多様性こそ復活の裏付け

中森明菜6年振り作品に秘められた思いとは【2】

中森明菜の6年ぶりオリジナルアルバム「FIXER」

 こうしてみると、EDMがふんだんに展開されているのは大まかに前半の4曲で、その後の楽曲にはアクセントとしてエレクトロニックサウンドが使用され、ピアノやアコギ、シタール、胡弓、ハープ、ヴァイオリンといった多彩な音色が入る。なかでも「Rojo -Tierra-」については、明菜がかつて「大地の力強さを表現したかった」と語っていたように、収録曲のなかでも少し趣が異なり、アフリカの民族楽器の様な音が導入で展開されている。相反するデジタルサウンドと生音は見事なまでに調和されている。そうした点においてアレンジ力も光る。

 そして、この作品におけるEDMの役割は、曲自体に疾走感と躍動感を与えているということである。更に、これだけの生楽器を取り入れたことは、多様性に富んだ音楽ともいえる。この「多様性」こそが明菜が「心身ともに復活した」「音楽と向き合えている」ことの裏付けとなっている。

 冒頭に示した通り、今作は昨年夏から1年をかけて制作されてきた意欲作だ。現在は、米国に活動拠点を移している明菜が米国の4つの州を移動しながら、それぞれの地で生活して感じた「風土」や「匂い」「風景」をアルバムの楽曲に反映させた。それを表現するためのツールの一つとしてEDMや楽器がある。

 なかでもEDMは現在、若者を中心に流行しているサウンドである。前記の通り、ブラックミュージックがルーツであれば、EDMの選択は自然の流れともいえるが、意地悪な言い方をすれば、幅広い世代にも明菜の世界を体感するために設けられた導入曲という見方もできる。深層部はむしろ5曲目「La Vida」以降にあるのではないか。様々な楽曲や音楽を取り入れる多様性。それは、埋もれない歌唱力の高さとアレンジ力があってこそ成り立つが、同時に明菜のぶれない内側の情熱と繊細さ、歌に向き合う強い意志が必要である。

 事前資料にはこうも書いてある。「歌詞の世界観は本人のリアルな心情が描かれている。『毎日の普通の生活大切のすばらしさ』『希望の光』といった強く伝わってくる」。それこそが音楽に示した明菜の心情とも言える。

紅白でみせた気遣い

 ここで紅白を振り返ってみたい。明菜は第一声に「有難うございます。ご無沙汰しております」と述べ、「日本も低気圧の影響ですごくお天気が荒れて大変の様ですが、こちらも結構寒くて皆さんに少しでも温かさが届けばいいなと思います。歌わせて頂きます。よろしくお願い致します」と気遣いの言葉を送った。心の余裕が垣間見える。

 ある文豪は自分の身を削って創作を続けた。精細さもあって豪快さもある。そうでなければ細かく楽しい描写は描けないという。明菜にもまた、豪快さに情熱に置き換えそう感じるのである。2010年に体調不良で休養、そして昨年末に復活。50歳の節目を前に、約6年ぶりのオリジナルアルバムの制作に取り掛かった。作品と向き合えるようになった。

 かつて明菜は1月9日夜放送されたNHK『SONGSスペシャル「中森明菜 歌姫復活」』でこう振り返っている。

 「いつも必死だった。基本の考えが皆を喜ばせたい。飽きさせない。“またこんな感じ”というのが私は嫌だった。皆がいくら好きって言ってくれても。可能な限り自分を変えて、歌い方も変えて、まるで違う歌手が出てくるように、新しい中森明菜をみてもらおうという気持ちが一番でした。ただ、その代わりに今日の歌は失敗したなとか、違ったと思うと、皆がっかりしただろうな、良くなかったな、というのは…(気持ちの反動が)何倍もきましたけどね」

 更に、体調不良で活動休止していた期間中についても「気持ちは体と一緒に動くので、いくら気持ちがそう急いていても体がついてきてくれないと無理なので。(復帰への)気持ちはずっとありましたから」と告白した。

 心に宿す繊細さ。迷いが生じれば力強くも歌えない、音楽とも向き合えない。しかし、今の彼女は違う。まさに、心身共に復活した明菜の姿が今作『FIXER』にある。固い決意。内側の力強さが低音に響く歌声と行間からひしひしと伝わってくる。

 ちなみに、同アルバム収録曲の「Rojo -Tierra-」に懸ける思いを前記の番組でこうも語っている。

 「私を支えてくれているファンの人たちを喜ばせたい、という一心な気持ちなので、画面で見てくれている全ての方に少しでも。日々色んなことあるじゃないですか。大変だったり、身体がしんどかったり、仕事がしんどかったり、精神的にしんどかったり、悲しいことがあったり、嬉しいこともあったりするんだけど、日々の出来事がちょっとでも、私のお歌を聞いたり、私の姿を見たりすることで、ほんの少しだけでもいいので支えになれたり、勇気になれたりとか、喜びに代えていただけたらな、ほんのわずかでいいので。手助けと言ったら偉そうですけど、そういうのが良いなと思います」(文・木村陽仁)

補足資料

中森明菜6年振りオリジナルアルバム「FIXER」
2015年12月30日(水)発売
初回限定盤(CD+DVD)3,800円+税 UPCH-7095
通常盤(CDのみ)3,000円+税 UPCH-2068

時代とともに生きる歌姫・中森明菜
彼女が眠る時に感じる『真の思い』
1年かけて制作された、華やかかつ繊細な表情をみせるサウンドの数々。
2015年ベストソング集と呼べるアルバムに仕上がっている。

▽CD
全11曲
M-1, FIXER -WHILE THE WOMEN ARE SLEEPING- ※よみ:フィクサー  オンナガネムルトキ
M-2, Rojo -Tierra-
M-3, Endless Life
M-4, unfixable
M-5, La Vida
M-6, 雨月
M-7, とどけたい 〜voice〜
M-8, 欲動
M-9, kodou
M-10, Lotus
M-11, Re-birth

※「FIXER –WHILE THE WOMEN ARE SLEEPING-」
映画「女が眠る時」(2016/2/27公開)イメージソング
http://www.onna-nemuru.jp

▽DVD
FIXER –WHILE THE WOMEN ARE SLEEPING- move

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