている工事車両の音のみ。撮影開始の度に大音量でかけられる「気づけよBaby」は、トンネルの壁面に反射して奥の奥まで響き渡っていた。

激しく奏でたあきらかにあきら

激しく奏でたあきらかにあきら

 このMVのテーマは「分岐点」。恋人との関係を選択した主人公の女子高生による2つ物語が同時に展開され、ひとつは感情に従い恋人を追い求めた主人公、もうひとつは悲しみや苛立ちを乗り越え恋人との別れを受け入れた主人公のそれぞれの岐路を描いた。

 駅での撮影は、劇中の演奏シーンだ。後に、監督を務めた奥藤祥弘氏が「非常に生々しくて泥臭い雰囲気で撮ることが出来ました。MVだから出せる、“ライブ以上のライブ感”が表れていると思います」と振り返っている通り、メンバーに求めたのは「感情を表すように激しく」だった。

 MVでも重要なシーンで、特に後半の間奏で転調してからの楽曲構成と結末に向かっていくストーリーは物語をスリリングに展開させている。

 しかし、未明から早朝までの撮影は酷なものだった。時間の制約のなかで、メンバーはほぼ一発撮りで進めていかなければならない。体力の消耗も激しい。吐く息も荒い。演じ終わる毎にスタッフがうちわを仰ぎ、熱を冷ました。

鈴木重伸と中西雅哉

鈴木重伸と中西雅哉

 山中拓也(Vo/G)がワンカットを終え、モニターを見ながら声をかける。「ここの動きはこうした方がいいですよね? 完成時はどう写っていますか? もうワンカットお願いします」。

 あきらかにあきら(B)はボクシングのようなステップで荒々しく奏でた。その姿は3分間のシャドウボクシングを終えて再びリングに立つインターバルのようでもあった。

 ピアノの連弾のような特徴的なリフをみせる鈴木重伸(G)も激しく弾いた。そして全てのカットにフル出場した中西雅哉(D)は笑顔を見せ「いい練習になっとる。永久スタメンやわ」と場を和ませた。

 そして再び立ち位置に戻る。
 カウントが入る。
 楽曲が流れ、激しく歌い奏でる。
 彼を後ろから照らす明かり。
 彼らの動きによって遮られたり、抜けたり。
 光と影が交差する。

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