VR演劇『僕はまだ死んでない』延長決定、360度カメラでリアル再現
ウォーリー木下氏の狙い
360度自由な視点で楽しめるVR演劇『僕はまだ死んでない』が31日まで延長されることが決まった。
コロナ禍で家でも観劇してもらおうと企画。上演された作品のオンデマンド配信ではなく、映像で演劇を楽しむことを目的に制作。VR技術を用いて「自分のカメラワーク」で物語を楽しむことができる。
原案・演出を手掛けたウォーリー木下氏は以下の通りに語っている。
――この物語の出発点、着想は?
この企画はまず、VRで演劇を作ろう、というところから始まりました。
私自身も初めてのVRだったので色んな形のVRを体験しましたが、その中でも360度カメラのVR映像にとても惹かれました。その360度カメラを使って、円形舞台の反対、お客さんが真ん中にいて周りを役者が囲む「ドーナツ型」の舞台を作ろうと思いました。つまり、舞台上の真ん中にカメラを置くことで、真ん中にお客さんの視点がある、という形です。
そのお客さんの存在を役者も感じながら話が進んでいく、また、一方的でアクションは起こせないという制約などを考え、当時ちょうど「終末医療」について勉強していたことも重なり、この物語を作りました。
――映像作品でもありますが、本作を“演劇”たらしめる要素とは?
昨年は、無観客配信やアーカイブの配信など、私自身も色んな演劇の配信を観ましたが、あくまでも舞台演劇を記録した映像であって、これまでいつも実際に客席で体験していた「生」の作品とはやはり違うなとも思いました。
どうやったら映像配信でもより演劇に近い臨場感を与えられるか……と考える中で、「お客さんが好きなところを観ることができる」「色々な人たちが一堂に集まって、個人個人の心の中でドラマを楽しむ」というのが演劇の魅力だと思いましたが、それに近いことを、360度カメラを体験した時に感じました。それがこの【VR演劇】の、もっとも演劇らしい部分のひとつかなと思います。
――完成した作品を観ていかがでしたか?
「終末医療」という重たいテーマであり、ズシリとも来るのですが、広田(淳一)くんの脚本によって軽やかな人間ドラマに昇華されていて、良い意味で他人事のようにも感じられ、その距離感がVRにとても合っていたと思います。
終末医療というテーマについては、広田くんと何度もやり取りしながら作り上げました。日本では終末期の患者さんなどが、自分で死、すなわち生き方を選べない状況もある……という難しい現状があり、それに対して問題提起というか、自分が将来そうなった時にどうするんだろう、とも考えていますが。それを「当事者の話にしたい」という思いが広田くんと私の中にありました。
――今後【VR演劇】でやってみたいことは?
たくさんあります。お客さんが能動的に動くことでアクションやドラマが変わっていったり、例えばVRグローブを使ったりなど、もっとインタラクティブ(双方向)なものが作れたら、より演劇として面白くなるなと思っています。
「VR演劇元年」が2020年に始まったと感じています。演劇の豊かな発展につながっていくと思いますし、いちアーティストとしてとても面白い表現だと感じています。これをどんどんブラッシュアップさせ、ここから新しいものが生まれていくのだと思います。ぜひ、怖がらずに試していただけたら嬉しいです。
あらすじ
僕は病室にいた。
父と、僕の友人が何やら話をしている。が、体がぴくりとも動かない。一体僕に何が起こった?
医師らしき声も聞こえる。「現状、一命を取り留めていることがすでに大きな幸運なんです」
……なるほど。そういうことなのか。
デザイナーとしての会社務めを半年前に辞め、油絵に打ち込んで夢だった画家への道を歩み始めた矢先だった。脳卒中で倒れ、自分の意志で動かせるのは眼球と瞼だけ。「やってられるか、バカ野郎!」とたった一言伝えるのに5分以上かかる。
そして病室には、
飄々と振る舞い軽口も叩く父、慎一郎。
兄貴分の幼馴染で、親身になって回復を願っている碧。
離婚の話し合いが進み、新たな生活に踏み出し始めていた妻、朱音。
そして、担当医である青山。
「良く死ぬことも含めての良く生きること」
直人と、直人を取り巻く人々それぞれに、胸に去来する想いがあり…。
【原案・演出】ウォーリー木下
【脚本】広田淳一
【音楽】吉田能
【出演】
白井直人役:内海啓貴 白井慎一郎役:斉藤直樹 児玉碧役:加藤良輔
青山樹里役:輝有子 白井朱音役:渋谷飛鳥 白井直人(幼少期)役:瀧本弦音 児玉碧(幼少期)役:木原悠翔