西田あいが3日、シングル「幸せ日記」をリリースした。本作は自身の歌手生活10周年で初の作詞に挑戦した。そして共作で作曲も手掛けたSoulJaとは英語を交えて何度も話し合いを重ねて制作し、アレンジはケツメイシのプロデューサーを務める同郷のYANAGIMANが担当。本作について話を聞くとともに、YouTuberとしての活動など歌手活動だけには留まらないフレキシブルな活躍をみせる西田の現在の意欲的なスタンスについてなど、10周年を振り返って現在の心境を語ってもらった。【取材=平吉賢治】
10周年を経た心境「全てにおいて責任が伴った」
――昨年、歌手生活10周年を迎えましたが、振り返っていかがでしょうか。
一言では言い表せないくらい、本当に色んなことを経験させて頂いた10年でした。その10年がなければ「幸せ日記」は生まれていないというくらいです。過去の出来事や過ごした時間があったからこそ、それも肯定できる自分がいるという感じです。
――10年間で、挫折やピンチを感じたことも?
2、3回は辞めようと思ったこともあります。やりたかったこと、理想と現実が違いすぎたり、思い描いていた歌手のかたちと違う所に自分が身を置いているかもしれないと感じた時、自分の言葉でファンの方々に物事を伝えられていなかったりなど…。
周りの方々が思い描く“西田あい像”に近づこうと頑張ってみたけど、気づいたら自分がからっぽになっていたりなど、理想と現実のギャップに耐えきれなくなって「このままだと何もいいサイクルを生まない」と思ったのは何回かありました。みんなが思い描いている人物像が私とかけ離れ過ぎていて「どうしよう…」というのも悩みでしたし。
――そんな苦悩を救ったきっかけがあったのでしょうか。
それは一つではないと思うんです。プロデューサーがいて作家の先生がいて、その一つひとつの想いを受け、歌手は頂いた歌を歌うというスタイルがある演歌歌謡界に飛び込んだ時点で、自分の想いとのギャップが生まれることはあると思います。最初はそこに乗って行くけど、そのうちに自我がどんどん芽生えてきて。私は、自分の想うことを私の言葉で発したいタイプだと、5年目あたりから徐々に気づいてきたという感じです。
――そんな中、今作は正にご自身の言葉で作詞されていますね。きっかけとしては、同じ事務所でデビュー同期にあたる純烈のリーダーの酒井一圭さんから「次のステップとして書くべき!」と背中を押されたことだそうですが。
まず、SoulJaさんも純烈も私も縁で繋がっていまして。もともと去年の夏にゼロベースでSoulJaさんと私のやりたいことをぶつけた曲を作り始め、3曲くらい作り上げていたんです。「これをどう展開させていく?」と話していた時に、たまたまリーダーが通りかかって聴いてもらったら「いいんだけど、このままだと“誰々フィーチャリングSoulJa”みたいな形から抜け出せないし、誰かが作った歌を歌う形から抜け出せないから、次のステップとして言いたいことがこの10年で色々あるやろ? それを書けばええねん!」って背中を押してもらったんです。それを制作の打ち合わせで話したら、みんなが「絶対そうした方がいい。今ある3曲、一回蓋をして作り直しましょう」ということで、またゼロから「幸せ日記」を作り始めたんです。
――新たな一歩の楽曲なのですね。
そうですね。自分の想っていることを形にして、アートワークも歌も全部自分で責任を持ってと。前との大きな違いとしては、全てにおいて責任が伴ったことです。
初の作詞、ASMRなどの新アプローチの新作
――歌詞にはどんな想いを込めましたか。
私自身がコロナ禍の生活で凄く心が疲れていて、いざ自分が曲を作る立場になった時に「一緒に頑張っていこうぜ」というような、から元気みたいな曲はこのご時世に聴きたくないなと思ったんです。暗すぎる曲も聴きたくないなと。
今この心境でどんな曲に救われるかと思った時、何気なく聴けて、自分の心が緩んだ時、「今日はちょっと感情を解放してもいいかな」というような、そういうきっかけを与えてくれる、押し付けもしない、そっとそばに寄り添ってくれる距離感の曲がいいという話をまずしました。今日も空気がおいしい、緑が綺麗、太陽が眩しいなど、五感で世の中の全てを感じられる瞬間の鍵を開け閉めするのは自分次第だと思うんです。
日頃から、常に気づいたことをメモとしてiPhoneに書き溜めているんです。そこに私の感じたことを書いているから、それでみんなに見てもらい、そこからワードを選んでもらったりしました。みんなの力を借りて、私のボキャブラリーの中から選んで組み立てて、ブラッシュアップは私自身という作り方だったらできるかもしないということで初作詞に挑戦しました。
――日々の気づきのメモから生まれた歌詞なのですね。楽曲にはASMR(聴覚や視覚への刺激で感じる心地よさ)の要素が取り入れられている?
