大久保伸隆「Something ELseで出来なかったことができている」ソロで見出した答え
INTERVIEW

大久保伸隆

「Something ELseで出来なかったことができている」ソロで見出した答え


記者:榑林史章

撮影:

掲載:21年05月25日

読了時間:約8分

 シンガーソングライターの大久保伸隆が16日、4thアルバム『Time』をリリース。1996年にSomething ELseのボーカルとしてデビュー。2007年にソロ活動開始。アルバム『Time』はソロとして8年ぶりのアルバムで、アコースティックギターを中心にしたサウンドと、大久保らしい温かみのある楽曲が詰まった作品。デビューからの25年を振り返ってもらいながら、現在の音楽に対する考え方、アルバム『Time』に込めた想いなどを聞いた。【取材=榑林史章】

自分を見失わずにいられたのは環境のおかげ

「Time」ジャケ写

――大久保さんはバンドSomething ELseのボーカルで1996年にデビューされました。この25年間、大久保さんとしても音楽業界も様々なことがありましたが、そんな中で変わらずに音楽を続けられている、モチベーションになっているものは何ですか?

 やっぱりライブをやることで、それは25年変わっていません。もともと路上ライブをやっていて、それがきっかけでバンドという形でデビューして。ライブをやることで自分たちバンドの存在意義を確認できている気がして、それはソロになっても同じです。ライブをやってみんながよろこんでくれて、いいライブだと言ってくれた時は、やって良かったと思うし、ソロアーティストとしての自分の存在意義が、それによって確認できています。それがあったから、今までずっとやれてきたと思います。

――アーティストによって、いろいろな目標を掲げる方もいますが、大久保さんの場合、具体的な目標は何かありますか?

 自分の中でもっといろんな切り口やアプローチで作品を作っていきたいというのがあって。それをみんなに聴いてもらって、共感してもらったり何か考えてくれたりしたらいいなと思っています。

――1999年にSomething ELseの「ラストチャンス」はメディアを通して沢山の人に知れ渡ったわけですが、その経験はどういうものだったと思いますか?

 自分たちの中では、納得のいく作品を作り続けることだけを考えていましたから、一喜一憂していても意味がないという気持ちでした。だから、あくまでも一つの出来事という認識です。皆さんがよろこんでくれたり反応してくれたことは、とても嬉しいことでしたが、けっきょく僕たちは、自分たちらしさを追求してもっといい作品を作っていこうという想いでした。

――そういう経験を、大久保さんのようにフラットに考えられる人はなかなかいないと思います。どうしてそう考えられるのですか?

 良くも悪くも、ビジネスということ以上に音楽を楽しんでいたということが大きいかもしれません。環境の変化に惑わされず、自分たちがいいと思えることをやっていこうと、スタッフを含めたチームで意識が共有されていました。変に有頂天になることも状況に振り回されることも無く、自分たちを見失わずにいられたのは、僕らアーティストの音楽を信頼してくれているチームがいてくれたからで、環境的に恵まれていたんじゃないかなと思います。当時のスタッフとは全員ではありませんが、今でもつながりはありますし、今回アルバムをリリースすることを報告した時は、とてもよろこんでくれました。

――8年ぶりにリリースされる今作『Time』は、シンプルで温かくてスッと入ってくるアルバムだと思いました。『Time』というタイトルは、どういう理由で付けたのですか?

 今回のアルバムは昨年のコロナ禍で作ったのですが、スタジオ内が密にならないようにとか、換気のことなどいろいろなところに気を配り、スタジオにいる時間が少なくて済むように、日数も通常より減らして作って。そういう制限がある中でも、自分として納得のいく作品ができたと思っています。

 そうした制作を振り返った時に、ありきたりだけれど「時間って大事だな」と思ったり、改めていろいろ気づかされたところがあって。それでコロナ禍という特殊な状況下で、時間という制限の中でアルバム作ったことは、自分にとって意味のあることだったと思えたので、それを一つ形として記録しておきたいなと。それで、作品の内容とは直的なつながりがあるわけではないけど、『Time』というタイトルを付けました。

年齢に関係なく共通した普遍性を意識する

大久保伸隆

――シンガーソングライターは、その時に感じたものをリアルタイムに表現していくこともあると思います。コロナ禍という現在を作品に落とし込むのは道理にかなっていますね。

 確かにそうですね。今作のラストに収録している「未来」という曲は、歌詞を6~7月くらいに書いたんです。書いた時はそこまで意識してはいなかったのですが、作り終えた時に改めて歌詞を読み返して、コロナ禍で大変な思いをしている人たちに向けた、ある種のメッセージになっているかもしれないなと思いました。

――「未来」からは、希望が感じられました。

 はい。今後がどうなるかは誰にも分からないけど、希望は持っていたいですから。「未来」という言葉も捉え方によって前向きだし、光が見えるし。でも、もともとは仮タイトルだったんです。そこから広げて歌詞を作って、最終的に仮ではなく正式に「未来」というタイトルで完成させました。

――<つまづいた時に気づくことがある>という歌詞のフレーズは、コロナ禍に限らず人生すべてにおいて言えることですね。

 生きている上で、大なり小なりそういう経験をされた方は多いと思うんです。仕事の中でも何でも、自分の置かれている状況に当てはめて聴いてもらえたらうれしいです。

――大久保さん自身、人生でつまづいたとか挫折したと感じたことはありますか?

