先日、UKロックバンドのインタビューを行った。2度目となった来日、そして、フェスやアルバムなど“王道”の質問を繰り返した。幸いにも聴いてきた音楽が一緒で、通訳を通してではあるが、英語が話せない私が相手でも会話は弾み、話題は音楽業界にまで及んだ。日本のバンドと世界のバンドの意識の違い、流通文化の状況など。1時間のインタビューのなかで感じたのは、日本人の真面目さだったように思える。

 更にその過程の中、具体的な理解が難しかった「ロックにおける洋楽と邦楽の違い」に、言葉による意思伝達の違いが深く影響を及ぼしているのではないかというヒントを得た。そして「洋楽と邦楽ロックの根本的な違いとは一体何なのか」という点を、各国で異なるコミュニケーション面からも考えさせられた。

敬語の概念がない英語

 英語は出来ない上に外国人へのインタビューも未体験。そんな状況のなかで舞い降りて来たUKロックバンドへのインタビュー。この件を前に私は非常に臆していた。これまで洋楽を通し、英語の歌こそ大量に聴いてはきたものの、英語での会話のやりとりは片言以下程度である。通訳の方を通すとはいえ、事の核心に迫る事が出来るのであろうか。

 そこで、ここは策が必要、先制攻撃なる何かがないと心が折れてしまう、と考え私は、ネイティヴ英語が話せるハーフの知人に、「ごく自然に、丁寧で失礼のない感じの、更に熟れたニュアンスも少々あればベスト」そういった英語を少々教えてもらうべく、紙とペンを手に御教授賜った。

 「今日のインタビュー、とても楽しみにしていました」これを最初の挨拶換わりに言えば相手は喜ぶと思うし、やりやすい空気になるんじゃないかな、と言うハーフの彼の打診から、その英語を発音まで細かに教わり、私はだんだん勇気が湧いて来た。そして、「今日のインタビュー、とても上手くいったと思います」という締めの文句も教わり、臆する心境は彼方へ飛んだ。

 極力、最上級の丁寧語で御礼も言いたいという意図を彼に伝えた所、ここでううんと唸ってしまった。というのも、そもそも英語には敬語の概念が無いと言う。うっかりしていた。我々日本人は尊敬語と謙譲語を最大限に駆使し、敬語を組み立て、丁寧に言葉で相手に感謝の意を伝える。しかし英語ではその手法が通用しない。ではどうすれば礼儀とホスピタリティが伝わるというのだろう。彼が言うには「言葉に加えてのニュアンス、声のトーン、体のアクションで表現する」方法しかないとの事だった。

 ここで、何かの「線」が繋がりかける感覚を覚えた。英語には敬語が無い。日本語ほど細かな言い回しもそこまでは無い。そのかわりに、ニュアンスやアクションが加わる。長年、具体的に理解が出来なかった「ロックにおける洋楽と邦楽の違い」。ここには言語コミュニケーションの差に最も大きな源流が潜んでいるのではないかと感じた。

日本とUKの違い…音、そして言語

 インタビュー当日、その感覚が実際に答えに繋がるものを感じる事が出来た。まず、想像どおり、話す度に彼らはアクションを加える。身振り、声の抑揚、そして特に表情は日本人の何倍もニュアンスを交える。話す相手の目をしっかりと捕らえて見ているどころか、話を聞く事に加え「相手の動きや感情の変動を常に読み取っている」という会話の仕方だった。

 日本語だと、ありとあらゆるバリエーションに富んだ敬語の言い回しや比喩表現がある為か、そこまで感情を言葉以外の要素で表現しなくとも、ある程度は言葉のみで自分の心を伝える事ができる。しかし、英語の場合はアクションや話し方のニュアンスを交えた方が円滑に伝わる。この相対する点が源流と考えると、繋がりそうな線は明瞭になってくる。

 「日本とUKのロックの大きな違いは?」という問いに、彼らは「日本人は凄く技術もあって、凄く練習しているのが判る。僕らはと言うと、けっこう適当にやっているのだけど」という感じの内容で答えた。このシンプルな返答には「日本人は真面目である」という含みも読み取る事が出来る。そこから私は各国の言語文化が及ぼす国民性、更には文化面、そして音楽への影響を考慮せずにはいられなかった。

 英語圏のロックなどは、ビートやサウンド、シャウト、コーラスの印象が強い事に対し、日本のロックやポップスなどは、歌詞や楽曲構成をより重んじている印象が明確にある。ニュアンスやグルーヴやインパクトよりも「言葉の選び方」「順序、構成、展開」。それら音楽表現のニュアンスの違いは、英語と日本語による会話のコミュニケーションの温度差に大きな要因があるという事を肌で感じた。

 洋楽ロックと日本のロックの違い。それは、「言語の特性がコミュニケーション手法に影響を及ぼし、その結果、感情の伝達や受け止め方が異なってくる」という点が源流にある事を感じた。言葉を用いた心情の伝え方の特性、言語文化の各個性の存在は、洋楽ロックでなければ出せない魅力もあれば、日本のロックでなければ滲み出ない素晴らしさもある、という事に繋がるのではないだろうか。  【文・平吉賢治】

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