「幸せ日記」も「Home」にも入っているし、「幸せ日記」弾き語りバージョンの声のウィスパー成分もそうです。YouTubeでやっているASMRの動画では咀嚼音やスライムを切ったりする音もあって、世間的にはそれがASMRのイメージだと思うんです。私の場合は特に声のASMRに反響を頂いていて、前向きになる言葉を囁いたり、有名な曲の歌詞に音程を付けずにウィスパーで読んで、みんなの細胞の中のポジティブな部分だけ活性化させるような、そういう睡眠導入プラス、ポジティブな世界へ導くような囁きを基本的にやっているんです。
その癒し成分を取り込みたいということで、今回は8声コーラスで重ねて、サラウンドで聴くと囲んで聴こえるようになっていたりします。「幸せ日記」は、鳥のさえずりや、レコード特有のチリチリした音、外の空気の自然の感じが音から伝わってくるという意味での聴覚への気持ち良さ、そういうASMR要素を取り入れています。深い部分の本能に届くような効果音を入れています。声もASMRで倍音として伝えるための喉の使い方があったりして、それをどういうタイミングでどの音の定位にするかなど、その辺を深めるほど楽曲作りとも通ずるところが出てきたんです。
――するとヘッドホンやしっかりしたスピーカーなどのリスニング環境で聴くと、その深みがより味わえそうですね。
そうするとより世界観に引き込まれて包まれると思います! 「Home」も声を何声も重ねて、全体からグルッと声が包み込むようになっています。サビは特にそういう作り方をしています。
――そのあたりのアプローチは今作のコンセプトとも言えそうですね。
そうですね。今回はそういう要素も入れたいと。
――なるほど。ところで西田さんは昨年ギターを始めたとのことですが、「幸せ日記」弾き語りバージョンが収録されているのはそれもあってのことでしょうか。
そうです。コロナ禍がなければ誕生していない選択肢です。今後ステージでも弾き語りを取り入れていきたいし、「幸せ日記」はどちらかというと大きなステージでドンと歌うというよりは、日常の生活の中にある「幸せ日記」の方がリアルだと思っています。だからこそ、より音を削ぎ落としたシンプルな環境の中で、1曲目の「幸せ日記」とはギャップのあるナチュラルなものをというのを作りたいと思いました。
10年間蒔いてきた種に出たあらゆる“芽”
――西田さんはYouTubeでも活躍なされていますが、やろうとしたきっかけは?
面白そうだからです。始めた3、4年前は、歌手のYouTubeチャンネルはMVを上げる場所でしかなかったんです。本業がある中で、歌手の一面を出さずにYouTuberという視点、西田あいではなく「ニシアイ」としてやるという条件でスタートしたんです。だから体を張ったり色んなことをやっています。コロナ禍になったことで歌手の西田あいとしての作業が一切絶たれたことで、一緒にやっている制作チームの方々に「本当にごめんだけど、ニシアイにちょっとだけ持ち込んでいい?」と言って、弾き語り生配信や音楽を増やしたんです。
――「ニシアイチャンネル」で、そこは柔軟にと。
おかげさまで、従来のファンの方々と、ASMRや企画などについていたファンの方々が良い感じに混ざり合いつつ、「歌を歌っているニシアイさんも素敵だね」と、今となってはASMRファンの方々もそのようになってくれているんです。
――「ニシアイチャンネル」の動画を色々拝見しましたが、活き活きとされていましたし、歌手の方でレモンサワーを飲み比べる企画をやるのは、なかなかないから面白いです。
ありがとうございます(笑)。「歌手の西田あい」としてではないではないところを面白がって「一緒に楽しいことをやっていこう」と、おいしく料理して頂いてくれているスタッフの方々とできています。
――なるほど。ところで、他のYouTuberとコラボしたいという話を聞いたのですが、具体的には誰でしょうか。
パーマ大佐さんです。パーマ大佐さんは音楽が軸にある人で、YouTubeもやられているし、「コロナ禍が落ち着いたらやりましょう」と、生配信中の場でそうなりました。
――YouTubeの他にもやりたいことは?
