清塚信也

超絶技巧と軽快なトークで魅了した清塚信也

 現在放映中のTBS系ドラマ『コウノドリ』でピアノテーマ・監修を務めるピアニストの清塚信也が去る14日、東京・晴海の第一生命ホールでピアノリサイタル『K’z PIANO SHOW 2015』を開催した。バッハやモーツァルト、ベートーヴェン、ショパン、リストの名曲を華麗に演奏しつつも、当時の時代背景や作曲家の人となりを軽快なトークに載せてクラシック音楽の楽しみ方を伝えた。一方の現代音楽では『コウノドリ』の劇中曲など自身作曲の作品を精細且つ情熱的に奏でた。速弾きなどの技巧を駆使したダイナミックな演奏にホールでどよめきさえも起きた。この日の模様を以下に紹介しながら彼の人気の秘密を探った。なお、今回は少々私情を挟むがそれは氏への敬意ともってご容赦願いたい。  【取材・木村陽仁】

クラシック音楽の楽しさを表現

 レポートは極力、写実を心懸けたいところである。しかし、気持ちが高まるとペンが走り過ぎてしまい、収拾がつかなくなることもある。クラシックの世界で言えば、きっと、ショパンよりもリストの方なのであろう。そう覚えたての知識を自身に重ねてみた。清塚がこの日、ユーモア溢れるトークと演奏をもって解説した知識の受け売りである。

 この日は、クラシック音楽と現代音楽をそれぞれ前後に分けて二部構成で演奏した。拍手喝采のなか、颯爽と登場した清塚は、軽く挨拶を済ませるとクラシックの歴史を紐解き始めた。クラシック、いわゆる古典音楽が誕生した背景や当時の社会情勢。そして、名立たる作曲家たちの人となりなど。それらが全て重なって生まれたものが名曲であると説いた。本稿の冒頭に触れたショパンやリストもこの日の“教材”に含まれていた。1600年代に誕生したバッハは西洋音楽の礎を築き、その後、モーツアルト、ベートーヴェンなどが音楽の形を変えながら紡いでいった。

 それまで貴族のためにあった音楽を、自身を表現するためのものに変えたベートーヴェン。そして、彼に影響を受けたショパンとリスト。互いにルックスが良く、名立たる技巧派でライバルでもあり対照的な存在だった。ショパンは病気がちで繊細な心を持っていた。それ故に、始めから終わりまで静かに終わる曲が多かった。一方のリストはガタイも良くエネルギッシュ。パワーのある曲が多かった。そのリストもショパンに対抗して静かな曲を手掛けようとするも、途中から感情が抑えきれなくなり激しく奏でてしまう。

 そうした曲の違いや楽しみ方を演奏やトークで紹介したのがこの日のリサイタルの第1部であった。クラシック音楽がどう生まれて、どう変化したのか。そして作曲家の性格によっても変わる曲の性質を、清塚は軽快な語り口で紐解いていき、説得力のある演奏でその世界観を体感させた。特にショパンが後世に残す為に唯一、激しさを求めた「英雄ポロネーズ」では、「身も心もズタズタで弾けなかった彼に変わって健康な私が演奏します」と語ってダイナミックに披露。その圧巻の演奏に観衆は酔いしれていた。

 清塚はこの日、「感性を研ぎ澄ませて、楽曲が生まれた当時を想起させて聴いてください」と前置きしていた。当の本人もそれを意識しているように、感情豊かに演奏した。小雨が降りしきるこの日の都心の空とは対照的に、彼が奏でる連弾は、曲が生まれた当時の情景を映し出しているようだった。聴いて楽しむだけでなく、想い巡らせて楽しむことを体感させてくれた。

思わずどよめいた技巧演奏

清塚信也のリサイタルを体感[1]

清塚信也の速弾きは、ホールでもどよめきが起こった

 音楽の移り変わりを時系列で結ぶように、第2部では現代音楽と清塚作品を中心に届けた。彼が過去に手掛けた映画の劇中曲「ポプラの秋」や「恋」、「遠い約束」を立て続けに披露。「ご自身の人生に照らし合わせ欲しい」と語ったように静かにゆったりと流れる旋律や激しさを伴った速弾きなどは、あたかも目まぐるしく過ぎていく人生に重なるようだった。“主役はリスナーである”と意識したアルバム『あなたのためのサウンドトラック』の趣旨にも沿っていた。

 大歓声のなかで迎らえられたのは現在放映中の『コウノドリ』の劇中曲の数々。ドラマの撮影秘話や、BABY(鴻鳥サクラ)を演じる綾野剛と役作りの中で作曲していった「Baby, God Bless You」や「Brightness」などの誕生秘話などを明かした。特にドラマでも印象的な「Minor Heart」や「Sound Seeker」では、速弾きや肘で鍵盤を鳴らすなじみの演奏スタイルを披露。終盤に連れて興奮の度合いを高めた清塚が立ち上がって中腰で荒々しく弾く姿は観衆の心を奪うのに十分だった。一方の生命の誕生をテーマに描いた作品「Baby, God Bless You」では繊細さが際立っていた。

 リサイタル終盤は色を変えて、ビリー・ジョエル「ピアノ・マン」やガーシュィン「ラプソディ・イン・ブルー」を披露。まずは清塚の新曲「二人の音」の優しい音色でホールの空気を整えると、リズミカルなメロディに挟むダイナミズムが印象的な「ピアノ・マン」、ジャジーな雰囲気を醸し出した「ラプソディ・イン・ブルー」へと続けた。想像を絶する速弾きに思わずどよめきが起きた。激しさや軽やかさの攻守が目まぐるしく変わる圧巻のパフォーマンスだった。そして、本編を終了後に行われたアンコールは更に激しかった。

 その都度、沸き起こる割れんばかりの拍手。リサイタルの後にできたサインを求める長蛇の列をみても観衆の満足した様子がうかがえた。時に繊細に、時に息をも切らせる激しさを伴った演奏。情熱的且つ技巧を尽くしたその姿とは対照的に和やかな語り口。そこに彼の人気の要因が示されているようでもあった。約2時間半にも及んだリサイタルは、聴いて楽しむ、知って楽しむ、見て楽しむなど、ピアノ音楽を立体的に楽しむ方法を体感することができた。

セットリスト

バッハ:主よ、人の望みの喜びを
モーツァルト:きらきら星
ベートーヴェン:ピアノソナタ第23番『熱情』第3楽章
ショパン:ノクターン第2番 Op.9-2
リスト:愛の夢
ショパン:英雄ポロネーズ

清塚信也:ポプラの秋
    :日々
    :恋
    :遠い約束

コウノドリ:Over The Rainbow
     :Minor Heart
     :Baby, God Bless You
     :Brightness
     :Sound Seeker

清塚信也:二人の音(新曲)
ビリー・ジョエル:ピアノ・マン
ガーシュウィン:ラプソディ・イン・ブルー

アンコール

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清塚信也のリサイタルを体感[1]

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