音楽としての評価も高いクマムシ

音楽としての評価も高いクマムシ

 長谷川俊輔と佐藤大樹からなるお笑いコンビのクマムシが12月16日に、初のアルバム『特別なスープ』を、自身のコンビ名にちなんで9064枚限定でリリースする。「あったかいんだからぁ」というフレーズが印象的な歌ネタ。惜しくも大賞は逃したものの今年の流行語大賞にもノミネートされ、その歌ネタを楽曲化したCDは発売初週に1万2000枚を売り上げ、オリコン初登場10位。異例のヒットで初回出荷枚数を2万枚に引き上げたほどだ。更に、第57回 輝く!日本レコード大賞で特別賞を受賞した。しかし、数ある歌ネタのなかでも楽曲として高い評価を得ているのはなぜだろうか。そこには、長谷川の意外な歌唱力と、テクニックに裏付けされた理由がある。

別格の実績

初回盤Aタイプ『特別なスープ』

初回盤Aタイプ『特別なスープ』

 「あったかいんだからぁ♪」という語感と長谷川の歌唱力、メロディの完成度の高さ、そして、歌う時の腕の動きなど見た目と声のギャップも手伝って、お笑い芸人としてだけではなく、アーティストとしてのクマムシを確立したともいえる。

 2月にリリースした『あったかいんだからぁ♪』のCD出荷枚数は最終的に15万枚に達し、配信ダウンロード数は55万DL、カラオケランキングも5週連続1位を獲得し、お笑い芸人としては猿岩石「白い雲のように」以来18年ぶりの快挙を成し遂げた。

 ここ数年、マキタスポーツやどぶろっく、8.6秒バズーカーなど歌とリズムで攻める芸人が増えてきている。割と定期的にこのブームはやってくるが、その中でも自身による作詞作曲で日本レコード大賞の特別賞を受賞したクマムシは別格と言えるだろう。

 こう言ってはお笑い芸人として活動しているクマムシに失礼かもしれないが、面白さを求めるのではなく純粋に音楽として聴きたくなる楽曲だ。ここで『特別なスープ』の収録曲をあげてアレンジ、歌唱力について考察していきたい。

飽きさせないアレンジ

 お笑いのネタとしてあのフレーズが流れていた頃は、どことなく懐かしいメロディラインに「あったかいんだからぁ♪」という言葉が新鮮に響いてきた。音源化するにあたりアレンジされ、しっかりレコーディングされたものを聴いてみるとその完成度の高さに驚いた。基本的には同じメロディの繰り返しで、長さも4分44秒もあるが、飽きない。なぜだろうか。

 サビを何度も繰り返すことで単純接触効果にも一役買っている。単純接触効果とは対象物と何度も接することで好意度が増していく法則で、認知心理学のひとつ。しかし、ただ繰り返せば良いというものでもない。そこには飽きさせないテクニックが存在する。

 その飽きさせない要因のひとつはアレンジにある。曲が進むにつれて移調させ、同じメロディでも単調にならないようにアレンジされている。最終的には、最初と比べると1音半(カラオケで例えるとキー3つ上げ)も高くなっているが、これは長谷川の音域の広さが、かなりのアドバンテージとなっているからだろう。徐々にキーが上がっていくため転調を感じさせない自然な仕上がりとなっているのもポイントだ。

 このアレンジを担当したのが、十川ともじ氏(54)だ。氏は、EXILE、岡本真夜、堂本剛、Every Little Thingなど数々のアーティストに携わっている。ベテランのスキルでブラッシュアップされ、同じメロディの繰り返しでもくどいとは思わない。中間のファンキーなセクションでガラッと雰囲気を変え、オっと思わせる意表のついたアレンジも面白い。「スーパーキューティクルVer」や「盆踊りver」などアレンジを変えても楽曲の持つ雰囲気を壊さないのは流石だ。

歌唱力と中毒性の高いメロディ

初回盤Bタイプ『特別なスープ』

初回盤Bタイプ『特別なスープ』

 2曲目に収録されている「シャンプー」は、長谷川のハイトーンボイスが存分に楽しめる。時折ファルセット(裏声)も織り交ぜ、爽やかさとセクシーさをプラス。そして、「アイッテテっててってー」のパートは男性が地声でいくには少々キツいが、長谷川はミックスボイスで芯のある高音を出すことに成功している。