この先は実際に会える、集まる場所、3Dな展開にしたいとチームで話しています。今まではYouTubeを通してやりたいことを映像で届けていて、コロナ禍になったことで一方的に届けていたものが生配信、チャットなどで通じるようになり、相互関係がクロスしながらできるようになってきたんです。
――それこそライブのような?
今年からネイチャーコンサートというのを始めているんです。それは大自然や絶景の中で弾き語りをするという企画で、第一弾は高尾山の山頂でした。そこまで音響設備を全部背負って全部自分達の足で登り、それを密着しながら全部流して、その先に歌って夕日がちょうど沈むというタイミングで感動するというものなんです。毎回、苦労の先に感動があるよねという。苦労しないとその感動は得られないから、そういうメッセージも込めつつ、みんながステイホームを頑張っている間、私達は外の綺麗な景色を届けるからというものです。
コロナ禍が明けたら、誰かがおすすめしてくれた景色の所に行き、その人にも現場に来てもらってその場所の魅力を語って頂いたり、「あなたの思い出の曲をここで歌います」など、そういうクロスしている展開もできたらいいなと思っています。そういう風に、関わり方が今後変わっていくんだろうなと思っています。
――柔軟に様々なアプローチも視野にあり、今作では初の作詞だったりと非常に意欲的と感じます。今後の展望として新たにやりたい音楽などは?
音楽性自体は、多分その時々でその時代のニーズに合ったものに変わると思います。常々思っているのは、昭和歌謡を歌い継ぐのももちろん大事で、カバーもどんどんしていきたいということです。そこには、先輩方が残した名曲を大事にしていきたいという想いもあります。
でも新しいものも生み出さないといけないわけで、そういう意味では今回はコロナ禍という時代にぴったりの曲が出来たと思っています。それが来年どう変わるのか、人々の心がどっちに向いているのかわからないから、その時に必要な音楽性を見つけて、その時々で臨機応変に、何かに固執することなく、どんどん新しいものを取り入れ、新しい人達と曲作りもするし、新しい人達と映像なども作りたいです。自分を新しい私に生まれ変わらせてくれる人がいるなら髪型から全部任せてもいいというくらい、新しいことに挑戦すること自体に凄く意欲があります。その時代に合った西田あいが表現できるものを表現していくというところです。
――ご自身で、現在はどんな時期だと感じますか。
10年間蒔いてきた種に、最近芽が出てきたという感じです。これからどこまでこの茎は伸びるか、どんな花が咲くかな、という。YouTubeもラジオも歌手活動も、各方面の種から芽がちょっとずつ出て、どれとどれが混じり合うか、ここからという感じです!
(おわり)
作品情報
西田あい
シングル「幸せ日記」
2021年3月3日発売 (2月10日先行配信)
CRCN-8390 1,364円+税
1. 幸せ日記 作詞:SoulJa、西田あい 作曲:SoulJa 編曲:YANAGIMAN
2. Home 作詞:SoulJa 作曲:SoulJa 編曲:YANAGIMAN
3. 幸せ日記(弾き語り ver.)
4. 幸せ日記(Instrumental)
5. Home(Instrumental)
幸せ日記(2月10日先行配信)
各音楽配信サイトはこちら https://lnk.to/shiawsenikki