[写真]金子國義さんの遺作画文集『天守物語』

金子國義さんの遺作となった画文集『天守物語』(提供・キノブックス)

 [インタビュー]2015年3月に急逝した画家・金子國義さんは、耽美的な作風によって高く評価され、不世出の芸術家とも謳われた。その金子さんが愛してやまなかった戯曲、泉鏡花作『天守物語』。物語をモチーフにして描かれた数点の作品を手がかりに、死後その遺志を受け継ぐかたちで画文集『天守物語』(キノブックス)が1日、刊行された。6日には、東京都中央区の八重洲ブックセンター本店で、編集を務めた作家の津原泰水さんと、故人のマネージャーであり養子の金子修さんが刊行記念トークイベントを行う。イベントに先立ち金子修さんに話を聞いた。  【取材・紀村了】

 金子國義さんは、人間の本能をも映し出すかのような妖艶な雰囲気を漂わせる人物画を得意とし、作家の澁澤龍彦の著作の装釘や挿絵、オリベッティ社刊『不思議の国のアリス』の挿絵などを手掛けるなど、幅広い分野でその才能を開花させた。また、L'Arc~en~CielのHYDEさんとは古くから深い親交があり、ソロ3枚目のアルバム『FAITH』のジャケット画を手掛けたことでも知られている。HYDEさんについて修さんはこう振り返る。

 「HYDEさんはお通夜、葬式、そして骨上げまでいて下さりました。HYDEさんと先生の出会いはHYDEさんがL'Arc~en~Cielとしてメジャーデビューした1994年です。弟子の井上文太さんの初個展で、お祝いとしてマリリンモンローを踊ったのですが、それをHYDEさんが目撃していたんです。HYDEさんもまた友人である井上さんを祝いに駆けつけていて。親しく交流するようになってからしばらくして、強烈な出会いだったと当時を振り返っていました。その時からのお付き合いで、決まって人に紹介する時は、僕の弟分なの、と言っていました」

 その金子さんが生前愛読していたのが泉鏡花作『天守物語』。特に、歌舞伎役者の坂東玉三郎さんが主演を務めた舞台を好み、全ての登場人物の台詞を覚えていた。今回収められた3点の富姫像は、台詞の音声を流して聞きながら描いたものだという。そして、『天守物語』をテーマに作品を集成したのが画文集『天守物語』。これにはHYDEさんのアルバムジャケットを飾った絵も収められているという。

 「『天守物語』に書かれた泉鏡花の台詞まわしや語感が綺麗だと好んでいました。そのうえに坂東玉三郎さんの感性が加わって生まれる独特な華やかさを気に入って、その声色を録音したテープを何度も回して聴いていました。作品を描くときは余計な考えや先入観を排除するために心を無にした状態でキャンバスに向かうのですが、今回の3点もそのテープをずっと聴きながら一心に描いていました」

 今回の画文集『天守物語』の企画は今年1月に出版社から打診があった。こよなく愛した『天守物語』。それをみずからの挿画によって大胆にリニューアルした作品の完成を見ぬままこの世を去った。『天守物語』をモチーフに描いた絵画は2004年に手掛けた3点のみであった。そのため、生前親交が深かった作家の津原泰水さんと、装釘家の松木美紀さん、編集者の福士祐さん、修さんの4人が、描き溜めていた作品から戯曲のイメージに合う絵を選んだ。

 「戯曲のテーマや雰囲気に合ったものを選びました。実は、時間をかけて皆さんで選んだ作品フィルムを直前になって僕が何点か紛失するという事件がありまして、仕方なく別の作品で埋めあわせをしたのですが、選び直した絵画はどれも改正前に比べて全く遜色なくて。きっとトラブルは、天国から様子を見守っていた先生が『これではダメ』と言って送ってきたメッセージだったのではと思えました」