 そこまでは考えないと言うか。もちろん悩むことはあって、でも、いつもどこかで誰かにサポートされていて、精神的な部分でつまづいたとか挫折したと思うところまで至っていないのだと思いますね。

 でも、バンドが解散してソロになった時は状況が大きく変化して、いろいろ考えた時期でした。挫折とは違いますけど、そこが僕のターニングポイントになったことは確かだと思います。でも、メンバーとは今も交流があって、実は今作の作曲やコーラスで関わってくれています。バンドという形ではなくなりましたけど、交流が続いているし、ソロではバンドではできなかったことができているし、表現の幅も広がったと思っているので、バンドの解散は自分の中でプラスとして捉えられています。

――大久保さんがソロアーティストとして描いている“未来”は、どんなものですか?

 思い描いていたものはあったんですけど、新型コロナウイルスによって変わりました。以前は対面で1年に5回ライブをやっていて、今となっては、それを変わることなくやり続けたいし、そこにはお客さんにいてほしいだけです。純粋にそう思っています。これは、ビジョンではなく願いですけど。きっとコロナ禍にならなかったら、こんな風に純粋に思わなかったかもしれないです。

――アルバムは全体に、大切な人やものなど、大切な何かに対する思いが感じられました。それも、コロナ禍で気づかされたことでしょうね。

 「救い」みたいなワードをどこかに入れたいというのは、コロナ禍だからということではなく、昔から思っていて、どの楽曲にもそういったものを込めています。聴いてくれた人が少しでも救われたらいいなとか、悩んでいる人やつまづきそうになっている人が、前を向けたらいいなという想いで作っています。

――それを恋に例えたりなぞらえたりしながら歌うことで、よりスッと入ってくるものになっている感じですね。

 そうですね。自分の中で、そのほうが書きやすいというのがあります。その上で、切なさがにじみ出るようにという意識もしています。

――「帰り道」という曲は、学生時代を思い出す切なさで、どんな世代にも響く設定ですね。

 昔を思い出して、自分の実体験に当てはめて懐かしんでくれる人も、たくさんいると思います。そういう部分では、普遍的なものを書こうという意識もあって。「帰り道」は学生時代と重ねてもらったりとか、少しでもたくさんの人に共感してもらえることを意識して書いています。自分も年齢を重ねているので、自分が経験して感じたことが、歌詞の主人公を設定する時に出てくることもありますが、何かを思う、考える、感じるということは、年齢に関係なく共通しているので、そういうところは大事にしています。

――今作には、斉藤和義さんの「歌うたいのバラッド」のカバーも収録しています。ライブでは、これまでどんなカバーを披露してきたのですか?

 選曲は、自分の声や歌い方などに合う曲であることが大前提で、最近よりも少し前の曲で、ヒット曲が入ったアルバムの収録曲の1曲など、一般的にはあまり知られてはいないけれどいい曲とか、僕が歌うことで意外性が生まれる曲も、選んだりしています。例えばPerfumeさんの「ポリリズム」をアコースティック編成でカバーしたこともありますし、宇多田ヒカルちゃんの「Automatic」をアコースティックでファンクっぽくやってみたり。THE BLUE HEARTSさんの「情熱の薔薇」をカバーした時は好評でした。

 ライブでは飛び道具的な感じですけど、皆さんすごくよろこんでくれるので、次のライブではどんなカバーをやろうか考えるのが楽しいです。9月にはバースデーライブを兼ねてレコ発ワンマンライブを開催しようと考えています。その時はどんな曲をカバーするのか予想しながら、それまで4カ月くらいCDを楽しんでもらって、9月にはライブで一緒に楽しめたらと思っています。

(おわり)

「光景」

「歌うたいのバラッド」

「未来」

作品情報

大久保伸隆
4th Album『Time』
5月16日発売
レーベル名
(CD)2,800円

【CD収録内容】
1.恋の速度
2.ジグソーパズル
3.光景
4.I feel you
5.帰り道
6.歌うたいのバラッド
7.未来

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