 ミックスボイスとは地声と裏声の中間のような声質で、地声の太さを残しながら高い音域を出すことが出来るテクニック。日本人男性歌手だと徳永英明やEXILEのATSUSHIがわかりやすい。長谷川の強面なルックスでこのハイトーンボイスというギャップが良い。もしかしたら音の高さだけで言えばX JAPANのボーカルToshl並みに出るのかもしれない。

 そして、3曲目の「Could you tell me...」。これは教科書に載っていた英文を覚えるために、メロディを乗せていたことから出来た楽曲で、曲調はビジュアル系を意識した仕上がりになっている。お笑いネタでも「もしクマムシがビジュアル系だったら」というテーマで披露されている。歌詞の内容は図書館までの道を尋ねるというだけのもので楽曲の世界観とのギャップが凄い。イントロのアレンジは某ビジュアル系バンドの某バラードを彷彿とさせ、メロディラインもビジュアル系の王道といった感じで30代、40代のリスナーには懐かしさも感じられると思う。

 歌詞も意味を考えなければ歌い方も相まってビジュアル系特有の響きを出せているし、歌もの楽曲としての完成度は相変わらず高い。メロディが耳に残るので気がつくと鼻歌をしてしまう危険性大だ。ミュージックビデオ(MV)では、ロックバンドのPENICILLIN(ペニシリン)のギター・千聖と、ドラムのO-JIROが参加しKUMACILLINというバンドで制作され、見応えがある仕上がりとなっている。相方、佐藤大樹のゴスロリのコスプレも違和感がない。

 4曲目の「なんだしっ!」は4つ打ちの軽快なポップナンバーに仕上がっている。テレビでもよく耳にしていたので知っている人も多いだろう。韻を踏む歌詞が心地よく、この語感は新鮮に感じる。ネットスラングから生まれた言葉という説が強い「なんだしっ!」。女子高生の間で流行った言葉を長谷川が可愛らしく歌う姿が微笑ましい。ここにも先述した曲と同様にギャップがポイントとなっている。

 長谷川の書く楽曲を聴いていると、新しさとかではなく80年代、90年代のメロディ感が強いのを感じた。エバーグリーンなメロディにプロがなかなか使用しない言葉を嵌めていく。それが心地よく耳に入ってくる。人間とは面白いもので聴いたことがない新しいものを敬遠しがち。どこかで聴いたことがあるとか、懐かしいと感じるものを好む傾向があるのも事実。

 世間からも一度聴くと耳から離れないという意見が多いことから、長谷川の作るメロディがいかにキャッチーかを物語っている。どこか懐かしいメロディと言葉の組み合わせ、そしてアレンジがマッチし、これぞポップスという説得力を持った今年の集大成と言えるアルバムに仕上がった。7曲というアルバムとしてはちょっと少なめのボリューム感が次作への期待感を煽る。来年はどのような歌ネタ、楽曲を披露してくれるのか楽しみだ。(文・村上順一)

作品情報

クマムシ紅白への道 特設サイト
クマムシalbum「特別なスープ」
2015年12月16日Release
9,064 (クマムシ)枚限定リリース
<初回盤A CD+DVD>
UPCH-7096/2,963円 (税抜)
・初商品化Music Videoなど収録DVDつき
・クマムシオリジナル“あったか”入浴剤つき
・直筆サイン入りカードつき

<初回盤B CD>
UPCH-7097/2,130円
・直筆サイン入りカードつき

収録曲/初回盤A、B共通
01. あったかいんだからぁ♪
02. シャンプー
03. Could you tell me...
04. なんだしっ!
05. あったかいんだからぁ♪
-スーパーキューティクル ver.-
06. あったかいんだからぁ♪ 盆踊りver.
07. Attakaindakaraa♪ feat.カストロさとし

DVD 初回盤Aのみ
<ミュージックビデオ>
・ あったかいんだからぁ♪
・ なんだしっ!
・ シャンプー
・ Could you tell me...
・ Attakaindakaraa♪ feat.カストロさとし

<ネタ集>
・ なんだし
・ シャンプー
・ Could you tell me ?
・ 右手と左手
・ 山のごとし
・ 保留音の歌 
・ ジャンケンソング

<おまけ>
・ 「あったかいんだからぁ♪」振り付け会議
・ 「ダンシング☆あったかいんだからぁ♪
-スーパーキューティクル ver.-」
・ 会議風景~クマムシ佐藤の音楽室~
・ もぐらのブルース

「特別なスープ」配信先
レコチョク http://po.st/tokubetsunasoupreco
iTunes http://po.st/tokubetsunasoupitms

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