 金子さんは多彩な活動で世間を魅了した。しかし、常に良いアイデアが生まれたわけではない。そんな時は潔く割り切って、趣味などに没頭していた。1カ月は平気で何も描かない時もあったようだ。しかも好みが激しい。依頼者の顔が好きじゃないと言って仕事を受けない事が多々あったという。しかしそれが金子作品の気品を保つことになる。

 「媚びない性格でインスピレーションが湧かなければ早々に諦めて別な事をするのです。1カ月間ずっと趣味にふけっていたこともありました。それがまた作品を生み出す原動力にもなっているんです。ただ、遊びが行き過ぎて、電気が止められそうになったこともあります。先生には生活が大変だったことは一切伝えていませんし、知らなかったと思います。現実味のある話をして集中できなくなっては理想の作品は生まれませんから」

 そうした環境のなかで描かれた作品は今も未発表のまま多く残っているという。金子さんが絵画を手掛けるようになったきっかけは青年期。当時暮らしていた部屋の壁が無味乾燥で淋しいからという理由で絵を描いた。それは晩年も変わることなく「眺めるために描く」と、描いた絵画は部屋に飾った。現実にあるしがらみを一切排除して心と向き合い描いた作品とも言える。文化の香りが漂う言わば清らかな作品と言えよう。しかし、金子さんは決して天才ではなかったと修さんは語る。

 「水彩画は勢いで書き、油彩画はあらゆる色を塗り込んで仕上げていく。写真も手掛けていましたが、シャッターをなかなか押さないんですね。ベストな『絵』がフレームにおさまるまでは。モデルや衣装、撮影空間などにもとことんこだわる人で、迷う人でした。右手の人差し指の位置が決まれば次は足の指。顔の位置を決めて目線を決めて。完璧だと思うポーズと背景にならないとシャッターを切らない。1枚写すのに5分かかるのも珍しくなく、撮影後、疲れきってその場に眠りこんでしまうモデルもいました。いずれも準備に時間をかけて、良いインスピレーションが浮かぶまで考え抜いていました。そういった意味でも、天性的な側面ばかりが取り上げられがちですが、実際は人間味に溢れた人物だったと思います」

 絵画は、それを収める対象との相性が肝である。「顔が嫌いだから描かない」と言ったように、金子さん亡き今、絵自身が「ここには収まりたくない」と我がままを言いそうだ。金子さんの意図から外れず、確実にピースをはめ込むように残された絵画をそれに見合う場所、時間、環境のなかで発表していく。金子さんにとっては今作が遺作である反面、修さんにとっては金子さんの想いを汲んで選定する最初の作品となる。プレッシャーはないのか。

 「ないと言えば嘘です。でも、私は先生の代わりはできませんし、私は私であることに変わりはない。描くこともできません。長い間、共にいて分かっているところもあると思います。そばで見てきたからこそわかる人間性や芸術性というか。先生が目をかけていた同門の人たちと共にそうしたイメージについて思い巡らせながら伝えていきたいと思います」

 画文集『天守物語』は金子さんの誕生日である7月23日に発売したいという思いがあったが、結果、遅れること9日後に刊行された。この刊行を記念して行われるトークイベントで対談する作家の津原泰水さんは金子作品の良き理解者であり、自身著作の装丁を依頼する一方、金子さんの文章をチェックした間柄。トークショーでも3回共演している。修さんは今回のトークイベントで、秘話も含めてこの作品に込められた思いを語りたいとしている。

■「天守物語」

単行本=2015年8月1日発売
金子國義/画、泉鏡花/作(著)、津原泰水(監修)
2015年3月に亡くなられた金子國義氏の《遺作》画文集。
泉鏡花『天守物語』をテーマとした作品をメインに作品を収録。
未発表の作品もある。特に“富姫の登場シーン”は必見。
単行本-精装=93ページ
出版社=キノブックス(2015年8月1日)
言語=日本語

■トークショー

八重洲ブックセンター本店8Fギャラリー
2015年8月6日(木)19時00分~(開場=18時30分)
50名(申し込み先着順)※定員になり次第、締め切られる。

記事タグ

関連記事は下にスクロールすると見られます。